2020.06.25 議員活動
第3回 災害が発生したときの制度と仕組み
関東学院大学法学部地域創生学科教授 津軽石昭彦
第3回(第5講、第6講)のポイント
1 災害発生時には、自治体、特に市町村の役割が重要であり、避難勧告等の指示・伝達を適時適切に行うための仕組みを効果的に活用して的確かつ迅速に対応することが求められる。
2 災害時には、自治体の首長には大きな権限が付与されているが、効果的に行使する仕組みは十分とはいえない。
3 被災直後には、被災者の保護のため、自治体では多くの調整事項と現場業務が錯綜(さくそう)することから、平時からのシミュレーションが必要である。
第5講 防災の基本的法制度②──災害対策基本法(その2)(災害時の対応)
災害が発生する可能性がある場合又は災害が発生した場合の対応については、前回(2020年5月25日号)でも紹介した「地域防災計画」によって、個別の自治体における具体の取組みが決められていますが、災害対策基本法によると、次のような対応が定められています。
1 自治体における災害時の防災組織
(1)災害対応の司令塔としての災害対策本部
災害が発生し又は発生するおそれがある場合、災害対策基本法(以下、この条文を指摘する場合、その条名のみを記します)の規定に基づき、自治体では、「防災の推進を図るため必要があると認めるときは」(都道府県は23条1項、市町村は23条の2第1項)、首長を本部長とし、関係部局長等で構成する災害対策本部を設置し、組織の縦割りを超えた全庁的な災害応急体制を立ち上げることとされています。災害対策本部の設置については、実際は、地域防災計画に設置基準が明確に定められ、例えば地震の場合の震度や水害の場合の河川等の水位などにより、基準を満たした際には自動的に本部が立ち上がる仕組みとなっています。
災害対策本部では、災害に関する情報収集(都道府県は23条4項1号、市町村は23条の2第4項1号)、当面の災害応急対策の方針決定と実施(都道府県は23条4項2号、市町村は23条の2第4項2号)、関係機関等との連携・調整などを行うこととされています。
つまり、災害発生時の自治体における司令塔として、当面の応急対応に関する方針決定から実施までを担う機関ということができます。
また、自治体によっては、地域防災計画に基づき、災害対策本部の設置に先立って「災害警戒本部」を立ち上げるところもあります。これは、防災関係の幹部職員が参集し、情報の収集や伝達体制に万全を期し、災害発生時の初動を円滑にするものです。
(2)災害対策本部の機能をアップさせる事務局機能
災害対策本部において迅速で的確な方針決定と実施が行われるためには、災害対策本部をサポートする事務局体制が極めて重要です。多くの自治体では、災害対策本部が立ち上がった際の情報収集・分析、資料作成などの大量の事務は、発災当初は、基本的に防災担当課が行っているようです。
しかし、東日本大震災や2019年の台風19号災害などのように、長期にわたる対応が必要な大規模災害の場合、首長や本部における災害応急対策の戦略的な方針決定をサポートする参謀機能と持続可能なマンパワー体制の充実が求められます。また、大規模災害の場合、自衛隊や全国の自治体から多くの応援が派遣されますので、これらを有効に機能させるための受援のコーディネートも重要な業務です。
この中で、参謀機能については、自衛隊や警察、消防などの経験者が自治体の防災担当部署に配置される事例が最近多くなっています。自衛隊等の経験者は、危機管理についての専門家として、自衛隊等との連絡調整、首長への応急措置の提言などを行っています。任用数も増えており、自治体側の専門人材の不足を補っているといえます。
一方、マンパワーの確保については、他部局の応援体制などで行われていますが、十分な体制が整うまでのスピードには、自治体により差があるように見受けられます。
防災の専門家を確保し、災害時の組織の壁を越えた応援体制を迅速に構築できるかは、まさに首長を中心とする幹部のリーダーシップによるところが大きいといえます。