2020.08.25 議会改革
第11回 自治立法における議会・議員の役割─議員提案条例をどう活用するか─
【コラム:要綱行政等に議会としてどう臨むか】
自治体行政においては、「要綱」の形式により行政活動や事務の基準などが定められ、行政の運営の指針とされたり、時には規制的な行政活動を行う根拠を与えるものであるかのような扱いがなされたりしている。要綱は、法律、条例等とは異なり、外部的な効果をもつものではなく、行政機関の内部規定(いわゆる「行政規則」)にとどまるものであるが、自治体においては様々な問題への対応が要綱によって行われるような状況が見られ、要綱に基づいて行われる行政指導による行政は「要綱行政」などとも呼ばれてきた。
この要綱は、自治体が次々と派生する諸問題に機動的かつ弾力的に対応していくための手段となっており、また、それに基づいて行われる行政指導は、行政機関が一定の行政目的の実現のために住民の自発的な協力を求めて指導、勧告、助言等を行う非権力的な行政活動として、当事者の納得を得ながら、行政需要の変動に臨機応変に対応できるといったメリットもないわけではない。しかしながら、要綱はあくまでも統一的な事務取扱いの基準、行政指導の指針を定めた内部的な文書にすぎない。そして、それにもかかわらず、住民の権利義務にかかわる問題について法律や条例によることなく規律することは、法治主義の観点から問題があるといわざるをえない。実際には、自治体の権力が背景となることで住民の任意性について疑問がある場合も少なくない。
水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしたことが違法な公権力の行使に当たるか争われた武蔵野市教育施設負担金事件では、最判平成5年2月18日民集47巻2号574頁が、要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めた行為は教育施設負担金の納付を事実上強制しようとしたものといえるとした上で、「指導要綱に基づく行政指導が、……市民の生活環境をいわゆる乱開発から守ることを目的とするものであり、多くの……市民の支持を受けていたことなどを考慮しても、……本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざるを得ない」とした(4)。
行政手続法や行政手続条例でも、行政指導の内容はあくまでも任意の協力によってのみ実現されるものであり、それに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないことや、行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず行政指導を継続することなどにより申請者の権利行使を妨げたり、許認可等の権限に関連しその権限の行使を殊更に示して行政指導に従うことを余儀なくさせたりするようなことをしてはならないとしており、これらに反するような要綱による指導は違法となる。
その意味では、要綱は、法律や条例の不備・不十分さや時間的な隙間を埋める補足的・臨時的・暫定的・試行的な手段として位置付け、とりわけ何らかの形で住民等の権利義務にかかわるものについては、要綱による対応は必要やむをえない場合に限り認められるべきであり、条例化できるものはできるだけ条例で定めるようにするのが筋といえる。また、住民の生活や活動に影響を及ぼすような要綱については、その情報を公開することなども必要となってくる。行政手続法・行政手続条例では行政指導指針の公表等について規定していることにも注意が必要だ(5)。
一部の自治体では、行政手続条例の制定を契機として、要綱の条例化の取組みが見られたが、一時的な機運の盛り上がりに終わってしまった感がある。また、要綱の公開は、透明性や予測可能性の確保につながるものの、逆に、内部的なものにとどまらないものとなり、人々がそれを信頼し、あるいは期待して行動することなどにより外部的な意味を認められることにもつながり、法治主義との関係でジレンマを抱える可能性もある。
このほか、合意による契約の形式・手法が活発に用いられ、公害防止協定、宅地開発協定などのように、規制行政の中でその目的を達するために契約の手法を用いるようなことも見られる。そして、その中には、条例によるべき事柄を契約の条項として定めているものも散見され、これについても法治主義との関係が問われうることになる。
執行機関による要綱や契約による対応は、必要に迫られたものであったとしても、議会の側から見れば、議会をスルーするものと捉えられることも少なからずあるはずだ。議会としては、安易に執行機関に対応を任せ、あるいは任せ切りとなるのではなく、要綱や契約による対応に問題意識と関心をもち、それを監視するとともに、必要なものについては条例化することを追求していくことなども必要だろう。
要綱や契約による対応に走りがちな執行機関の側に警鐘を鳴らすのは、議会の役割といえる。