2020.03.25 議会改革
第6回 議会と法 ─自治体議会法の特色とあり方─
【コラム:自治体議会と部分社会】
部分社会の法理は、社会における法秩序の多元性を前提に、法律上の係争であっても、「事柄の特質上自律的な法規範を有する団体の内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当するものがある」との考え方に立ち、内部的な問題にとどまる限り裁判所の審査の対象とはならないとするものであり、これまで、自治体議会、国立大学、政党などに適用されてきている。
自治体議会の関係で、特に問題となってきたのは、議員の懲罰である。
この点、最高裁は、札幌市議会議員除名処分事件・最判昭和27年12月4日裁判集民7号595頁で、議員の除名については、直に議員たる地位を失わせる法律効果を生じさせる行為であるから、その議決は一種の行政処分であるとしつつ、いずれの懲罰を科すべきかは議会の自由裁量に属するものとはいえず、地方自治法132条の「無礼の言葉」に該当するか否かは法律解釈の問題であるとした上で、裁判所の審査が及ぶとした。他方、出席停止については、山北村議会議員出席停止事件・最大判昭和35年10月19日民集14巻12号2633頁で、議員の除名処分は議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題にとどまらないのに対し、議員の出席停止のような議員の権利行使の一時的制限にすぎないものについては司法審査の対象から除外し、自治団体の自治的措置に委ねるのが適当とした。
また、議長の議員に対する発言の取消命令が裁判所の審査の対象となるかどうかが争われた愛知県議会発言取消命令事件で、本文の最高裁平成30年判決も、部分社会の法理を適用し、「議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって、当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず、その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的、自律的な解決に委ねられるべきもの」とした。
最高裁は、かつては重大事項、最近の判決では一般市民法秩序と直接関係する事項には当たらない内部的問題であれば裁判所の審査の対象とならないとしたが、その線引きは必ずしも明確とはいえない。最高裁は、上記のように、懲罰に関し、身分の得喪に関わる除名処分は審査対象となるが議員の権利行使の一時的制限にとどまるものは対象外としているほか、発言取消命令に絡み発言をめぐる議場の秩序維持等に関する係争は対象外とする一方、議会の議員に対する議員辞職勧告決議等(町との個人的な土地の所有権争いが発端)により名誉が毀損されたことを理由とする国家賠償請求訴訟については法律上の争訟に当たり、当該決議等が違法であるか否かにつき裁判所の審判が及ぶとしている(最判平成6年6月21日裁判集民172号703頁。上告棄却により慰謝料を認めた判決が確定)。これに対しては、出席停止も、議員の権利行使に関わり、長期間の出席停止は除名処分と実質的には変わらないとの批判もあり、現在最高裁に係属中の事件については大法廷に回付されており、その判断が注目される。
このほか、下級審のものではあるが、議会の決議をめぐり、市議会だよりに「猛省を促し陳謝を求める決議」等が掲載されたことによる名誉毀損を理由とする損害賠償請求につき前提問題となる当該決議等の当否は、議会の内部規律の問題であり司法審査の対象とならないとした裁判例(東京地判平成5年10月20日判時1492号111頁)、市議会議員が「ジャパゆきさん斡旋」に関係したとして市議会が行った辞職勧告決議が名誉毀損であるとして損害賠償請求がなされた事件で、当該決議が名誉を毀損したかどうかは一般市民法秩序に関する問題であり司法審査が及ぶとした上で、慰謝料を認めた裁判例(東京地八王子支判平成3年4月25日判時1396号90頁)などがある。
他方、内部規律以外の問題では、本会議における無所属議員の発言時間の制約の申合せについて自治的措置に委ねるべきとした裁判例(東京地判平成28年6月30日判タ1439号153頁)、発声障害をもつ議員の代読による発言の拒否が争われた事件につき、議員の議会での発言は最も基本的・中核的権利であり、その侵害は一般市民法秩序に関わり司法審査の対象となるとした裁判例(名古屋高判平成24年5月11日判時2163号10頁)などがある。