2020.06.25 議員活動
第3回 災害が発生したときの制度と仕組み
3 国における災害時の防災組織
(1)大規模災害時に設置される非常災害対策本部
内閣総理大臣は、大規模な災害が発生し、「特別の必要」があると認められる場合に、防災担当大臣を長とし、関係省庁の局長クラスで構成する非常災害対策本部(24条1項)を設置し、災害応急対策の方針策定、情報収集、連絡調整などを行うこととされています。これまでの設置例を見ると、都道府県をまたがるような大規模な災害が発生した際に設置されています。また、現地における状況把握と迅速な災害対応のため、非常災害現地対策本部を設置することができます(25条6項)。
(2)巨大災害時に設置される緊急災害対策本部
内閣総理大臣は、「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合」で「特別の必要」があると認められるときは、閣議決定の上で内閣総理大臣を長とし、すべての国務大臣等を構成員とする緊急災害対策本部(28条の2第1項)を設置し、政府としての災害対策の方針策定、関係機関の調整等の業務を行うこととされています。また、現地における対応のため緊急災害現地対策本部も設置できます(28条の3第8項)。東日本大震災では、緊急災害対策本部が初めて設置され、宮城県に緊急災害現地対策本部が、岩手県・福島県には現地連絡対策室がそれぞれ設置されました。緊急災害対策本部は、国家的な見地から甚大な被害が想定される災害に際して設置されるものと考えられます。
4 後方支援としての役割を担う国の対応
災害の発生時において、現場での応急対応は、自衛隊の災害出動(2)を除くと、基本的には地元都道府県と市町村に多くの部分が委ねられ、政府の応急対応は、自治体の対応が円滑にできるよう、後方支援として財源、高度専門人材、物資、情報の提供と、都道府県をまたがる広域調整がメインとなります。この中で、大規模災害の発生時には、自衛隊の災害出動、広域調整による他の自治体からの警察、消防、医療の支援は、人命救助等の実行力、機動力として極めて有効です。東日本大震災の際にも、地震発生後、2〜3時間程度で全国各地からヘリコプターで先遣隊が被災地に派遣され、救助活動や傷病者の搬送、情報収集などに絶大な効果を発揮しました。自治体としては、これら自衛隊等との連絡調整を現場レベルでどのようにするか、すなわち受援体制をどうするかが重要です。
このほか、法律上は、大規模災害時の措置として、国の経済や公共の福祉に重大な影響を及ぼすような異常かつ激甚な災害に際して、災害応急対策の推進や国の経済秩序の維持などのために、内閣総理大臣が、国会の承認の上で関係地域に「災害緊急事態の布告」を発し(105条1項、106条1項)、政府としての対処基本方針を定めることとされています(108条1項)。災害緊急事態が布告されると、国民への生活物資の買い占めの自粛等の協力要請(108条の3第1項)のほか、生活必需物資の配給等、価格統制、金銭債務の支払延期等の緊急措置を講ずることができるとされ、違反者に対する罰則の適用もあります(109条1項、罰則は同条2項)。なお、東日本大震災においては、初めて緊急災害対策本部が設置されましたが、災害緊急事態の布告には至りませんでした。
布告に関しては、実務的には、緊急措置の具体的な発動要件をどうするか、誰がどのように運用するか、当該緊急措置による損失等の補塡の具体的な基準をどのようにするか、自治体との権限や役割の分担等をどうするかなどの法的に不透明な点も多く、実際の運用を考えると数多くの検討すべき課題があります。また、法律の根拠や事案としても異なりますが、今回の新型コロナウイルス感染症のような感染症がまん延した場合の、政府、自治体の危機管理のあり方も、今後の議論の参考とすべき点があります。