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2020.02.25 議会改革

第5回 揺れ動く議員像 ─これからの議員像をどう描くか─

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5 議員像の多様化

 以上見てきたように、自治体議会議員については、その基本的な位置付けなどは変わらないとはいえ、自治体の規模、政党状況などによって、その姿はかなり異なってくるところがある。また、議会の構成については、社会の多様化や変化を反映し、多様性や柔軟性をもつことが大事となってくる。 
 そのことを考慮することなく、一律的な議員像を語ることは妥当とは言い難い。 
 特に、これまでは、自治体が総合行政主体であることを前提に議会の役割やあり方が論じられてきたが、小規模自治体を中心にフルセット主義からの脱却といったことも現実的な課題となり、自治体の姿も変わっていくかもしれない。そうなれば、議会に求められる
役割や議員像がさらに多様化してくる可能性もある。終身雇用を前提とした働き方の変化や働き方改革、女性議員の増加、男性の家事育児参加などの問題もある。 
 これからの地方自治のあり方を展望する場合に、議会の役割が重要となることはいうまでもない。議会の機能強化のためにあるべき議員像を追求しようとするのも理解できないわけではないが、議会や議員のあり方について、理想に走りすぎたり、型に当てはめすぎ
たり、あまりに画一的な議論をするのはいかがなものだろうか。議員の専門性の意味や、専業化が唯一の望ましい道なのかどうかを問い直してみることなども必要となってくるのではないだろうか。 
 

(1) 従来から「公選職」であることを法律上明記することを求める動きが見られる。その場合、公選職が何を意味するのかの検討が必要となり、また、それとともに議員の地位・職責等としてどのようなことを規定するかが問題となるが、いずれにしても、公選職と規定したからといって、その基本的な位置付けや性格が変わるものではない。
(2) 人口比例を定める公職選挙法15条8項について、最高裁(最判昭和59年5月17日民集38巻7号721頁など)は、憲法の要請を受け、自治体議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しており、投票価値に不平等
があり、それが議会において地域間の均衡を図るため通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、その不平等は、議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、15条8項違反となるとする。その一方で、15条8項は、ただし書で、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるともするとともに、同法271条では昭和41年1月1日現在で設けられている選挙区について人口が基準に満たなくても特例選挙区として存置を認めている。最高裁(最判平成27年1月15日裁判集民249号1頁など)は、15条8項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかは都道府県議会に裁量権が与えられているとしつつ、条例の定める定数配分が同項に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきであり、較差が地域間の均衡を図るため通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されないとき、あるいは、較差はその程度には達していないが、同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは、裁量権の合理的な行使とはいえないものと判断されざるをえないとする。
(3) 少数代表制は、多数代表制に対するもので、少数派からも代表者が選出される可能性を保障する制度とされるが、選挙制度については多数代表制と比例代表制に分類されることが多く、少数代表制というのは日本独特の分類との指摘もある。ただ、代表制ということから見ると、日本の自治体議会の選挙制度は異色なものとなっており、とりわけ市町村議会の大選挙区は、理念的に不十分なものとなっていることは否めず、また、あえてその点も念頭に置きつつ分類するならば、比例代表制よりも、多数派の意見が代表されにくいものとなっているということも含意するものとして「少数代表制」という言葉がなじむようにも思われる。
(4) 市町村合併に伴い経過措置的に選挙区を設けているところはあるものの、現在において、指定都市を除き、恒久的に選挙区を設置している市町村は存在しない。
(5) そもそも、市町村といっても、その実態は多様であるにもかかわらず、一律に同一の選挙制度が採用されていることの問題もある。

