2020.07.27 議会改革
第10回 条例をどう使いこなしていくか
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
1 条例の適切な活用
自治立法の中核となる条例をめぐっては、長らく、法律先占論をベースとした国の法令との関係、自治体側の消極的な姿勢や回避志向などから、十分に活用されることのない状況が続いてきたが、地方分権の進展により自治立法の余地が拡大することで、条例を基軸とした自治や行政の展開に対する期待が高まるとともに、そのような取組みも徐々に見られるようになっている。自治体議会については、なお当事者意識を欠くような議会も見受けられないではないが、改めて条例の制定主体であることを認識し、その取組みに主体的にかかわっていくことが求められている(ただし、そのことは議員提案(議員立法)が条例制定の中心となることまで意味するものではないことについては次回で述べる)。自治体として条例をどう使いこなしていくかということを議会においても考えることが必要である。
条例は、自治体における最も効果的な問題対応手段、自治行政の積極的な展開や地域の独自性発揮のための手段であり、それぞれの自治体の自治力を測る一つのバロメーターともなっているといえるだろう。
すなわち、地方自治や自治行政において、条例には、次のような活用・役割が期待されている。
第1に、地域の問題については条例により地域的な解決を図ることである。
現在のように多様化・複雑化した社会では、人々の生活にかかわる地域的・個別的・具体的な問題について国が画一的に対応・規律することは困難となっており、また、適当でもない。地域の問題については、地域の具体的な事情に即した対応が必要であり、全国的な問題となる前にそれぞれの地域において解決されるのが望ましく、そのためにも各自治体での条例による主体的・機動的な対応が必要となる。この点、いまだに国の対応・指示待ちに終始するような自治体も一部に見られるが、そのような中央依存の姿勢から脱却するためにも、条例の制定を通じた自主性の発揮に積極的に取り組んでいくことが求められる。
第2に、創造的な条例を制定することにより地域の独自性を発揮することである。
分権型社会において必要となるのは、いうまでもなく均一性よりも多様性である。自治体においては、それぞれの地域の状況に応じた対応やルールづくり、地域の独自性を模索することが大事となるが、その点で、条例は、重要なツールとなるほか、地域づくりの設計図や住民自治のシンボルなどにもなりうる。そこでは、横並び意識を捨て、それぞれの地域の状況・特性・将来などを考慮しつつ創意工夫をしていくことが不可欠となる。
第3に、それらに関連して、条例の先導性にも目を向ける必要があることだ。
新たな問題や行政需要というのは、多くの場合、まず地域で起こり、地域の問題として解決されなければならず、自治体は、常にそれへの機動的・弾力的な対応を求められることになる。そして、問題に直面した自治体が、それにいち早く取り組み、新たな手法の開発や柔軟な対応を行うことで、それが他の自治体にも広がり、さらに国の法律に取り入れられるようなことも少なくない。自治体では、エリアや対象が限られ、住民のニーズや状況を把握しやすいことから、条例による先駆的・試行錯誤的な取組みを行いやすく、そのような自治体における政策的な試みや努力は、行政全体の発展にもつながるものとして評価されるべきである。その際には、実験的・冒険的な対応といったものも、限界はあるにしても、そのフォローアップを条件として許容されることになるといえるだろう。
第4に、条例は住民自治にとって不可欠の手段であり、それによって住民本位の行政を実現していくことである。
自治体は、住民により身近な存在であり、住民の福祉の向上をその目的とするものである。各自治体は、住民の多様なニーズをより早くより的確に把握し、条例に基づいて行政を展開していく責務を負っているのであり、また、住民の多様な意見や利害を反映し、調整するためには、議会が制定する条例によることが必要であり、条例は住民の意思の統合手段ともなる。しかも、条例により目標が示され、地域の進むべき方向と自治体としての姿勢が明らかにされることで、住民の関心が高まったり、意識改革が進んだり、地域一体感が醸成されたりするようなことも期待されうるのである。そして、そのためにも、条例の制定のプロセスを通じて、透明性や説明責任、住民の参加などが確保されることが不可欠となる。
第5に、条例に基づいた行政を行い、法治主義の強化を図っていくことである。
自治体においては、しばしば「法」の不足が指摘され、「法による行政」の強化の必要性が叫ばれるようになっているが、条例は、その一翼を担うものとして、公正かつ民主的な行政を実現するための重要なツールとなるものである。この点については、本稿の4でも述べる。
第6に、条例によって施策の総合化を図り、総合的に行政を展開することである。
国のような巨大組織の場合には、法令にしても政策にしても行政にしても縦割りとなりがちであるが、これに対し、自治体では、そのような枠を取り払い、分野横断的かつ総合的に政策を展開していくことが可能であり、また、期待されているといえるだろう。そして、
その場合に、条例は、縦割りとなっている国の法令の間をつなぎ、自治の現場で総合的に行政を進めていくための手段ともなりうるのである。
もっとも、条例を以上のように使いこなしていくためには、それなりの体制の整備やノウハウの蓄積が必要であり、条例の位置付け、特性、限界などを理解した対応が求められることになる。そこで、以下において、改めて条例の位置付けや特質に関し確認しておきたい。