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2020.05.11 議会改革

第31回  議会の危機管理:状況認識、フェーズの区分による対応、危機管理体系の確立(上)

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(2)議会による行政対応に対する検証と提言による行政対応の豊富化
 危機状況下で実施された自治体政策を検証することが議会に課せられている。同時に、継続する危機状況下で(局面は移動し多様な問題が噴出することを認識しながら)、多様な住民の声を聞き地域状況を把握して政策提言することも必要となっている。
 どちらも、地域政策体系とそれを推進する組織・手続を問うことになる。治療薬の研究は民間や国の研究機関等に委ねざるをえない。感染拡大の防止・治療への対応だけではなく問題は連鎖し、対応は複眼的になる。地域政策体系として、感染防止策と医療体制整備の政策、住民生活の負荷の軽減政策、そして経済対策といった複眼的思考とその実践が必要である。組織・手続については、危機管理部門の体制や、決定の際の手続を念頭に置いている。
① 行政対応の検証
 行政対応の検証には、政策自体とその策定の手続の妥当性が含まれる。まず政策そのものについてである、感染拡大の抑え込みを軸とする。ただし、これは単に医療の充実・連携にとどまらない。これらはまた、問題の連鎖を引き起こす。
 例えば、学校の休校措置は、安倍首相から要請されていた。小中高、特別支援学校の休校措置、期日の妥当性等が問われる。休校した場合の学業、給食の代替措置はどの程度議論したのか。学校休校だけではなく、児童館・公立図書館なども休館となり、休校の際の「居場所」の設定(子ども食堂の支援等)、休暇をとらざるをえない保護者の保障問題……等々。この事例をとっても、一つの対応は、問題の連鎖を引き起こす。したがって、感染拡大の防止のための対応であっても、規模だけではなく連鎖的問題が生じ、対応への検証は容易ではない。
 また、その対応組織の作動の妥当性、つまり危機管理部門の対応も今後検証する必要がある。例示した休校は教育委員会事項である。ほとんどの自治体で実施された休校について、教育委員会はどのような議論をしたのであろうか。専門家の意見をどの程度参考にしたのか、どの程度児童等、教員や保護者の声が生かされたのか(子どもの権利条例制定自治体の対応も問われる)。そして、教育委員会の議論において、児童等をめぐる連鎖的問題の発生とその対応についてどの程度議論して決断したのであろうか。
問題は連鎖しているので検証も容易ではない。とはいえ、今後のためにも地域政策体系と組織の作動についての検証が議会としても不可欠である。
② 今後の対応の提言・提案
 すでに指摘した対応を念頭に置いて、新たに生起する問題群に対して、議員・議会として提案することは必要である。議員は、議会の構成員であるとともに、地域リーダーであるから、地域の現状を踏まえた提案が可能である。「地域エゴ」と揶揄(やゆ)される場合もあるが、地域の問題抜きに地域政策は語れない。また、議員は自治体を超えた議員間ネットワークを有している。それらの情報を自治体の対応に生かすことは有用である。
 自然災害時と同様に、個々の議員が行政に働きかけることは、行政の停滞を招く。そこで、委員会等によって議員の情報や提案を議会として受け止め、集約して行政に提言する。

