2020.04.27 議会改革
第7回 議会の運営─どのような仕組みとし、どう動かすか─
2 議会の組織・運営の基本的システム
(1)本会議と委員会
議会は、その構成員である議員全員からなる会議(本会議)により、審議を行い、その意思を決定する。本会議での審議・議決が議会としての権能行使であり、議事は、本会議での議決のために行われることになる。
しかし、現代においては、議会の審議は、委員会と本会議で行われ、実質的には委員会が重要な役割を果たすようになり、委員会は、本会議とともに、議会の審議システムにおける主要な構成要素の一つとなっている。
議会がその活動を行うに当たり、少数の議員からなる委員会を設けて、議案等の審査を行わせ、あるいはその権限の一部を代行させるなど重要な任務をこれに担わせる仕組みは、多人数によって構成される会議体の運営における技術的な必要によるものである。そもそも、多数の構成員からなる本会議では、効率的な議事運営の観点から、議事の手続が厳格に定められ、その結果、そこで細部にまでわたり厳密な審議を尽くすことは困難となりがちである(5)。このため、規模の大きい議会では、少数の特定の者からなる委員会を設け、これに精密・詳細な審査を行うことを委ね、議会の会議では、委員会のそうした審査の結果に基づき、大局的な立場から議論を行い、最終的な決定を行うこととするのが合理的とも考えられる。委員会については、複数の委員会が同時並行で効率的に審議を行うことも可能であり、また、行政監視や問題調査の役割なども担うようになっている。
国家の機能の拡大に伴う議会で処理すべき事務・領域の増大と問題の高度化・複雑化などによって、委員会は、その重要性を増し、議会制度の不可欠な仕組みとなっており、自治行政が広範多岐にわたるとともに、各種行政が専門化・技術化しているのに対応し、自治体議会においても、審議の徹底を図り、能率的な議事運営を進めるために、委員会制度を採用することが認められている(地方自治法109条)。
委員会は、一部の議員をもって構成される合議制の機関であり、その所管の事務について調査を行う権限をもつが、基本的には、本会議の議決前に議会(議長)から付託された事件を審査する議会の内部的な事前審査機関であって、議会と離れて独立の意思決定をする機関ではない。地方自治法上、委員会としては、常任委員会、特別委員会、議会運営委員会の三つの種類が規定されている。
これらのうち、常任委員会は、その部門に属する事務に関する調査を行い、議案・請願等を審査する常設の機関であり、その設置については、条例で定めるものとされているが、その数や種類について制限はなく、常任委員の選任や任期についても条例で定められることになる。常任委員会は、議案等の審査については議会からの付託を受けて審査を行うのに対し、その所管に関わる事務調査については自主的・能動的に行うことができる。
また、 特別委員会は、常任委員会の所管に属しない特定の事件を審査する必要が生じた場合に、事件ごとに設置され、付託された事件の審議が終わればその存在意義を失うものであり、議会は、条例によりこの特別委員会を設置できるものとされている(6)。特別委員は、議会において選任され、委員会に付議された事件が議会において審議されている間だけ存在するが、その権限は、付託された事件の審査・調査の権限に限られるほかは、常任委員会とほぼ同様である。
他方、議会運営委員会は、議会運営の円滑化のため、条例で置くことができるものとされているものであり、議会の運営、会議規則や委員会条例等、議長の諮問事項について、調査を行い、議案、請願等を審査する。
現代議会において委員会制度は一般的な仕組みとなっているが、その一方で、議会の運営・活動において委員会が占める重要性の程度は、それぞれの国や時代、国の議会か自治体議会か、議会の規模などにより様々である。その場合、常任委員会を中心に運営され、しかもその委員会はある程度議会から独立した地位と権限を有し、議会の活動全般にわたって指導的な役割を果たす委員会中心の審議システムを採用するところがある一方で、委員会は予備的審査機関にすぎず審議の方向付けと最終決定はあくまでも本会議が行う本会議中心の審議システム、あるいはその折衷的なものなどが見られ、それぞれ本会議中心型・委員会中心型・折衷型などに分類される(7)。
参考までにそれぞれ代表的な議会を紹介しておくならば、それらのうち、本会議中心型の議会の典型とされるのは、イギリス議会であり、そこでは、法案などの全体の趣旨・骨格の審議・最終的な決定は議院の本会議に留保されるなど、あくまでも本会議の読会中心の審議構造がとられ、委員会審査は必ずしもメインルートとはされていない。本会議では、三読会制が採用され、基本的に①第1読会、②第2読会、③委員会段階、④報告段階、⑤第3読会の各段階を経るものとされている。また、一般委員会のうち法案審査のための公法案委員会については、特定の所管事項をもたず、付託法案ごとに設置され、その審査が終了すれば役割を終えるものであり、実質的には特別委員会に近い。委員会にはこのほかに、全院委員会、特別委員会、両院合同委員会があり、このうち、特別委員会は、調査を行うもので、省庁別特別委員会や、決算委員会等の分野横断的特別委員会などがある。
これに対し、委員会中心型の議会の典型が、アメリカ連邦議会であり、その果たす役割の大きさから、常任委員会は時に「小立法府」などと呼ばれている。アメリカ連邦議会でも、三読会制が採用されているものの形式化しており、議員から法案が提出されると、その所管に応じて常任委員会に付託され、常任委員会は、膨大な提出法案の生殺与奪の権限を握っているほか、行政監督や国政調査の権限も有し、行政府の政策形成や活動に大きな影響を与えている。委員会審査は、公聴会、逐条審査、審査報告の段階により行われ、本会議の上程後は、下院では全院委員会を経て、一般討論、修正段階、最終表決へと進む。なお、特別委員会は調査・研究等を行うために設置されるものにとどまる。
また、本会議中心と委員会中心の折衷型をとるのがドイツ連邦議会やフランス議会である。ドイツ連邦議会では、法案の審議は、①第1読会、②委員会付託・審査、③第2読会、④第3読会の段階を経る三読会制により行われるが、法案の委員会審査は、常任委員会によって本会議の意思に拘束されることなく自律的に原則非公開で行われており、本会議での第2読会では詳細な委員会審査報告書に基づき一般討論と逐条審議が行われる。他方、フランス議会においては、通常法律の場合、議院に法案が提出されると、その所管の常任委員会に付託され、委員会の審査に際しては報告者を選任し、その報告者を中心として原則非公開で審査を行い、報告書を作成して議院に提出する。本会議で審議の対象となるのは委員会が採択した条文であり、審議は一般討論と逐条審議の二つの段階に分かれるが、政府は、審議促進のため、政府が提出し又は受け入れる修正案のみを取り入れて法案の一括表決を求めることができる。これらの議会では、特定の議案を審査するための特別委員会のほか、特定の事項を調査する調査委員会なども置かれる。
日本では、帝国議会時代は本会議中心主義が採用されていたが、国会においては、アメリカの影響を受け、委員会中心主義が採用されている。議院に提出された法案については、本会議で趣旨説明の聴取が行われることもあるが、基本的には直ちに適当な委員会に付託され、委員会での審査が中心となり、委員会で本会議に付さないと決定することもでき(握り潰し)、本会議では委員会の審査結果を踏まえた審議が行われる(8)。
日本の自治体議会については、地方自治法が、委員会に関する定めを置くが、委員会の設置その他については条例で定めるものとしており、また、本会議の審議のあり方についても、会議規則で定めることとされている。その点では、いずれに重点を置き、本会議中心型・委員会中心型・折衷型とするかは、それぞれの自治体議会に委ねられているといえる。