2020.04.27 議会改革
第7回 議会の運営─どのような仕組みとし、どう動かすか─
【コラム:一事不再議の原則とその意義】
すでに議会の議決があったものと同一の問題については、同一の会期中は再びこれを審議することは許されない。このことは、一般に「一事不再議の原則」と呼ばれ、議会運営の重要なルールの一つとされてきた。自治体議会においては、会議規則でこれを規定するところが多い。一事不再議に当たる場合には、その議案は審議することができず、一事性が問題となる議案がすでに提出されている場合には議決不要の取扱いがなされることになる。
一事不再議の原則は、歴史的には会期制度と結び付いて形成されてきたものであり、その背景には、議会の意思は会期ごとに独立し、それぞれの会期においては一つであるという考え方があったとされる。したがって、会期を異にする場合には、この原則の適用はない。それが原則とされる理由としては、議事運営の効率性と議決の安定性の確保の必要などが挙げられるのが一般的である。すなわち、再議を認めるとすると、同じ問題が蒸し返されて際限がなくなったり、議事妨害を招いたりするなどして、能率的な運営が妨げられることになりかねない。また、議会で一度決定した問題について、同じ会期中に重ねて審議することは、議決が不安定な状態に置かれ、その価値を低からしめるだけでなく、議会の権威を損ね、国民や住民の信頼を低下させることにもつながりかねない。そして、決定した後はやり直しはきかないとすることで、慎重に審議を行って結論を出すことにもつながりうる。
もっとも、その一方で、一事不再議は、会期制度と必然的に結び付くものではなく、また、議会の会期の長期化、社会の複雑化や変化の速さなどから、同一の会期の間に社会的・経済的・政治的な状況が変わり、同一の問題についてさらに対応が必要となることも十分ありうる。その意味で、一事不再議を厳格に貫くことは困難となってきており、それがもつ意味合いは相対化し、その重要性は薄れてきているところがある。自治体議会においては、長の拒否権による再議の制度があるほか、通年会期の採用によりその適用を限定する議会などもある。
そもそも、一事不再議の内容や適用基準については明確ではないところがあり、政治的な駆け引きに用いられることも少なくない。
まず、一事不再議は、それぞれの審議の段階ごとで問題となるものであり、本会議・委員会のそれぞれの段階ごとに適用されるが、内部的な事前審査機関である委員会では、本会議で議決があったものと同一の問題についても一事不再議により審査することはできない。また、一事不再議が問題となるには、先行する議決の存在が前提となるが、その趣旨に照らせば、先行する議決が可決・否決のいずれであるかは問わないことになる。
他方、何が「一事」に当たるかということでは、同一問題に対する同一内容のものだけでなく、同一問題に対する異なる内容のものも含まれうることになるが、その判断は微妙であり、結局は、個別具体のケースごとに、議案の内容、目的、方法、理由等を踏まえ総合的・実質的に判断せざるをえない。さらに、その例外として、事情変更が認められる場合には、形式上は一事に該当しても再議が認められることになる。事情変更は、一事不再議の厳格な適用により生じる不合理な結果を回避するクッションとしての役割を果たしているが、その判断については、その時々の社会的・経済的・政治的な状況等に照らして再議することにそれなりの必要性と妥当性が認められるかということから政治的に判断されることになる。一事不再議がまさに問題となるのは、一事や事情変更に当たるかどうかの判断が微妙である場合が多いといえる。
以上のようなことからするならば、一事不再議は、会議運営上の技術的な原則にすぎず、政治のダイナミズムや現実の必要性の前に沈黙せざるをえないのであり、会議の運営に厳格に適用されるようなものではなくなってきていると見ることもできるが、その一方で、議決の安定性や信頼性の観点から蒸し返しや朝令暮改が許されないのは現在においても当然のことであり、その点ではなお会議運営上の条理あるいは立法者の責務であり続けているともいえるだろう。
以上、会議運営上の原則について見てきたが、これらについては、次の第8回において、議会の審議のあり方ということからさらに考えていくこととしたい。
(1) 議会の招集は、議会が活動を開始するために一定の日時に一定の場所に集合するよう議員に対し要求するものであり、議会は、この招集行為によって初めて活動能力を取得することになるが、現在の地方自治法が定める制度は、長による他律招集を基本としつつ、例外的に議長による自律招集も認めるほか、通年会期の場合の自動招集も規定するものとなっている。なお、招集については、開会の日前、都道府県と市にあっては7日、町村にあっては3日までに告示をしなければならないものとされているが、緊急を要する場合には、そのような期間は必要としない。
