人口30万人を超える自治体前議会議員 木田弥
何かをさせないのも、予算審査の大事な仕事
週刊東洋経済2020年2月1日号の特集は「衝撃! 住めない街」。市役所が老朽化しているにもかかわらず、財政的に厳しいため耐震改修すらままならない関東のA市の事例などが取り上げられていた。記事に取り上げられたA市のかつて議員であった先輩たちは、この事態を招いた責任をどう考えているのだろう。
高度経済成長時代には、何かをつくるのが議員の仕事であり、それによって住民に感謝され、票も稼いできた。しかし、先見の明がある議員や議会が適正なチェック機能を働かせて、将来に禍根を残す事業にブレーキをかけていたなら、A市の悲惨な事態は防げたかもしれない。
特に、これから人口増も税収増も見込めない縮減社会となる中で、議員の予算審査は、まず何をさせないか、そしてもっといえば、何をやめさせるか、ということを意識するべきだろう。
「特集 はじめての議案審査(決算編)」(2019年8月27日号)でも述べたように、議会の大きな役割は、obligation to dissent(反論する義務)、つまり「議案には、何か必ず問題がある」という意識で臨むことであり、これは予算審査に当たっても重要だ。
読者の皆さんには、「あのとき、少なくとも自分だけは修正若しくは反対しておけばよかった」と10年後に思わないように、予算審査に臨んでいただきたい。
一方で、新人議員の場合、予算審査についていくのが精一杯。十分に予算の中身を把握できぬままに、いつのまにか賛成ということも多いだろう。しかし「あのときは新人議員だったから」という言い訳は10年後に通じない。そうならないために最低限押さえておきたいポイントをお伝えしたいと思う。
まずは首長の施政方針をチェックしよう
はじめての予算書を前に、はて、いったいどこから手をつければよいのだろうと、戸惑っている新人議員の方も多いのではないだろうか。筆者も偉そうに書いているが、はじめての予算審査では、いきなり分厚い予算書を渡されて、どうしたものかと思案に暮れたものだった。
議会は容赦のないところで、新人議員に対して親切な説明も研修もない。会派に属していれば、場合によっては先輩議員がいろいろと教えてくれることもあるだろう。しかし、そうではない議員に対しては、執行部側も、わざわざ親切に教えて寝た子を起こすことになるのも面倒なので、新人議員の質問を適当にやり過ごす。
これまで、補正予算については審査してきたことと思うが、当初予算はボリュームも多いし、勝手が違う。そこで、まずチェックすべきなのが、首長の施政方針である。我が市の場合は、予算書と附属資料は1週間前に配布されるが、施政方針は予算が審査される3月定例会初日にしか配布されない。議会初日、登壇した市長の施政方針演説を聞きながら、配布された施政方針に盛り込まれた首長のこだわり新規事業をチェックする。
首長の施政方針は、予算全体の要約でもある。予算のどこに力点を置くか、あるいは、何を新しく始めるかが示されていることが多い。
できれば、施政方針は、現年度分だけではなく、現在の首長の任期に出されたものをすべてチェックしておこう。そうすることで、どの政策に首長の関心があるのか、あるいは過去にどのような関心があったのかも分かる。
大事なことは、施政方針を聞きながら、何を予算化させないか、あるいはより現実的な方向に修正させるか、批判的に判断することだ。
また、最近は、予算編成過程を公開することも増えてきている。特に、予算編成の方針を公開している自治体も増えてきている。施政方針と重なる部分もあるので、一応チェックしておくとよいだろう。
議会における、予算化させないための道具は主に二つ。予算修正と附帯決議だ。特に予算修正は、成立することもまれであるが、筆者の議員NAVIでの連載「予算修正のすゝめ」を熟読いただき、ぜひ修正案づくりだけでもいいので、挑戦していただきたい。予算とはどういうものなのか勉強になるし、予算修正を試みていることが分かると、他会派の議員や執行部などから、修正を阻止しようと説得が入ることもある。その際には、しぶしぶ修正案提出を諦めるふりをしながら、「せめて附帯決議をつけさせてくれ」と要求する方法もありだ。
附帯決議も、一定の歯止めをかける効果は見込まれる。議員が考える以上に執行部は附帯決議に忠実だ。それなりの配慮を働かせてくる。これは、執行部が親切だからということではなく、彼らは、あくまでも法律や条例の忠実な執行者たらんという意識が議員以上に強いことから起こる現象だ。
議員活動においては、自分の価値観を一方的に執行部に押しつけても、「それは考え方の違いですね」と返されて話は平行線に終わる。賢い議員は、執行部のロジックの土俵での勝負を試みる。一つでも多く、執行部のロジックを学ぶことだ。そのロジックの一つが、附帯決議に対する考え方である。もし附帯決議が付されたならば、折に触れて決議案の内容を持ち出すことだ。議員の方はすっかり忘れているが、執行部はしっかり覚えている。