2020.05.25 政策研究
第2回 近接性(その1)
行政的距離
もっとも、政府に用事があるとしても、本庁まで直接出かける必要があることは少ないだろう。いわゆる現場出先機関や地域施設で事足りることも多いだろう。これは、個々の住民が自分から行政に出向くときだけではなく、行政が住民に接触するときにも、同じことがいえる。現場出先機関や地域施設を張り巡らせれば、近接性及び接近性を高めることはできる。例えば、地域・地区ごとに、支所・出張所や市民センターなどがあれば、住民票を市区役所/町村役場の本庁にとりに行かなくてもよい。さらにいえば、コンビニエンスストアや郵便局でとれれば、もっと近場で用が足りるだろう。自宅からオンライン申請で自宅にいながら取得できれば、距離はゼロである。
地理的距離としての近接性は、自治体がどのような現場出先機関や地域施設を地理的に張り巡らせるかによって、変わってくる。もちろん一般的には、現場出先機関や地域施設を張り巡らせるとしても、よりきめ細かく配備できるのは、市区町村であろう。都道府県や国も自らの現場出先機関を張り巡らせているが、しばしば、その配備は市区町村よりはきめが粗くなるのが普通である。
もっとも、一概にそうとはいえない。かつて、郵政が国営事業であったときには、国の出先機関である郵便局(簡易郵便局・特定郵便局なども)が、全国津々浦々まで張り巡らされていた。その意味で、国だからといって、市区町村より遠いとは限らない。投函(とうかん)するポストの数は郵便局以上にたくさんある。さらに、自宅まで配達されるという意味では、最も近接性が高いといえる。ただし、小泉政権の政策判断である郵政民営化によって、国の出先ネットワークが失われただけである。その結果として、国は国民から近接性を失った。前提条件なしに、自治体が国より近接性が高いというわけではない。
また、市区町村と都道府県の関係も、市区町村の方がきめが細かいとは限らない。例えば、警察は都道府県の組織である。各地に警察署が配備されている。警察署数は1,159であり市区町村数より少なく、それゆえ一般に、警察署の管轄は複数市区町村に及ぶが、同一市区内に複数の警察署が存在することもある。さらに、交番・駐在所の数は市区町村よりもはるかに多く、交番だけで6,000を超える。市区役所/町村役場よりは交番・駐在所の方が近い存在のこともある。【つづく】
(1) 中央府省は霞が関、国会は永田町というように、国を代表すべき「中心」自体が地理的に一致していない(なお、防衛省は新宿区市谷(市谷本村町)である)。もちろん、ともに千代田区内にあるので、近接しているとはいえる。あるいは、二つの中心を持つ楕円(だえん)ということかもしれない。ちなみに、国の中心は「首都」、県の中心は「県庁所在都市」、「県都」と呼ばれることもある。では、「首都」はどこなのかというと、意外に難しい。「皇居」という言い方もあるが、国民統合の象徴機能である以上、国の「中心」とは言い切れない。そこで、首都移転を法律化したときには、「国会等の移転に関する法律」が1992年に制定された。同法では、「政治、経済、文化等の中枢機能」(前文)とした上で、「国会並びにその活動に関連する行政に関する機能及び司法に関する機能のうち中枢的なもの(以下「国会等」という。)」(1条)と定義された。「国会等」という用語では「国会」に焦点化したようにも見えるが、国会・行政・司法機能の中枢ということであり、国会機能には限定していない。最高裁判所は隼町(千代田区)である。
(2) いわゆる乗換検索サービスで簡単に調べると、松戸駅(松戸市役所)から、千葉駅(千葉県庁)・新宿駅(東京都庁)・霞ケ関駅(中央省庁)・国会議事堂前駅(国会)への時間距離は、それぞれ、60分程度、50分程度、40分程度である。もちろん、日付・時間帯によっては多少の差異がある。ちなみに、筆者の場合も、自分の居住する市役所よりも、隣の市の市役所に行く方が時間距離(地理的距離)は短い。さらにいえば、自分の居住する市役所よりも、都道府県庁に行く方が、時間距離は短い(地理的距離は長い)。なお、中央府省は、市町村や都道府県よりは、時間距離・地理的距離は遠い。