(3)危機状況に対応する議会の創造
 議会が政策体系を意識して検証や政策提言を行うための手法を模索したい。通常状況(平常)では、すでに「議会からの政策サイクル」が開発され、いくつかの議会で実践されている。危機状況での応用である。議会は、問題意識を持って調査研究をしなければならない。これらを進めるには、特別委員会等の設置が必要である。
① 行政の対応への評価、今後の対応を提言する特別委員会等の設置
 地域政策体系や組織・手続に対する議会の検証、及び提言を行うには、議会として特別委員会等を設置して主題的に行う必要がある。
② 議会運営の検証
 危機状況における議会の対応の検証を行う(新型コロナウイルスの場合、第1回(3月)定例会(定例月会)、一般質問の辞退等)。すでに指摘した行政対応への評価・提言をする特別委員会等で行ってもよい。例えば、議員は「議事堂に参集」することになっている(全国三議長会のそれぞれの標準会議規則1)。庁舎、議事堂が残存している場合でも(8)、例外的に換気のよい場所に移動して開催することを規定することも必要だ(自然災害時に残存していないことを想定すれば当然規定)(9)。この場合、傍聴者の権利を阻害しないルール整備が不可欠である(周知徹底)。
 今日、社会ではウェブ会議が広がっている。これは議会にも活用できる(すぐ後に確認するように、現行法体系では傍聴規定があるために少なくとも本会議ではできない)。特に、産休の議員などが発言する機会の提供など、幅広く活用できる。スピルオーバー効果の一つである。危機状況への対応は、議会版BCPの策定・改編とともに、議会基本条例・会議規則の改正の際のテーマを設定している。
また、行政組織への検証・提言も行う必要がある。例えば、休校を決めるのは教育委員会であるが、同委員選任に同意するのは議会である。ここでどのような議論があったかを検証するとともに、そもそも教育委員の同意基準を議会として設定しているかどうかが問われる。これを機会に、行政委員会・委員の同意・選挙基準を設定してほしい。
③ 住民・専門家の意向を聞きながら行う
 行政の対応や議会の対応、また問題状況について住民や経済界、NPOからヒアリングを行う。それらの対応の検証に当たっては、専門家の意見収集は不可欠である。感染症危機の場合、接触防止策をとりながら行うことになる。

(4)国への要請:意見書等の活用(プラス1)
 危機状況において明確になった問題について、国への要請が必要である(意見書等の活用(自治法99))(東日本大震災の際の議会からの提言・決議・意見書については、例えば都市問題研究会 2014)。
① 政策をめぐる財源・権限移譲の要請
 感染拡大、そしてこの対応に伴う社会的・経済的問題の連鎖には、今まで以上に自治体と国との連携が必要である。検討を踏まえて、財源・権限の移譲を要請する。また、新型コロナ特措法やそれに基づく緊急事態宣言の対応に関しても、国に要請してよい。
② 組織運営に関する要請
 危機状況下の議会対応における課題をえぐり出すことが前提である。今回の危機状況において、議事堂への参集は可能であるし、また会議規則の改正により議事堂以外での参集を模索するべきである。ウイルスの汚染のまん延に伴い議員が参集できないことも想定できる。例えば、開議定数と表決定数(前者を3分の1、後者を2分の1など)を区分する地方自治法改正、及びウェブ議会の検討を国に要請することを想定している。

☆キーワード☆
【ウェブ議会の可能性】
  ウェブ議会の場合、基本的には「傍聴」の可能性の有無(自治法130)、及び「参集」の場所(全国三議長会「標準会議規則1条」)が論点となる。筆者は、議会は議員が参集して討議することだと考えている。とはいえ、参集できない危機状況下では必要な場合があるかもしれない。また、新型コロナウイルスの場合のように、高齢者や持病を有していて感染すると重症化する危険がある場合や、通常状況でも病気や出産で出席できない場合、過疎地域において参集する時間的余裕のない場合など、状況に合わせて(議論する手段として)部分的に活用することは必要だと考えている。
 筆者はできるだけ議会の会議を公開することを提案してきた(地方自治法上、あるいは会議規則上)。その議論と矛盾しているが、公開原則(傍聴と議事録公開)には、「本会議のみ」に適用されるという解釈もある。そうであれば、住民が容易にアクセスできる(見ることができる)環境を整備した上でウェブ議会(委員会、調査会等)の活用もできる。
 参集の場所は一般に「議場」となっている。青空議会、支所での議会等を規定することも必要である。なお、委員会等も同様に、緊急時にはウェブ議会を想定してよい。
 本会議でも、定足数を充足して会議を進め(会派等で調整して、出席しない議員はネット中継で「観戦」し)、表決や自ら発言する場合に議席に着座して参加することは、運用で可能である。
 「参集する」は会議規則規定であるが、これを前提とした議会を地方自治法はイメージしている。そのイメージの変更も模索すべき時期である。
 なお、非公式の会議(会議規則上規定していない会議)では、全く問題ない。ただし、住民がアクセスしやすい環境を整備することが望ましい。
 住民からの提言、及び住民との意見交換等では、積極的にSNSやウェブ会議を活用すべきである。住民と歩む議会は、危機状況でもこの視点を忘れずに対応してほしい。

