2020.06.25 議会改革
第9回 自治立法権に関する理解を深める
【コラム:法律主義と条例】
条例も、国家の法体系・法秩序内に位置するものである以上、憲法の基本的人権の保障に反してはならないことは当然のことである。条例で人権を制限することも可能とされているものの、法的な規律に関し憲法がその規定上「法律」によること(法律主義)を明示しているものについて、条例による規律が可能かどうかが問題となる。これについては、自治体の自治立法権を重視する考え方に立ち、議会が制定する条例を法律に準ずるものと捉えるなどして、いずれの場合にも条例での規定を認める考え方が学説上は一般的となってきているが、必ずしも議論が十分に詰められたものとはなっていないところもある。
例えば、憲法29条2項は財産権法定主義について定めるが、条例による財産権の規制については、財産権の内容と行使とを分け、財産権の内容の定めは条例ではできないが財産権の行使の規制は条例でも可能とする考え方と、その形態を問わず条例による財産権の規制を認める考え方などがあり、学説上は後者が多数説といわれる。条例は自治体議会という民主的な基盤に立って制定されるものであるから実質的には法律と差異がないこと、公共の福祉を理由とする制限が精神的自由の場合に比べ緩やかな財産権について規制を認めないとするのは均衡を失することなどを理由とするものだが、財産権の基本的内容については全国一律に定められるべき場合が多く、そのようなものまで条例で定めることを認めるものではないようであり、そうであれば前者とそれほど変わるものではない。
議論の焦点は、限界があることを前提に、財産権について条例で現実に規制できるのはどこまでかというところにシフトしてきている。なお、判例は、奈良県ため池保全条例に関する最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁で、その理由付けや射程が必ずしも明確とはいえない面はあるものの、条例による財産権の規制を認めている。
また、憲法31条の罪刑法定主義との関係については、①条例での罰則の定めは憲法94条によって直接授権されたものとする考え方、②条例は住民の代表機関である議会が定めるもので法律に準じて考えることができ一般的な委任でも構わないとする考え方、③条例に罰則を委任する場合にも明確な委任が必要だが条例の民主性から委任の個別性・具体性がある程度緩和されるとする考え方などが見られる。
問題は、条例による罰則の定めについて規定する地方自治法14条3項をどう解するかということになるが、②と③の考え方は、法律による委任の規定が14条3項とされるのに対し、①の立場では、それは条例で定めうる罰則の種類と上限を定めたにすぎないということになる。学説上は①も有力だが、判例は、最大判昭和37年5月30日刑集16巻5号577頁で、「条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」として③の考え方を採用している。
さらに、憲法84条の租税法律主義との関係については、①個別的な法律の委任がなければ地方税の賦課徴収に関する事項は条例で規定できないとする考え方、②条例は憲法84条にいう「法律」に含まれるとする考え方、③地方税は憲法92条・94条の問題であり、憲法84条は国税に関するものであるとする考え方などがあり、最近では②の考え方が有力になりつつある。②や③の立場は、憲法が自治体に対して自治権を保障している以上、その基礎となる自治財政権、そしてその中心をなす課税権も保障されるとの考え方をベースとするものであり、このような立場からは、地方税については租税条例主義が妥当するとされる。しかし、判例は、神奈川県臨時特例企業税条例事件・最判平成25年3月21日民集67巻3号438頁が、憲法上、租税法律主義の下で、法律において地方税の税目、課税客体、課税標準、税率等の準則が定められることが予定されているとしており、憲法上、自治体が課税権の主体となることを認めてはいるものの、租税法律主義から地方税の基本的事項については準則として法律で定めることが必要としているように受け取ることもできないわけではない。
なお、地方税法については、国と地方との間での合理的な税源の配分、各自治体の住民の租税負担の均衡、自治体間における地方税の課税権の調整などの観点から規定する準拠法・標準法などとされており、自治体は、地方税法の規定をもって地方税を賦課徴収することはできないものと解されてきている。