2020.05.25 議会改革
第8回 議会審議のあり方─どのようにして決めるか─
4 表決の責任
議会の議員は、議会での審議に参加して、発言し、表決を行う権利を有するとともに、義務を負う。
会議に正当な理由なく欠席した場合には、懲罰の対象となりうるのであり、また、発言についても、積極的に討議に参加することは政治的な義務であり、国民・住民に対する責任でもある。問題は、表決において、常に賛否を明らかにすることが義務といえるかどうかである。
この点、議員は代表である以上、その行動が常に国民・住民に明らかとなるよう議案に対し積極的に意思表示を行う責任があり、棄権は政治道徳的には許されないとしたり、棄権を議員の職責に反する違法な行為とする主張も見受けられる。しかし、たとえ政治的に好ましくない面があるとしても、法令上明文の禁止規定もないのに、棄権を法的に認められないとするのはさすがに行き過ぎだろう。衆議院の先例でも、表決権はこれを放棄できるとしているところである。もっとも、棄権を認める場合でも、事実上消極的に認めるにすぎず正式の意思表示として認めることはできないとする立場と、棄権を独立した意思表示として認めるべきとする立場がある。
ところで、多数決の基礎の定め方には、①会議体の構成員全員の数とする方法(全員(現在員・定数)多数制)、②表決の際の出席者の数とする方法(出席者多数制)、③表決において投ぜられた可否の有効投票数とする方法(投票者多数制)がある。自治体議会の意思については、出席議員の過半数で決するものとされ、委員会の意思についても出席委員の過半数で決するものとされているが、その「出席議員」の意味に関しては、棄権や白票等の無効票の取扱いなどをめぐって、従来から議論の対立が存在する。
一つの考え方は、棄権や無効票は「出席議員」には含まれず、投票者多数制が採用されるべきとするものである。過半数で議事を決することの趣旨を、表示された賛否の意思のうちの多数の意思に重きを置くものと捉え、棄権や無効票は多数決の算定の基礎から除外されるべきであり、棄権等を「出席議員」の中に含めた場合には結果としてそれを反対の意思を表示した者と同視することになるが、それは棄権を認めたことと矛盾し不合理であるとする。なお、その場合に、棄権者・無効投票者を定足数からも除外するかどうかは、表決において棄権等をしてもそこに出席して議事に参加したことは無意味ではないとして定足数には棄権者・無効投票者も含むとする立場と、議決について少なくとも定足数の過半数の賛成を要求するものと理解した上で、棄権者等は定足数からも除外されるべきとする立場がある。
もう一つの考え方は、出席者多数制に立ち、棄権・無効票も「出席議員」に算入すべきとするもので、無効票は出席した者の投票であり、棄権した者も出席したことに変わりがないのであるから出席議員に算入されるべきこと、棄権や白票は少なくとも議案に賛成ではなく反対者に数えても不合理ではないこと、投票者多数制では場合によってはごく少数で議事が決せられることになりかねないことなどを理由とする。
このような議論の対立の背景には、多数決について、あることをするかしないかの二者択一の問題であるとして積極的に示された賛成と反対の意思を比較しその多数の者の意思によって会議体の意思が決定されるべきとするのか、それとも、あることを決定するためにはそれを積極的に支持する者が半数を超えることを必要とすべき(半数を超えなければ現状維持)とするのかといった基本的な考え方の違いがあるほか、多数決における棄権の評価の問題も絡む。
このような棄権等の取扱いに関する考え方の違いは、賛否がきっ抗していたり大量の棄権者などが出たりした場合には実際上も結果の相違をもたらしうる。この点、国会では、少なくとも、棄権を独立した意思表示として積極的に認めてはおらず、多数決の算定においてその存在を意識した取扱いを行っていない(9)。これに対し、自治体議会については、議論の対立があり、行政実例は、地方自治法113条の「出席」と116条の「出席議員」には棄権や無効票も含まれるが、議長の裁決権の前提となる「可否同数」については棄権や白票の存否にかかわらず可と否が同数の場合とする(10)。また、標準市議会会議規則では参考(73条2項)として無記名投票による表決、標準町村議会会議規則(84条)では投票による表決において、賛否を表明しない投票及び賛否が明らかでない投票は否とみなす旨規定している。
ちなみに、欧米の多くの議会では、投票者多数制が採用されているが、表決の方法については、日本の国会とは異なり、起立を求める方法による場合でも可とする者だけでなく否とする者も交互に起立させる方法や、棄権についても意思表示を認める方法を採用しているところも見られる。
いずれにしても、議員が議案についてどのような発言をし、どのような行動・判断をしたかということは、議員の活動の評価や次の選挙での判断材料として重要な意味をもつのであり、審議の公開、とりわけ記名投票を行った場合の議員の賛否の結果については公開することが重要である(11)。