2020.05.25 議会改革
第8回 議会審議のあり方─どのようにして決めるか─
2 審議としての討議のあり方
審議の方法やあり方については、本会議・委員会ともに、地方自治法は規定しておらず、それぞれの議会に委ねられており、この点については会議規則で定められるほか、慣行、慣例などによっているのが一般的であるが、その多くが質疑と討論の手続によることとしている。そして、そこにおいて多くの時間が割かれ、審議の主要な部分を占めているのが質疑であり、討論は委員会と本会議でそれぞれ採決を行う前に賛否を表明するだけのものとなっている。
質疑は、議題となった議案についてその疑義を解明するために、議案や事実に関する説明や見解の表明を求める発問とこれに対する答弁により構成され、一般に議案の提案者や執行部に対する質疑応答の形で行われる。
そもそも、議案の提出者については、その構成員かどうかにかかわらず本会議や委員会に出席して、その必要性・合理性について、それを支える社会的・経済的・政治的・科学的な事実(立法事実)を示しながら、説明し論証することが求められる。その場合に、その最も基礎的な資料となり提出者の判断を端的に示すのは議案そのものであるが、そのほか、審議に際しては各種資料も配布される(6)。しかし、それらの資料だけでは判断を行うのに十分ではなく、また、審議入りに際して行われる議案の説明は、提案の理由とその内容について説明する重要な機会ではあるものの、あらかじめ配布されている文書を読み上げるだけの形式的なものとなっている。
このため、議案について疑義を質(ただ)し、その必要性や合理性について検討するための情報を得たり、議論したりすることが必要となるのであり、そのような機会となるのが質疑といえる。質疑は、提案者に説明責任を果たさせる上で重要なプロセスとなっているだけでなく、執行部側との議論を通じて行政を枠付け、コントロールするといった意味をもつ。他方、提出者の側にとっても、質疑は、その内容をデータ等も示しつつ詳細に説明し、自己に有利な心証形成に向けて働きかける重要な機会・場となる。
自治体議会において、成立議案の多くは長提出のものであり、それ以外の議案の場合にも執行部に対し質疑が行われることが少なくない。このため、質疑は、執行部に対するものが大半を占めることになり、その答弁を行うのは、長、行政委員会委員長をはじめ執行部側の幹部職員などである。
その場合に、本会議における質疑は、回数や時間などの面からの制約が多く、一括して質問と答弁がなされる形がとられることが多い。
これに対し、委員会における質疑は、一問一答の方式で行われ、かつ、委員が自由に発言しうることが建前とされ、会議規則でも、委員が自由に質疑し意見を述べることができる旨が規定されているのが一般的である。
しかしながら、実際には、委員であれば誰でも自由に質疑を行えるわけではなく、委員の発言の順位があらかじめ会派順などにより決められ、質疑時間も割当制となっており、時間の配分は各会派の所属議員数などに応じたものとされることが多い。このため、委員会の審査では、議案に関する各論点や問題点ごとに、あるいは逐条により、委員が議論し、疑義を究明するといったことは行われておらず、各委員が所属会派などを代表して持ち時間の中で質問し、意見を述べるにとどまっている。その結果、現実の委員会での質疑は、一方通行的な議論となることが少なくなく、また、議論が細切れとなり、同じような質問が何度も繰り返されるような状況(質疑の分断と重複)が生じているほか、ある委員の割当時間中は他の委員は発言できず、ひたすら質疑のやり取りを聞いているだけであり、質疑時間の割当てのない委員はその議案について発言する機会すらもたないことにもなる。そこでは、委員会の本来の持ち味であるはずの弾力的な審査・自由な発言といったことが十分に生かされているとは言い難い。
加えて、議員と執行部側との知識や情報の格差などから、執行部優位の審査となっていることなども指摘されている。
このような質疑中心の審議スタイルは、旧憲法下の帝国議会において明治の末頃に確立したものといわれ、それが国会にも引き継がれ、自治体議会にも広がることになったものである。これには、全国三議長会の標準会議規則の影響なども指摘されている。
以上のように、日本においては、国会にしても、自治体議会にしても、行政府や執行部に対する質疑中心の審議となり、討論についてはその名に値しないような賛否の意見表明を言い放しの形で行うだけの形式的なものとなるなど、議員間の討議はほとんど行われていないのが現状である。そして、このような審議スタイルは、議員間の討議を中心とする欧米の議会とは異なる日本独特なものとなっているともいわれ、また、本会議の審議の儀式化・形式化やそれぞれの議案の審議時間の短さも相まって、「議論なき議会」の象徴といった批判などもある。さらに、国会だけでなく、自治体議会についても、出口をにらんだ審議日程の攻防が中心となるスケジュール闘争となっているところも散見される。
このような状況のもと、自治体議会では、議会改革の流れの中で、様々な試みが行われるようになっている。
その一つが、本会議における一問一答方式の採用である。従来の本会議における質疑は、国会のスタイルをまねて、あらかじめ申し出た議員が1回だけ一括して質問を行い、答弁も一括して行われる方式によることが多かったが、形式化・儀式化を招いていることなどから、本会議の質疑においても一問一答方式を採用する議会が増えてきているものだ。
もう一つが、これまで一方通行的であった質疑について、答弁する側に反問権を認めるものだ。そこでは、提出者の側に反論権や反対質問権を認めることで、双方向の議論をする場へと変えていくことが想定されているようであり、それにより、質疑に討議としての実質をもたせようとするものだ。
さらにもう一つが、議員間の自由討議の導入であり、自由討議は議会改革の柱や指標の一つともされることとなり、それを受け、議会基本条例や会議規則で自由討議を規定するところが増えており、これを実施している議会も見られる。
しかしながら、実際には、反問権が積極的に行使されることは少なく、たまに行使されるとニュースになるような状況にある。また、自由討議についても、規定するだけで実施していないところが多く、実施しているところでも、議員や委員が意見を順番に述べているだけで、その中で意見を交わしたり、説得が行われたりするようなことはあまりなく、名ばかりの自由討議となっているところが少なくないようである。
質疑中心の審議については批判もあるが、長提出議案が大半を占める中では、質疑は必要な情報を開示させ行政を枠付けるなどの点で重要な意義をもつのであり、また、工夫により討議の場とすることも可能である。むしろ、問題は討論の方であり、採決前の儀式ではなく、議員や委員の間で意見が交わされるようにしていくことが重要である。ただ、そのためには、会派による党議拘束のあり方のほか、議員の意識改革やスキルの向上なども必要となる。いずれにしても、意思形成のプロセスのあり方や住民に対する情報提供ということから見ても、審議の過程で討議がほとんどないというのはやはり問題であり、それぞれの議会において改善を試みていくことが求められているといえる。