2020.03.25 議会改革
第6回 議会と法 ─自治体議会法の特色とあり方─
3 自治体議会法の原理・原則
議会の手続が法によってルール化されるということは、それ自体が、多数派の恣意や濫用を抑制し、場当たり的な対応を防ぎ、予測可能性をもたらすとともに、少数派への機会の保障にもつながることになる。
議会については、議会制度の発展に伴って、様々な原則が確立されてきているが、その基本的な原理として挙げられるのが代表原理と多数決原理である(10)。自治体議会についても、基本的にこの二つが基礎とされることになる。
このうち、代表原理は、議会がその組織・活動の両面で住民を代表するものとなっていることを求めるものであり、特に地方自治法が定める直接民主主義的な制度を考慮するならば、代表者である議会と被代表者である住民の意思の事実上の一致を要請するものとな
っているといえる。また、代表原理は、議会の審議・決定の場面において、議員が、選挙民や選出母体に拘束されることなく国民や住民の代表として、また、それぞれが平等な主体として、自由に発言し、表決ができることを求めるものであるが、自治体議会の議員の場合には、その具体的な保障を欠き、その発言や行動について民事・刑事の責任を問われたり、選挙民による解職請求を受ける可能性もある。
他方、多数決原理は、議会あるいは議員の行動には、社会に存在する多種多様な意見の傾向・分布ができる限り反映されていること(あるいは社会の多数派の意思が反映され議会の多数派がそれとおおむね合致すること)を前提に、少数派の機会を確保しつつ議論を行った上で、最終的には多数の意思によって議会の意思決定が行われることを認めるものであり、また、「数の論理」として組織・運営の様々な場面においていろいろな形で現れることになる。
そして、それらも踏まえ、議事の原則として一般に挙げられるのが、定足数の原則、過半数の原則、討議自由・表決自由の原則(11)、審議公開の原則、一事不再議の原則(12)などである。議会の活動能力の面からは、会期制や議会期(選挙期)なども挙げることができる。
地方自治法も、定足数、過半数、審議公開の原則のほか、会期制と会期不継続の原則について定めており、また、議会は選挙を超えて意思等が継続することはないということでは任期に対応する議会期も当然の前提とされているといえる。
もっとも、以上の原理・原則については、それらの間での相克や、議会の位置付け・役割・それを取り巻く環境の変化、政党の発達などに伴って、その捉え方や内容などに変遷も見られるほか(13)、様々な例外も認められている(14)。
そもそも、議事手続のあり方としてその基底にあるのは、公正性、民主性、効率性の要請であろう。
公正性は、恣意や偏りのないことを求めるものであり、公平性を含むものである。そこでは、ルールの遵守やフェアプレーが求められるほか、議会においては、通常、多数派と少数派を生じることになることからは、多数派と少数派の機会のバランスの確保、とりわけ少数派への議論等の機会の保障が要請されることになる。
また、民主性ということからは、議会の意思=住民の意思との政治的な擬制が妥当性をもちうるためにも(15)、議会の意思決定は、民主的な手続に基づいて行われ、そこではできるだけ現実の多様な民意が反映されることが要請されることになる。
他方、効率性については、議会の意思決定が多数の議員の共同・協働によって行われるものである以上、できるだけ合理的な形で行われることが必要となるのであり、とりわけ、議会の処理すべき事項の拡大や迅速に処理すべき必要性の増大等に伴い、その要請は格段に強まってきている。
しかしながら、民主性といっても、議事手続が議案の賛否をめぐる多数意見と少数意見の存在と対立を前提にそれを調整・処理するものであることから、何をもって民主的とするかについては、多数派による意思を重視するのか、それとも、少数派への配慮や合意形
成を重視するのかで議論の対立があり、この点については多数決原理の捉え方も絡んでくることになる。そこでは、数の論理に偏りすぎることなく、数の論理と少数派の機会の保障との調和を図ることが求められることになるが、少数派がキャスティングボードを握ってしまうことで少数派支配となってしまうようなことは避けるべきだろう。
加えて、民主性の要請と効率性の要請については、時に相矛盾し、対立するものともなる。この点、建前としては、優先されるべきは民主性ということになるが、行政の役割が拡大し、諸課題・諸問題に適切に対応していくためには、時宜やニーズにかなった迅速かつ機動的な決定の要請ということも無視することはできない。議事手続において公正性や民主性が重要であることはいうまでもないが、現実には、そのような中で揺れ動き、また、政治的な対立・闘争により、それらが後景に退くことも少なくない。
なお、議事手続を遵守することは重要であるが、そのことが必ずしも充実した審議を保証するわけではない。すなわち、実際の立法や議事のプロセスは多様であり、自治体議会法が規定する議事手続は、主に形式的な手続にとどまるのであって、審議の内容や質の確保につながるとは限らず、そのための必要条件ではあっても、十分条件ではないことに留意する必要がある。
以上のほか、自治体議会に関しては、その位置付け・権限の面から、議決機関と二元代表制(首長制)についても、その原理として挙げることができる。前者は、議会が、自治体の意思決定機関として、地域における自治や行政に関わる基本方針や重要事項を決定することを求めるものであり、後者は、議会と長がともに直接住民から選挙され、それぞれが住民を代表する制度のもとで、両者の分立により抑制・均衡・補完を図ることとするものである。地方自治法が定める現行の制度は、両者の原理の間において、長の役割に重きを置き、議会の役割を限定するものとなっていることは否めず、今後、住民自治の強化の流れの中で、両者の調和をいかに図っていくかが改めて問われることになるのではないだろうか。