(2) その効果としては、①議会の意思はその会期限りのもので次の会期には及ばないとする「意思の不継続」と、②審議未了となった案件は会期の終了とともに消滅するとする「案件の不継続」の二つの側面があるとされる。
(3) なお、長は、議会の議長に対し、会議に付議すべき事件を示して定例日以外の日に会議を開くことを請求することができ、この場合、議長は、請求のあった日から、都道府県と市については7日以内、町村については3日以内に会議を開く必要がある。
(4) 実際に、通年会期を採用した場合でも、委員会の開会日数は増加するものの、本会議の開会日数は若干の増加にとどまり、議会の年間の活動日数が大幅に増加するわけではないとの指摘もある。なお、通年会期を採用することのメリットとしては、そのほかに、委員会による行政監視や調査の機能の強化、専決処分の適用の限定なども挙げられている。
(5) 本会議の手続についてどの程度厳格なものとするかは、議員の数にもよることになり、例えばアメリカ連邦議会では、定数435人の下院に比べ100人の上院の手続はかなり緩やかなものとなっており、だいぶ様相を異にする。自治体議会についても、その定数からすれば、本会議だからといって必ずしも厳格な手続とする必然性はないことにも注意を要する。
(6) 一般的な委員会設置条例において議会の議決により特別委員会の設置を決定できるとすることも可能である。
(7) 委員会中心の審議システムは、アメリカのように大統領制と厳格な権力分立をとる場合に適合的なものであり、議院内閣制の場合にはイギリスのように内閣と本会議が審議の中心となるとの見方もある。それによれば、大統領制と常任委員会制といういずれも分散的なシステムの組合せであるからこそ両者の結合が可能となるのであり、議会においては常任委員会による各専門領域(各省)別の審議が中心となるとされる。これに対し、議院内閣制では、行政権は統一体である内閣に集中され、行政運営について内閣が全体としての議会(議院)に対し責任を負うだけでなく、国政に関するイニシアティブとリーダーシップを発揮することになる。このため、内閣と議会との間に委員会が介在し、各閣僚が所管の委員会から行政運営について統制を受け行政責任を問われることは、首相を中心とする内閣の統一性を阻害し、内閣が連帯して議会全体に対し負うべき政治責任を混乱させ、内閣から指導力を奪うことにもなりかねないとされる。
しかし、一口に議院内閣制とはいっても、これを採用する国によって様々な形態のものがあり、また、議院内閣制の要素・機能として何を重視するかについては、いろいろな議論がある。ましてや、現代国家における行政府優位の状況に対して、議会による民主的統制を強化するとともに、量的に増大し複雑化・専門化する立法について実質的な審議を確保するためには、委員会制度の強化はむしろ不可避な面がある。実際に、議院内閣制と本会議中心主義を採用する国の議会でも、委員会の存在・役割は高まってきている。
他方、大統領制(首長制)を採用する場合でも、自治体議会のように規模が大きくなく、また、議院内閣制の要素も取り入れた混合型のところでは、本会議中心とする方が適合的な場合もありうる。
(8) 委員会には、常任委員会と特別委員会があり、常任委員会については、両議院とも、基本的に府省別所管の委員会のほか、予算、決算、議院運営、懲罰などの委員会が設置されている。他方、特別委員会については、議院において特に必要があると認めた案件や常任委員会の所管に属しない特定の案件を審査するため、議院の議決により会期ごとに設置するものとされているが、実際には毎会期ごとに特定の特別委員会が設置されるなど設置が常態化しているものが少なくない。
(9) 多数決には、絶対多数、特別多数、比較多数の三つの種類があるが、過半数による絶対多数が議会における意思決定の基本的な原則とされている。なお、比較多数は、選挙の場合などに採用されているものである。
(10) 国会についても、同様であり、特別多数は、憲法で定めるものに限られ、法律で定めることはできないものと解されている。
(11)このため、議長は、採決における「出席議員」には含まれない取扱いとなる。そのようなこともあって、議員の定数が偶数の場合に、二つの党派の勢力が接近したときなどには、議長をとった方が採決で負けてしまうために、議長ポストの譲り合いとなり議長が決まらないといった事態を生じることもある。その関係などもあってか、議員定数は奇数とするところが多いようである。なお、特別多数を要する場合には、可否同数といったことはありえず、議長の裁決権は問題となりえないことから、議長も表決権を有することになる。
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