2020.02.10 議会運営
第48回 議員間討議はどうやれば定着するのか?
回答へのアプローチ
「なぜ、議員間討議が必要なのか?」を改めて考えてみると、「言論の府として、又は議事機関として、議論を尽くして、合意形成に努めるため」ということになるでしょう。ただ、こうした目的のためであっても、様々な議会審議の場面での活用が考えられます。
審議の入り口で、討議を通じて、議会として執行部が提案する議題の問題点を探るという場合もあるでしょう。また、改正案や修正案も含め条例案の提出に向けて議員間討議をする場合もあるでしょう。あるいは、出口の部分で、条例案の修文や所管事務調査を通じて執行部に提出する意見書をまとめるに当たっても大いに活用できます。議会基本条例でも複数の場面での議員間討議の活用を規定しているものがあります。
○久慈市議会基本条例
(議員間の討議)
第13条 議会の審議に当たっては、議員間討議を中心とした議論を尽くすものとする。
2 議員は、議員間討議を通じて合意形成を図り、政策立案及び政策提言に努めるものとする。
「議員間討議をする」という思いでは議会が一致しても、どの場面で利用するかについての思いは様々です。自然発生的に生じ、時間をかけて慣例になっていくことはあるでしょうが、議会基本条例にわざわざ規定したというのは「意識的に審議の武器にする」と宣言したことにほかなりません。回答案のうち、Cはとれません。また、議員間討議を行うベき場面や手続が議会で始めから一致しているなら、会議規則にその手続などを書き込むこともいいでしょう。ただ、そうでない場合には、議員間討議の議論は進んでいないのですから、会議規則に位置付けるというのはさらにハードルが高いことといえそうです。
この問題に対する解決策は「とりあえず始めてみること」です。「とりあえず始めやすい」ように手続などを定める必要がありますが、今後、見直しを重ねることも考えると、要綱によるルール化がいいでしょう。会議規則に位置付けるのは、経験をある程度積んで、それぞれの議会での「形」ができ上がってからでも遅くありません。回答としてはBではなくAをとりたいと思います。
実務の輝き
実際にルールをつくる際には、いくつかの議論のポイントがあります。まず、「対象」と「場」が問題となりますが、この部分は「可能性」を考えて広めにとっておくのはどうでしょうか。「対象」としては、議案(議員提出及び首長提出)、請願・陳情、所管事務調査、特別委員会の付議事件などとし、「場」も委員会や本会議のほか、全員協議会などの協議の場も加えておくのがいいでしょう。本会議の場合には、議員数も多く、これまでの伝統や歴史が重んじられるだけに、いきなりの実現は難しいかもしれません。議員の抵抗感が強い場合には、まずは除いておくという判断もあります(1)。
実際に議員間討議を動かすには、対象や場以上に、以下のような手続を決めておくことが重要となります。
●休憩にして行うか、そのまま行うか
●質疑の途中で行うか、別に時間を設けて行うか
●執行部を退席させて行うか、同席のまま行うか
●休憩にして行うか、そのまま行うか
委員会などを休憩にして行う方法は便利です。自由に意見交換しやすくなります。議会として、まだまだ議員間討議に不安な間はそれでスタートすることも可です。ただ、議会基本条例で定めた議員間討議というのは、さらに本格的な取組みとして想定しているに違いありません。休憩中の議論は会議録に載りませんし、普通、中継にも映りません。議決責任という点からも物足りなさが残ります。
●質疑の途中で行うか、別に時間を設けて行うか
質疑の途中で行うか、別に時間を設けて行うかの選択もあります。次の執行部の同席をどうするかという問題との関係があります。
●執行部を退席させて行うか、同席のまま行うか
議員間討議の趣旨から考えると、執行部を同席させて行う必要はありません。なるほど、質疑の途中で行う場合には、議員間討議で生じた疑問を執行部に尋ねることもでき便利な面もあります。ただ、議員間討議は執行部への質疑を中心とする議会のあり方を変えるものとして導入するのですから、要綱では「執行部に退席を求めることができる」としておいて、徐々に執行部抜きの議員間討議に慣れていくことが重要かもしれません。
●その他
議員間討議は自由討議とも表現されますが、発言回数や時間制限の必要性の議論も出てくるかもしれません。また、他人を否定したり、自説をとうとうと述べる者が現れたら、それに対する注意書きも必要になるかもしれません。要綱なのですから、始めから精緻なものをつくろうとせず、必要が生じた時点で改正や追加をすればいいでしょう。
提言
ここまでお話をしても難しいと思うかもしれません。考えるヒントはやはり「何のために議員間討議を行うか」にあります。「合意形成のため」というのが議員間討議の目的ですが、そうだとしても先ほどお話ししたように活用場面はいろいろとあります。
ここで提案したいのが、最終的な「何のためか」と、現在の「何のためか」を切り分けて考えることです。それが実施に向けてのスムーズなスタートにつながります。要綱では、一応、想定される場面に共通する手続を規定するわけですが、要綱作成に際して、当面、着手する場面を議論しておくのです。例えば、まずは、委員会で質疑を終えて、討論の前に議員間討議を行うことにしたとします。質疑を終えて、議論する情報が出尽くした上で、お互いの考え方を示して、歩み寄りを目指すというイメージです(2)。この場合には、事前の議員間討議の申請も可能でしょう。ただ、他の場面に活用が広がったときには、あらかじめの申請ではやりにくい場面も出てくるかもしれません。その場合には、要綱の手直しをすればいいだけのことです。いずれにしても、まずはルールの大枠を文字化して、必要な場で実践に移してみることをお勧めします(3)。
(1) 難しいといいましたが、本会議での議員間討議ももちろん考えられます。執行部提案の議案について提案理由を聞いた上で質疑をし、その上で議員間討議を経て案件への問題点を抽出するのです。各議員や各会派の立場も把握した上で委員会での審議を始めることができます。現在、全員協議会や議院運営委員会でなされていることの一部を本会議の場で行うこともできるようになるかもしれません。
(2) 本来、こうしたことは討論の役割として想定されているわけですが、討論は1回きりの呼びかけで議論ができません。討論の前に議員間討議をすることは本来、討論が想定している「相手に呼びかけ賛同者を増やす」意味合いを持たせることができます。この時点では歩み寄りが難しい場合もあるかもしれませんが、合意に至らなくとも、会派や議員の立場を明らかにして議論すること自体、議会基本条例が掲げる説明責任や議決責任に近づく意味合いもあります。
(3) 原稿作成に当たって、勢籏了三氏(北海道町村議会議長会参与)、野村憲一氏(市川市議会事務局)にご教示をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。また、「議員間討議のあり方について報告書(平成29年1月23日)」(田原市議会運営委員会)も参考にさせていただきました。