* * *

 危機状況においては、補正予算を含めた様々な対応が議会には求められる。まさに、議会が地域の状況を把握し、行政に提案する必要がある。閉会中では新たな特別委員会の設置が困難であるならば、すでに設置されている委員会や協議会等の活用、あるいは公式でなくても、懇談会で議論を進めてほしい。

【追記】総務省自治行政局行政課は、地方議会の各委員会をウェブ会議で開催することを通知した(4月30日付け)。委員会は不要不急には当たらないこと、新型コロナウイルス感染拡大によって議員の参集が難しい場合に、条例や会議規則等の改正によってオンラインによる開議は可能であることが示された。本会議は、地方自治法上、不可であることも通知されている。基本的には、すでに「☆キーワード☆【ウェブ議会の可能性】」で指摘した内容と同様である。ただし、「通知は新型コロナウイルスに限定した措置」ということだが(朝日新聞2020年5月2日)、公開原則を踏まえつつ危機状況では可能とすることを会議規則等で規定することも可能だと思われる。また、報道によれば、複数の自治体から問い合わせがあったことで通知を出したようである。問い合わせもいいが、それぞれの議会で考えることが必要である(総務省に「お伺い」をする姿勢も問いたい)。(5月5日記)

(1) 陸前高田市議会は、陸前高田市議会災害対応指針、陸前高田市議会災害対策会議設置要綱、及びこれらの具体的な行動として陸前高田市議会災害対策行動マニュアルを策定している。
(2) 一般質問の取下げや傍聴中止は、住民自治を進める議会からの逸脱である(江藤 2020a)。2020年第1回定例会(3月議会)では、換気、マスクの着用等の措置を施して通常どおりの議会運営を行った議会が多いのではないか。一般質問の取下げは次善策である。
(3) 例えば、新型コロナウイルス感染症対策では、緊急事態の対応のほとんどは自治体が担う。緊急事態宣言は、首相が対象地域と期間を設定するが、それを具体化し、実践するのは対象地域の知事である(ただし、新型コロナ特措法では、知事は施設の休止を要請・指示できるが、感染拡大防止対策は政府による基本的対処方針に基づくとも規定していることで自治体と国の対立もある)。
また、国任せではない対応が自治体には問われる。安倍晋三首相による緊急事態宣言(2020年4月7日、第一次)後に、各対象地域の知事は記者会見を行い今後の対応を明言した。それ以前にも北海道知事による緊急事態宣言や、大阪府知事による独自の感染者対応策(軽症者はホテルでの宿泊療養など)等といった対応を独自に行ってきている。「法的根拠」以前に、自治体は動ける。それにもかかわらず、「法的措置」頼みは、地方自治とは無縁な発想だ。全国知事会は、「休業による損出、国が補償を」行うことを提言することを決めた(4月8日)。「闘う知事会」の再登場の機会にもなる。
(4) 新型コロナ特措法は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の略称であり、2020年改正された。
(5) 筆者は、自治体の危機には、内部統制型と災害型のほかに、二元的代表制の作動ができず首長主導型経営だけで行われることに対する危機も念頭に置いている。日本の地方自治は、通常問題なく作動していても、危機状況や議会が首長の意向に反対する場合に亀裂が生じ、首長が住民を味方につけて議会を否定して政治運営を行うことが可能な制度である。この危機は、災害型危機に当たって加速する。危機の強調は、首長の作動を肯定し、議会の沈黙を要請する議論に親和性がある。最も民主的だといわれたワイマール共和国の時代に、カール・シュミットは危機を強調し、危機状況には大統領独裁が必要だとしてナチズム政権に道を開いている。危機の認識は重要である。危機の強調で思考停止に陥るのではなく、危機を具体的に想定し、大統領に全権委任するのではなく、具体的に民主的統制を構想する必要があった。例外の極端な強調とは異なり、危機を常態の議論の中に含み込むことが、全権委任の独裁者を呼び起こさないことにつながる(江藤 2011)。今回は、危機状況を具体的に検討して、それへの議会対応を検討している。
(6) 映画『アウトブレイク』(ワーナー・ブラザース、1995年、出演者:ダスティン・ホフマン、レネ・ルッソほか)でのウイルスである。
(7) 筆者は、検証によって実効性ある提案が可能だと主張してきた。危機状況では、原則を保持しつつ変更も柔軟にあってよいし、その場合、原則とルールを設定しておく必要がある。
(8) 議事堂は、「本会議場、傍聴席、委員会室、議員控室、議長及び副議長室、応接室、議会事務局の事務室、図書室その他の議会活動に必要な一切の物的施設」と定義されているが(地方議会運営研究会 2014:165)、ここでは本会議場、傍聴席、委員会室をまずもって想定している。
(9) 通常状況でも、「青空議会」、「地域議会(様々な地域で開催する議会)」を行うことも想定している。


