2020.03.25 議会運営
第70回 議会選出監査委員
議会選出監査委員②
法196条1項において、なぜ識見の監査委員だけでなく議会選出の監査委員を原則として選任することと規定しているのか。
日本における地方公共団体の監査制度は、昭和18年府県制・市制町村制での地方制度改正以前に、地方公共団体における監査機能として執行機関による自己監査と議決機関による監査の2種類が存在していた。そして議決機関の監査権限については、府県については府県参事会の実地出納検査、市町村については事務の一般的な書面検査及び実地検査権が認められていた。しかし、昭和18年に戦時体制に即応する能率的行政運営の見地から実行機関における自己監査権はそのまま残ったが、府県会においては議決機関の監査は消滅し、市町村議会も実地検査権が消滅した。さらに、法改正によって大都市(京都、大阪等の8市のみ)においてのみ自己監査機構が考査役制度として創設された。これに伴い議会が有していた実地検査権限が考査役制度に移った。その後、昭和21年の第一次地方制度改革により地方公共団体に初めて監査委員制度が創設され、議会選出の監査委員制度も創設された。
ここで、議会選出の監査委員制度の創設理由として、①地方行政事務執行の公正を確保するため、②地方公共団体の公共事務が複雑多岐にわたり、かつ専門的・技術的な事務が増加したことに対応する行政の実際上の要請、③旧制度において長に隷属する吏員であるため、監査を受けるほかの吏員と同様の地位にあり、必ずしも威令が行われず、また監査に権威を欠きその徹底を期し得なかったことに対する反省によるものであった。そのため、執行機関に対し対等の地位に立ち、にらみをきかせる地位にある議員及び監査の実際に当たるべき専門的な知識経験を有する者の中から監査委員を選任し、監査に当たらしめなければ、監査の実効性を上げることが難しいとして議会選出の監査委員を含む監査委員制度が創設されたといえる。
〔参考文献〕
◇自治省編『改正地方制度資料1巻』
◇地方自治総合研究所『逐条研究地方自治法Ⅲ』(敬文堂、2004年)