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2020.01.27 議員活動

第2回 アウトリーチの有効性と議会・議員(上)

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大和大学政治経済学部教授 田中富雄

 求められる社会的持続可能性のために  

 市民の信託に基づく自治体政府の政策過程には、主権者である市民の参加が不可欠である(1)。また、21世紀地域社会に求められる持続可能性には、「社会的持続可能性」が必要である。ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の増大と深く結びついた社会的持続可能性の獲得は、現代日本の都市と農村とを問わず、今改めてその重要性が認織され始めている(2)。  
 しかしながら、現状では社会的持続可能性にとって必要となる情報共有、市民参加、協働が量質ともに十分であるとはいえない状況にある(3)。そのため、主体間の関係性を構築し、それを通じて課題や目標あるいはそのための一部でも共有し、そこから政策過程を進めるものを生み出しうる能力が個人そして組織にも求められていることが指摘されている(4)。このことは、議会改革が叫ばれている議会・議員についても同じことがいえる。  
 このような状況下において本稿は、市民参加がその必然性(5)を持つのに対して、市民参加への参加率の低さという矛盾を解決し、合意形成及び不合意点を明確にする(6)ことに寄与するため、アウトリーチの有効性、アウトリーチが効果を持つための条件と留意点について考える。

アウトリーチ

 ここでは、「アウトリーチ」を「自治体政府の政策決定権限を持つ主体(議会や長など)が市民等(市民、納税者、利害関係人など)に対して、政策決定過程への市民参加を働きかけたり、市民参加に必要な情報の提供をする活動」と定義する(7)。「政策決定過程」(8)とは、課題抽出、課題決定、課題検討、目標検討、目標決定、政策検討、政策決定の過程の一部ないし全体をいう。  
 このアウトリーチという言葉は、ワークショップや説明会などの個々のアウトリーチを全体として表現する場合にも用いることができる。アウトリーチ(outreach)は、英語で「手を伸ばすこと」を意味する言葉であるが、日本においては、従来、福祉などの分野における地域社会への奉仕活動、公共機関の現場出張サービスなどの意味で用いられることが多い。例えば、社会福祉事業などにおいて、医療・福祉関係者が対象者のところに直接出向いて心理的なケアとともに必要とされる支援に取り組むこと、美術館・博物館が裾野を広げる契機として地域の学校施設等に出向いて巡回・展示会を行うことなどを事例として挙げることができる。また近年では、地域において市民主体のまちづくりの取組みが盛んになりつつある中で、まちづくりに対する市民の声を収集したり、関心を高めたりする活動をアウトリーチとする用例が見られる。 
 このようにアウトリーチという言葉は、様々な分野において、多様な意味で使用されている。本稿の趣旨に沿えば、まちづくりに対する市民の声を収集したり、関心を高めたりする活動をアウトリーチとする用例は、市民参加の様々な課題を克服しながら市民参加の正統性を確保するために、自治体政府によって行われている。そこでは、新たなまちづくりの担い手の発掘と参加者の多様性を確保するために、そこで何らかの意思決定が行われていることやそのプロセスを意識的に多くの人々に伝達する努力をしている。

参加者の少数・特定

 2006年10月に地方自治研究機構が実施した「住民参加協働に関するアンケート調査」(9)は、アウトリーチという言葉は使用していないが、本稿で取り上げるアウトリーチを取り巻く環境としての市民参加の実態を明らかにしている(10)。  
 このアンケート調査では、市民参加の課題として、参加者が少ない(限定的である)という回答が、1,127団体中512団体(45.4%、複数回答)と、ほぼ半数の自治体から寄せられている。この項目が、最も多くの回答を得た項目となっており、参加者が少ないこと、参加者が特定していることが市民参加の課題となっていることが示されている。

アウトリーチの効果について

 アウトリーチに直接関係する先行研究としては、杉崎和久氏による深谷市と山県市の事例研究がある。深谷市の事例研究において杉崎氏は、アウトリーチの効果について、組織検討段階における多様なアウトリーチは、新たな関心層(担い手)を発掘し、直接的な対話の場へ参加する市民を多様化させる効果があることを示している(11)。 
 また、山県市の事例研究において杉崎氏は、より多様な市民から情報収集を行った事例から様々な意向収集方法の実効性について検討し、シンポジウム、ワークショップ、職員ワークショップ、チラシ・広報誌への折込み・情報コーナー、インターネットホームページ、まちづくりキャラバン隊(市役所あるいは会議の場からまちに飛び出し、直接的な対話を通じて、地域情報を収集する)活動などの多様なアウトリーチにより具体的に意見が提出されること、意見数が増加することを手法別に示している(12)。杉崎氏も指摘するように、ワークショップによる情報収集は、参加人数は少ないが、意見数が多く提出されていることが分かる。

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