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2020.07.27 議員活動

第4回 災害に対するレジリエンスを高める制度と仕組み

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(3)防災教育の位置付け
ア 成人に対する防災教育の充実
 「釜石市鵜住居地区防災センター」の事例では、特に、企業等に属さない地域の高齢者や主婦などの成人に対する防災教育の難しさが浮き彫りにされています。社会生活を長くしている成人は、少なからず固定観念やリスクを過小評価してしまう「正常性バイアス」に
とらわれ、学校での防災教育が一定程度行われている子どもたちと比較して、地域の避難訓練も受動的に参加するなど、災害時のリスクに鈍感になってしまうことが懸念されます。
 その意味では、学校教育を終えた世代にも、地域や職場を通じて、「災害リスクへの判断力とリテラシー」を鈍らせない「成人に対する防災教育」を充実させていく必要があります。そのためには、地域の自主防災組織の活動と連携した取組みも有効と考えられます。
イ 地域の災害リスクに応じた防災教育の実施
 近年の自然災害の事例を見ると、気象条件や地形、地質などの地理的な状況、交通事情や産業の状況等の社会条件、都市か地方かなどにより、地域的な特徴が見られます。
 したがって、防災教育の内容も一律ではなく、想定される災害の地域特性を踏まえた防災教育を地域住民、行政、教育機関等が連携して実施することが重要です。
ウ 防災教育の質の向上
 東日本大震災以降、防災教育への意識が飛躍的に高まっていますが、その内容をより能動的なものにしていくことが重要です。津波常襲地の三陸沿岸には「津波てんでんこ」という言葉がありますが、これは、津波から逃げる際には、家族等のことは念頭に置かず、各自が自らの判断で命が助かるように懸命に避難すべきことを表しています。この言葉が示すように、防災教育では、単に災害の伝承などに終わらせず、住民一人ひとりが的確な判断力を身につけることができるよう、常に防災教育の質の向上を図っていくことが必要です。そのためには、防災教育のPDCAを回していくための評価の視点も重要です。

まとめ(議員としての着眼点はここだ!)

1 自治体の防災政策への市民参画の促進を
 新型コロナウイルスが猛威を振るう中、今年も温暖化の進行による豪雨災害が九州、岐阜、長野を中心に大きな被害をもたらしています。このように、想定外の複合的自然災害に対して、被害を最小限に抑えるためには、行政の力だけでは限界があります。普段から市民に対して防災に関する情報を公開し、防災政策への参加意識を高めることが重要です。
 市民の参加度を高めることが、結果的に自主防災組織の充実や、地域の成人に対する防災教育の推進にもつながると考えます。

2 まちづくりと防災教育を連携させよう
 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では、被災前の市街地を10メートル以上かさ上げした土地に新しい市街地を整備しつつあります。その中心部に、海岸部から高台に延びる「シンボルロード」を整備し、津波の際の避難路としています。道路の両脇には市民が植樹をしたり、避難路であることを示す石碑を設置するなど、防災意識を市民に浸透させる取組みを道路整備に併せて行っています。また、同市では、NPOが津波の到達点に桜の苗木を植樹する活動をして、後世の市民にも避難の目安を分かりやすく示しています(6)
 このように、まちづくりの中で避難路やリスクを明確にし、その整備に市民が参画することは、防災教育の面でも効果が期待できます。従来、自治体では、まちづくりと防災教育の施策の連携はあまりないと思われますが、防災意識を市民に根付かせる面から有効と考えられます。

3 避難訓練中心の地域防災教育からの脱皮を
 東日本大震災を契機に、学校における防災教育は、教材が逐次整備されるなど相当程度充実されてはいますが、地域や職場での防災教育は、年に1〜2回程度の避難訓練を行うというのが大部分ではないでしょうか。避難訓練自体は、災害時の避難行動を徹底させる意味で大切ですが、地区住民や職場の従業員を能動的な防災行動に向かわせるには、避難訓練だけでは難しいと考えられます。地域や職場の現状から、それぞれのリスクを考え、気づきや改善が連鎖する仕組みをつくっていくことが大切です。

 地域や住民に身近な存在である地方議員の皆さんには、このような観点から、地域に居住する多様な人々の「防災に対するリテラシー」が高まるような地域づくりの中核になっていただきたいものです。
 

(1) 例えば、北海道、東北の太平洋沿岸で巨大地震が発生した際の津波の高さは最大で東日本大震災のときの2倍程度の約30メートルになるとの推計が、内閣府の有識者検討会から2020年4月21日に公表されるなど、新たな科学的知見により、災害の想定は変更が不可避です(朝日新聞2020年4月30日参照)。
(2) 内閣官房国土強靱化推進室「国土強靱化地域計画策定ガイドライン(第7版)基本編」(2020年6月)20頁参照(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/pdf/guideline7_kihon.pdf)。
(3) 「自主防災組織」という用語は1963年の政府の防災基本計画において使われたのが、公的文書では最初とされます(黒田洋司「『自主防災組織』その経緯と展望」地域安全学会『地域安全学会論文報告集(8)』(1998年)254頁参照)。
(4)釜石市における児童生徒への防災教育については、片田敏孝『人が死なない防災』(集英社、2012年)等を参照。
(5) 詳細については、釜石市鵜住居地区防災センターにおける東日本大震災津波被災調査委員会「釜石市鵜住居地区防災センターにおける東日本大震災津波被災調査報告書」(2014年3月)を参照。
(6) NPOの桜の植樹活動については、「認定特定非営利活動法人桜ライン311」ホームページを参照(https://www.sakura-line311.org/)。

 
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