〔参考文献〕
◇ 板橋区議会(議会改革調査特別委員会)(東京都)(2014)「緊急時における議会のあり方検討について(資料)」
◇江藤俊昭(2011)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」法学新報118巻3号
◇江藤俊昭(2012)『自治体議会学』ぎょうせい
◇江藤俊昭(2016)『議会改革の第2ステージ』ぎょうせい
◇江藤俊昭(2016-)「新しい議会の教科書」議員NAVI 2016年5月25日号~
◇ 江藤俊昭(2020a)「【緊急寄稿】新型肺炎に対応する議会運営に!一般質問辞退は次善の策、傍聴中止は住民自治からの逸脱」議員NAVI 2020年3月5日号(https://gnv-jg.d1-law.com/article/20200305/19879/)
◇ 江藤俊昭(2020b)「【続・緊急寄稿】緊急事態にも議会として動ける、そして動かなければならない!~議会による検証・提言は行政対応を豊富化」議員NAVI 2020年3月25日号(https://gnv-jg.d1-law.com/article/20200325/20109/)
◇ 江藤俊昭(2020c)「【続々・緊急寄稿】新局面に『住民自治の根幹』としての議会をどう作動させるか~専決処分の限定と今後の議会対応」議員NAVI 2020年4月10日号(https://gnv-jg.d1-law.com/article/20200410/20367/)
◇ 鍵屋一(2018)「災害時における議会・議員の役割の基本的考察」地方議会人2018年3月号(「特集 議会BCP(業務継続計画)」)
◇鍵屋一(2019)『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』学陽書房
◇全国町村議会議長会編(2019)『議員必携〈第11次改訂新版〉』学陽書房
◇地方自治研究機構(2017)「市区町村等の内部統制型リスクマネジメントに関する調査研究」
◇地方議会運営研究会編(2014)『地方議会運営事典〈第2次改訂版〉』ぎょうせい
◇ 都市問題研究会(全国市議会議長会)(2014)「『都市における災害対策と議会の役割』に関する調査研究報告書」
◇新川達郎(2015)「災害時における議会の役割」アカデミアVOL.113(2015年春号)
◇新川達郎(2018)「議会の危機管理」地方議会人2018年3月号(「特集 議会BCP(業務継続計画)」)
◇廣瀬克哉(2018)「大災害時の自治体議会」ガバナンス2018年3月号
* このほか、地方議会人2018年3月号(「特集 議会BCP(業務継続計画)」)(上記の新川達郎、鍵屋一各氏の論文、西川裕也氏の論考のほか、芽室町議会、陸前高田市議会、大分市議会の危機管理の動向の現地報告が掲載されている)、ガバナンス2018年3月号(上記の廣瀬克哉氏の論文のほか、今井照、稲継裕昭、櫻井常矢各氏の論文が掲載されている)、「大津市議会BCP(業務継続計画)〈第2版〉」(平成28年3月)等の計画・行動指針・マニュアル及び自治体、あるいは企業の危機管理に関する著書・論文を参照した。

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