(6) 女性議員の割合は、徐々に高まりつつあるものの、それでも町村議会と都道府県議会では10%前後、市議会で15%前後となっており、また、年齢別では、いずれの議会でも60歳以上70歳未満の割合が最も高く、60歳以上が市議会では50%、町村議会では70%を超える状況にある。
(7) 全国市議会議長会の「市議会議員の属性に関する調(平成30年8月集計)」によれば、在職年数10〜 20年が38.6%と最も高く、次いで5年未満、5~ 10年となっている(なお、統一地方選挙のあった令和元年7月集計では5年未満が33.5%、10 ~ 20年が31.4%となっている)。他方、全国町村議会議長会の第64回町村議会実態調査結果(平成30年7月1日現在)によれば、町村議会では、4年未満が26.1%(令和元年7月1日現在では24.9%)と最も高く、以下、4~8年、8~ 12年の順となっている。自治体議会の議員についても多選の問題が指摘されることがあるが、極端に在職期間の長い議員が存在するものの、この数字を見る限り、全体としてはそれほどではないのかもしれない。
(8) 基本的には法律改正を必要とする問題だが、議員のなり手不足が顕在化し町村総会の可能性も一時模索した高知県の大川村議会では、地方自治法92条の2が定める兼業禁止における「請負」の範囲が不明確であるとして、立候補環境の整備の観点から、「議員の兼業禁止を明確にする条例」を制定したことが、話題となった。
(9) 自治体議会の議員の選挙制度のあり方については、近年、政治学者の間で議論されているほか、総務省に置かれた研究会でも検討されるようになっており、それに関し論じているものとして、「地方議会のあり方に関する研究会」の2014年の報告書、「地方議会に関する研究会」の2015年の報告書、「地方議会・議員に関する研究会」の2017年7月の報告書などがある。
(10) 地方自治体における二元代表制、単記非移譲式投票による議会議員選挙などが、国政レベルの政党への統合を弱め、政党システムの制度化を阻害したとの指摘(砂原庸介『分裂と統合の日本政治─統治機構改革と政党システムの変容』千倉書房、2017年)もあるが、日本において政党システムが十分に発達しなかった原因については、社会的亀裂等を背景ともする政党の社会的基盤が十分には存在してこなかったことなど複合的な要因が考えられ、また、競争的な政党システムを構築していく必要があるとはいえ、自治体議会の政党化を進め、自治体議会議員を全面的に全国的な政党に統合していくのが妥当・現実的といえるかどうかについては十分な検討が必要ではないかと思われる。
(11) なお、地域代表的な性格とはいっても、投票価値の平等の要請(人口比例)との調整の問題があり、またそれとの関係で、指定都市のある道府県議会の定数配分については指定都市に定数が偏っていることの問題なども指摘されている。他方、比例代表選挙を導入する場合に地域代表性の確保のために、比例代表選挙と選挙区の併設、選挙区単位での比例代表制の導入なども論じられているが、定数との絡みなどもあり、それらの制度化も実際にはそう容易ではない。
(12) それらについては、その運用によっては、むしろ本会議や議会運営委員会を形骸化させ、議会の透明性を低下させるおそれなども指摘されている。
(13) このほか、多くの自治体議会では、議員にも期末手当が支給されている。他方、福島県矢祭町議会では日当制が採用され注目されたが、そのほかの議会で採用する動きはほとんど見られない。
(14) 自治体において会派に対する補助金として支給されていた「調査研究費」、「調査交付金」等を、全国都道府県議会議長会・市議会議長会からの要望を受け、地方自治法上位置付けたものである。そこでは、自治体の自己決定権の拡大に伴う議会の役割の重要性が増しているという認識のもと、自治体議会の活性化を図るためには、その審議能力の強化が不可欠であり、議員の調査活動の基盤の充実を図るという観点から、会派又は議員に対する調査研究費等の助成を制度化し、併せて情報公開を促進することが、その趣旨とされていた(衆議院地方行政委員会における地方自治法改正法起草案趣旨説明)。
(15) なお、例えば政務活動費など一定の事項につき、会派に所属議員1人のものも含むとされることなどもあるが、これはあくまでもその事項に限られる措置であって、議会の運営・活動で重要な役割を果たす会派の意義・性格に影響を及ぼすものではない。他方、政策的な人数要件については、その線引きの合理性が問題となりうることになり、例えば、自治体議会では会派の要件として議員3人以上と規定するところなども見られるが、その線引きの根拠は必ずしも明確ではない。
(16) 例えば、議事規則にその定義を設け、会派中心のシステムを採用することで「会派議会」とも呼ばれるドイツ連邦議会では、「同一政党又は同一方向の政治目標に立脚しいかなる州においても競合しない諸政党に属する、連邦議会の5パーセント以上の議員の集団」と定義されている。
(17) 会派については、議会基本条例や会派に関する規程などの中で、「市政に関する調査、研究等の活動を行うに当たり、理念や政策を同じくする議員で構成する団体」、「政策を中心とした同一の理念を共有する議員で構成する団体」、「基本的政策が一致する議員で構成する団体」、「市政に関する主義及び主張を同じくし、調査研究、政策立案等をもって提言等を行うため議会内に結成された議員の団体」、「議会の活動の円滑な推進を図ることを目的として議員が相互に連携する組織」、「同志的集合体」などといった定義や性格付けを行うものが見られる。また、東京地判平成10年10月30日判例地方自治190号47頁は、「議会内の会派とは、政治的信条等を同じくする議員の任意の同志的集合体をいうものと解される」とする。
(18) 例えば、全国町村議会議長会の第65回町村議会実態調査結果(令和元年7月1日現在)によれば、町村議会では会派のある議会が149、ない議会が777となっている。また、全国市議会議長会の「市議会の活動に関する実態調査結果(平成30年中)」によれば、会派制を採用していない議会は、全体では7.5%であるが、人口5万人未満の市議会では18.3%となっている。

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