2020.07.27 議会運営
第12回(最終回) 議会での政策形成
政策形成のカタチ
一口に政策といっても、長期的な目標やビジョン、方針の類いから、個別の問題・課題に向けた手段や対応など、その内容には大きな広がりがありますから、議会での政策形成も様々なテーマやカタチが考えられます。
議員提案条例は、議会で形づくられた政策のいわば「カタマリ」です。議会の意思が自治体の意思に直接昇華したものですから、議会での政策形成による果実の最たるものといっていいでしょう。
ただ、実際に議会がイチから条例をつくるのはなかなか骨の折れる仕事です。つくろうとする条例の目的と手段を結びつける社会的な事実(立法事実)を精査し、関係当事者の意見も聴いて制度を組み立て、既存の法令や条例との整合性にも目を配りつつ、法制執務のルールにのっとって条文化するという一連の作業は、実際には多くの職員が分担して現場を見ている執行機関の方がむしろ向いています。議会が提案した条例も、実際に運用するのは執行機関ですから、彼らのポテンシャルに負うところは相当に大きいのが現実だろうと考えられるのです。
時折、議会は長に比べて条例の提案数が極端に少ないと指摘されることがあります。事実としては確かにそのとおりなのですが、ただ、長が提案する条例案の相当数は法令改正に伴う「所要の改正」ですし、実際の制定過程を考えれば「無理からぬこと」でもあるのです。
このように、議員提案条例の制定には難しい面がありますが、政策形成のカタチはこれだけではありません。
例えば、修正案です。長の提出議案の一部が抱える問題を指摘し、これを修正することで、議会の政策を反映させることができます。特に、自治体の政策全体を網羅する予算については、調製・提案の権限は長にあるため、議会側から提案することはできません。その中で、一定の制約はあるにしても(地方自治法(以下「法」といいます)97条2項参照)、議会による予算案の修正は、自治体の業務全般について、議会が考える政策を直接的に反映させる最も現実的な手段の一つだと思います。
また、修正するほどではなくても、執行段階で留意すべき点を指摘する方法としては附帯決議がありますし、議案に関する事柄でなくても、議会が一定の政策を長に示す形として、決議という方法もあります。
政策形成の場
次に、議会としての政策を形成する場についてです。
議会改革の流れの中で、議会での政策形成を意識した場を創設する例が見られます。例えば、大分市議会は、議会基本条例に基づき、政策条例案の策定や市長への政策提言に関する調査研究を行う組織として「議員政策研究会」を置いています。この研究会は議長を除く議員全員で構成され、正副会長と各会派からの代表からなる役員会議を中心に運営されるもので、各議員が持ち寄ったテーマの中から取り組むべき政策課題を選び、推進チームを設置して、課題に関する具体的な調査研究を行います。また、会津若松市議会などの「政策討論会」、大津市議会などの「政策検討会議」も、議員からの提案に基づいて議会として取り組むテーマを決め、議員全員が認識を共有して一定の合意形成を図るための組織です。
名称や構成、運営方法など多少の違いはあるにせよ、これらはいずれも、当該自治体の重要な政策や課題について、「議員の政策」を「議会の政策」にまで高めていくことを企図したものといえます。執行機関から出されたものをチェックするだけでなく、あるいは、議員個人として要望や意見を出すだけでなく、議会としての意思を積極的に示そうという決意も感じられると思います。