地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2020.06.25 議員活動

第3回 災害が発生したときの制度と仕組み

LINEで送る

まとめ(議員としての着眼点はここだ!)

1 市町村での災害時の判断をサポートする体制が必要
 災害発生時には、避難勧告、避難指示の発令周知や避難所の開設などを担う、市町村の役割が特に重要です。現場としての市町村の判断を的確かつ迅速なものとするために、国や都道府県では、避難勧告等の判断基準の標準化や専門的・技術的な支援の取組みをしていますが、市町村での判断をサポートする参謀機能と人材育成が重要です。

2 合併により広域化した市町村の地域事情に合わせた防災体制を検討することが必要
 市町村合併による市町村の広域化も、災害時の迅速な対応を阻害する要因の一つです。筆者が調査した2018年の西日本豪雨の被災地である愛媛県の宇和島市と西予市は、いずれも平成の大合併で市域が広域化した自治体です。豪雨の際に、宇和島市では海岸部に山地が迫る地形に阻まれ、大規模な土砂崩れが発生した吉田地区の現場は一時孤立状態になりました。また、西予市は、旧5町が合併した自治体ですが、東は宇和海から西は四国山地までの東西約50キロメートルの長い市域を有しているため、650棟が浸水する水害が発生した野村地区への指示連絡は物理的に相当の困難が生じたと推測されます。広域化した市町村では、情報連絡体制のほか、職員の人事配置、地域の自主防災の仕組みなどを特に留意する必要があると考えられます。
防災復興3
3 災害時の自治体の権限を十分に活用できる仕組みづくりが必要
 災害時に極めて重要な役割を担う自治体には、法律上、私権の制限も含む相当強い権限が付与されています。しかし、実際に強権発動された事例はほとんどありません。万一の際の住民の安全確保を考えると、付与された権限が十分に行使できる環境づくりが大切です。実際の権限行使に当たって、より具体的な要件や手続、住民の理解を得るための事前事後の措置などについて、自治体の現場に合わせたルールが重要です(6)。権利制限に関わるルールづくりには、条例が必要です。自治体の中には「防災条例」を制定しているところもありますが、条例の中に、このようなルールをあらかじめ定めておくことも大切と考えます。
 災害対策基本法は、毎年度の災害発生による教訓を生かして、改正が頻繁に行われていますが、自治体現場から見て、地域事情に合った細かいカスタマイズが必要な点もあります。それは、自治体ごとの「地域防災計画」や「防災条例」などで補っていくことが可能です。
 地方議員の皆さんも現場視点を念頭に、もう一度、「もし……が起こったら」という自問を繰り返しながら、常に自らの自治体の災害対策をシミュレーションしてみることが大切です。

(1) 自分にとって何らかの被害が予想される可能性があっても、正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、「自分は大丈夫」などと過小評価すること。連載第1回「防災・復興学へようこそ」(2020年4月27日号)参照。
(2) 自衛隊が通常の災害時に出動する場合は、都道府県知事等による防衛大臣に対する派遣要請(自衛隊法83条1項)と、災害対策基本法68条の2第2項の市町村長からの情報提供に基づく防衛大臣による部隊派遣(自衛隊法8条)の二つの方法があります。なお、大規模地震対策特別措置法、原子力災害対策特別措置法による災害派遣は、それぞれの本部長である内閣総理大臣の要請による災害派遣が別途規定されています。
(3) 災害派遣の際の自衛官の権限として、自衛隊法94条1項では、警察官職務執行法4条(避難等の措置)、6条1項、3項、4項(他人の土地等への立入)が準用されています。
(4) 2019年10月の台風19号の際には、東京湾岸の東部の足立、江東、墨田、葛飾、江戸川の5区は、事前に計画していた広域避難を避難者の多さや交通機関の計画運休などのため断念せざるをえなかったとされています(「(てんでんこ)ゼロメートル地帯」(朝日新聞2020年1月28日、29日付け)など参照)。
(5) 農地上の災害廃棄物を農地の災害復旧事業と一体的に行う場合は、各自治体の「農地災害復旧事業分担金徴収条例」などにより、被災農家が受益者負担として一定の分担金(事業費の数パーセント程度)を求められることがあります。なお、農地の場合でも生活環境上の支障があるときは、災害廃棄物処理事業として実施することができます。
(6) 災害現場での強制執行、即時強制は、一般的には「事実上の行為」(行政手続法2条4号イ)又は「公衆衛生、環境保全、防疫、保安その他の公益に関わる事象」の発生の現場での権限行使(同法3条1項13号)として行政手続法の埒外(らちがい)と解されますが、自治体での実務を考えると、行政手続に準じた権限行使の具体的な基準や対象者の理解を得るための一定の仕組み等が必要と考えます。
 

 
バナー画像:
筑波山より関東平野 ©E0170クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))を改変して使用

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る