2020.03.25 議会改革
第6回 議会と法 ─自治体議会法の特色とあり方─
4 自治体議会の自律権と自治体議会法の特色
議会は、多数派と少数派が話し合いながら、状況に応じ機動的・柔軟な運営を行い、妥協・調整を図りつつ意思決定を行う政治機関であり、それを規律するルールについても、弾力的に運用されていくことになる。そのためにも、議会には、自律権が認められるのが一般的である。
自律権は、議会や議院が、他の機関から監督や干渉を受けることなく、その組織・運営等に関し自主的に決定できる権能であり、国会においては、憲法上、それぞれの議院に議員の資格争訟裁判権、役員選任権、議院規則制定権、懲罰権、国政調査権をはじめ高度の自律権と独立性が認められている。そこでは、規律の対象とされる議院が議会法を自主的に形成し、運用・実践していくことになり(自己拘束)、それに対して裁判所の審査が及ぶ範囲は限定的である。
これに対して、自治体議会についても、地方自治法により、議長等の選任、会議規則、議員の資格決定、懲罰などの自律的な権能が認められてはいるものの、かなり限定的なものにとどまる。
一つは、議会がその組織・運営について定める自主的法は、自律権の自己表現であり、一つの法形式として「議会規則」と位置付けることもできるが、その規則制定権が、制定を義務付けられた会議規則と傍聴規則にとどめられ、矮小(わいしょう)化されているところがあることである(16)。
特に、会議規則は、議決機関である議会が自律権に基づき自らルールを定め、その自主性・自律性を確保するものとして重要な意義をもつといえるが、地方自治法の規定の実施規則・細則を定めるものとなっており、また、実際には、全国三議長会が作成した標準会議規則に準拠し、画一的なものとなってしまっている(17)。
さらに、自治体組織権といった発想や、議会も地方行政機関といった理解などから、議会の内部組織であるはずの委員会や事務局が自治体組織に関する事項として条例の所管とされており、その分、規則の制定範囲が限定されるだけでなく、当該条例案の提出は議員等に限られるとはされているものの、観念的には、再議や専決処分など長が関与しうることになる。
それらの背景には、所管官庁における議会の自律権といった発想の希薄さ、議会に対する懐疑的な見方などもあるように思われるが、それだけでなく、自治体議会関係者の側の問題意識や理解の不足といったことも指摘できるのではないだろうか。自治体議会関係者の間では、会議規則は実施細則的なものとして、自主的な制定や独自の工夫といった気運に乏しく、単純に条例に劣後するものとの見方もある。このため、委員会の設置等が条例事項とされていることには何の疑問も抱かず、中には、会議規則に代えて会議条例を制定する議会も見られ、また、議会基本条例の制定の動きの中にも、そのような意識が感じられる場合もないわけではない。
議会に関わる事項でも、議会と住民や他の機関との外部関係に関する事項や、議会だけで決めることが妥当でない事項については、法律や条例によって定められることになるが、内部事項については、法律に定める基本的事項以外は、議会の自主的な定めに委ねるべきであって、会議規則さえも条例で定めてしまうというのは、誤解に基づく条例偏重といわざるをえないだろう(18)。議会改革がいわれながら、会議規則にあまり目が向けられないのも、そのようなことが関係しているのかもしれない。
もう一つは、議会の手続や決定について、他の機関の関与・監督を広く受けるようになっていることである。
まず、地方自治法176条4項は、議会の議決や選挙がその権限を超えたり、法令や会議規則に違反すると認めるときは、長は、理由を示してこれを再議に付し又は再選挙を行わせなければならないとした上で、議会の議決や選挙がなおその権限を超え又は法令や会議規則に違反すると認めるときは、都道府県知事においては総務大臣、市町村長においては都道府県知事に対し、再度の議決・選挙があった日から21日以内に審査を申し立てることができるとしている(同条5項)。これは、法令だけでなく会議規則に反するかどうかについても、長や総務大臣・都道府県知事のチェックを受け、議会だけで自律的に処理しえないことを意味することになる。加えて、総務大臣・都道府県知事の裁定に不服があるときは、議会又は長は、裁定のあった日から60日以内に、裁判所に出訴できることとされており(同条7項)、最終的には裁判所の判断によって決着を図ることが予定されている。
また、議会の選挙や議員の資格についての議会の決定に不服がある場合には、総務大臣又は都道府県知事への審査請求が認められており、それらの裁決に不服があれば出訴により裁判所が審査することになっている(地方自治法118条5項・127条3項)。地方自治法255条の4も、同法の規定に基づき自治体の機関がした処分により違法に権利を侵害されたとする者は、総務大臣又は都道府県知事に審決の申請をすることができるとしており、その「機関」の中には議会も含まれ、議員の懲罰などがその審査の対象となりうるほか、審決に不服がある場合には裁判所への出訴の途(みち)も開かれている。
さらに、緊急の場合のほか、議会が議決すべき事件を議決しないときなどには、長が、議決すべき事件を専決処分することも認められている。
このほか、裁判所は、各種訴訟を通じて、議会の議決の適法性等についても審査を行ってきているところである。
もっとも、その一方で、裁判所は、自治体議会の内部規律については、部分社会の法理を適用し、裁判所の審査の対象とはならないものとしている。すなわち、最高裁は、自治体議会における法律上の係争について、「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象とはならない」とする(愛知県議会発言取消命令事件・最判平成30年4月26日裁判集民258号61頁)。自律権ではなく、自治体議会を部分社会として、裁判所の審査を及ぼさず、その自治的解決によるべきこととしたものだが、問題は、どのようなものが内部的な問題であり、どのような場合に一般市民法秩序に関係するとして裁判所の審査の対象となるかということであり、この点についてはコラムでも触れることとしたい。
また、議事手続の瑕疵(かし)が問題とされ、それが審査される場合でも、そのまま手続が進行したときには、手続や決定の安定性の要請が働くことになり、そこでは、問題行為の評価の問題と、手続全体の評価の問題とが区別され、後者については安定性の要請がより強く働き、前者の問題行為が違法とされる場合でも、決定そのものの評価に影響を及ぼす重大な瑕疵でない限り、後行の行為には影響を与えず、決定そのものは有効とされることが少なくないだろう(19)。
しかしながら、そのようなところがあるとはいえ、議会の手続や決定については、長や国・都道府県の関与、裁判所の審査を受けることになり、必ずしも自律的に処理できるわけではない。このことは、すでに指摘したように、国の議会法と比較した場合に、自治体議会法の大きな特徴となっているのである。