新規事業を重点的にチェックしよう
首長の施政方針においてフォーカスするターゲットは、新規事業である。首長も自分のこだわりを実現したくて、首長になっている。また、次回選挙に向けて票が欲しいし、期数を重ねた首長であれば、後世にレガシー(遺産)を残したいと考えている。
その意欲が端的に表現されるのが、新規事業だ。逆にいえば、首長のこだわりがあればあるほど、政策的な合理性や継続性の観点からはあまり望ましくない事業も含まれる可能性が高くなる。議員側からすれば、それだけ隙が多く攻めやすいともいえる。筆者がはじめて経験した予算修正は、当初予算ではなかったが、新たに就任した市長の給与減額予算案の否決修正であった。市長を除いた執行部のメンバーのロジックからすれば、あまりこだわる内容ではなかったため、あっさりと否決修正が実現できた。
それほど予算を必要としない理念的な取組みであれば大きな影響はないが、当初年度は予算額が少ないものの後年度負担が拡大する新規事業は要チェックだ。使用料などを徴収する事業であれば、収益計画も同時に厳しく見極めよう。
一番分かりやすいのが施設整備、いわゆる箱モノ建設である。最初は調査費計上から始まる。「調査費だけですから、首長の顔を立てて、これだけはお願いしますよ、議員さん」といわれることもあるだろう。しかし、ここで認めてしまうと、なぜか「議会にもお認めいただいた」と後でいわれるようになる。危ない、危ない。それが、将来にわたって負の遺産となると判断したなら、調査費から反対することが大事だ。往々にして、予算額の大小で判断してしまいがちになるが、少ないからこれぐらいならいいか、などといった判断は禁物である。
大事なことは、後年度負担及び収益計画は必ず試算しているので、その点についてしっかりと確認することだ。最初はなかなか資料を出してこないが、頑張ってくらいついてみよう。
他市町村の予算資料も参考にしよう
多くの自治体では、新規事業については、それなりに説明資料が準備されているのではないだろうか。最近は、どの自治体も説明資料が充実してきている。
ここで、もう一点、基礎的なことを確認しておく。議会が予算審査の対象としている予算議案は、あくまでも議案番号の付された款項までの額が記載された予算書のみである(地方自治法215条)。さらに正確にいえば、最初の1頁目が議案であり、続く数頁が議案付表である。これを審査するのだ。もっとも、これでは実質的な内容が分からないので、「一般会計・特別会計歳入歳出予算事項別明細書」といわれる参考資料が用意される(地方自治法211条2項(政令に定める予算に関する説明書))。この事項別明細書が、あまり親切ではない(地方自治法施行令144条(予算に関する説明書))。最近では、この事項別明細書の説明欄に、事業ごとの明細を親切に掲載する市町村も出てきた(小金井市(https://www.city.koganei.lg.jp/shisei/zaiseiyosan/yosan/yosanhensei/31yosanjikoubetu.html)、西東京市(https://www.city.nishitokyo.lg.jp/siseizyoho/zaisei/yosan/H31yosan/ippan/31ippankaikeiyosan.html)など)。
小金井市や西東京市のように、事業の総額だけでなく、節ごとにどのように予算が配分されているかまで記述されている場合は、分かりやすいだけでなく、予算修正の提案に当たっても非常に便利である。
都内のある区の事項別明細書は、説明部分に事業ごとの予算額は記載されているが、残念ながら、節ごとの配分額までは記載されていない。
我が市の場合は、事項別明細書は、小金井市や西東京市ほど親切ではないが、その代わり附属資料が充実している。議会基本条例の制定により、それまでの通り一遍の議案書に加え、事業ごとの内容を整理した分かりやすい事業概要調書が用意されるようになった。それまでは、口頭での説明が中心であったため、メモをとるのも大変で、「わざと分かりにくくしているのでは」と思うぐらいであった。こうなると、予算の詳細を確認するために、質問時間も長くなる。
事業概要調書のおかげで、予算内容について確認する質問時間が減って、議会、執行部ともにメリットがあった。事業概要調書では、例えば「交通事故防止啓発普及事業」の場合、その歳入と歳出が、それぞれ歳入は「寄附金」に、歳出は「消耗品費」と「備品購入費」にいくら予算として計上されているか記載されている。読者の所属する議会では、どの程度の説明資料が用意されているか定かではないが、もし説明資料が貧弱ならば、資料の充実を議会内で働きかけるべきだ。
施政方針で、これは問題だという事業があり、かつ、その事業の節ごとの明細が分からないなら、予算質疑で節ごとの予算の割り振りを確認しよう。
また、事業の詳細がよく分からず、かつ、質問時間にも制約がある場合、先に挙げた小金井市、西東京市などの先進的な予算資料を用意している市町村の資料を参照しよう。できれば、自分の所属する自治体と属性の近い自治体の先進事例を参考にするとよい。うまくすると、当年度の予算資料がアップされている可能性もある。予算資料の充実度と議会改革度は比例していることが多いので、議会改革度ランキングなどを参照して議会改革の進んでいる議会の予算資料をチェックしてみよう。