2020.06.25 議会改革
第9回 自治立法権に関する理解を深める
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
自治体議会が立法機関であることを自負するのであれば、その構成員である議員は、自治立法権についてきちんと理解しておくことが必須であり、その位置付け・意義・限界を見据えて立法に臨むことが、適切な権能行使にもつながるといえるだろう。ところが、自治立法権について、運動論的なものはともかく、理論的に整理された形で論じられることが意外と少ない。少々理屈っぽくはなるが、その点について丁寧に見ておきたい。
1 自治立法権と議会
地方自治体が、地域における共同体であるだけでなく、統治団体であることは、ほぼ共通の理解となってきているように思われる(1)。そして、統治団体として活動を行っていくためには、その根拠となる法が必要となり、その法を生み出す力が立法権である。日本国憲法は、国家権力のうち、立法権と行政権については、国と自治体に垂直的に分割し、自治体に対し自治権として付与するとともに、自治体の議事機関として議会の設置について定めている。
民主的統治団体においては、議会が、国民や住民の代表機関として、その政治的な意思を決定するのであり、その主要な権能として立法権を担うことになる。
以上のようなことから、自治体議会は、立法機関と位置付けることができるのである。自治体議会をめぐっては、伝統的に行政機関と位置付ける議論が有力であったが(2)、自治体の長も規則制定権をもち、自治体議会が様々な行政的権限を有しているとはいえ、そのような議論は、地方分権の流れも相まって、ようやく克服されつつある。
このように、自治体議会は、地域における唯一の立法機関とはされていないが、自治立法の中心的主体であり、自治体議会が制定する条例は、自治立法の中核となるものである。
条例制定権は、自治体に対し、憲法によって直接かつ包括的に保障されたものであり、条例は、独自の権能に基づいて国の法令とは独立・別個に制定され、その制定について国の法律の個別の委任などは必要ない。そして、条例は、法律と並ぶ自治体における「法源」(法形式)として、自治行政に対する授権・規律を行い、法による行政(条例による行政)の基盤ともなる。
条例は、自治体において住民の代表機関・意思決定機関である議会の審議・議決を経て制定される最も民主的な法形式であり、自治立法の最上位・中心に位置付けられるものであり、自治や政策を推進し実現する主要な手段となる。
もっとも、自治体が統治団体であり、自治立法権を保障されているからといって、自由に法を生み出せるわけではなく、様々な法的制約を受けることになる。自治立法権は、基本的に自治(自治体の事務・区域)の範囲に限られるほか、憲法は、国の法律の範囲内でこれを認めている。法の理念・原則や憲法上の原理・人権規定に反することができないことも当然である。他方、自治体が、統治(自治)を行うに当たっての根拠・裏付けとなる法には、国法があるのであり、自治行政は国会が制定する法律によっても規律されることになる。都道府県と市区町村の自治立法権の役割・調整ということも念頭に置く必要がある。
また、条例は、自治体の事務に関して制定される自主的な法であるが、団体の内部規律としての内部法ではなく、憲法によって統治主体性を承認された自治体の法であり、国法とともに、国家の法体系・法秩序を形成し、裁判所においてその適用や実効性を保障されるものである(3)。そして、その点からも、自治立法権は限界付けられ、制約を受けることにもなる。
なお、地方分権改革の進展に伴い、法律により定めや基準などを条例に委任することが増えているが、これを国の行政機関の命令への委任と同視すべきではなく、あくまでも立法に関する役割分担と捉えるべきであって、そのための定めは概括的なものとすることも許容(むしろ要請)されるといえるだろう(4)。