予算審査における議会の「権限」とその作動
予算審査に際しての議会の「権限」について確認したい。それは、自治法上の権限とともに、運営上の「権限」も含めている。
(1)自治法上の権限
まず、予算議決権は議会にある(自治法96①)。しかし、予算調製(編成)権、提出権は首長にある(自治法112①、149Ⅱ、211①、180の6Ⅰ)。提出に当たって、首長はそれに関する説明書を提出しなければならない(自治法211②)。なお、一般的再議権(拒否権)は首長にある(自治法176①−③、予算にかかわる特別的再議権(拒否権)もある)。なお、議決権は議会にあるが、それは款項のみである。議会には予算案を否決することも修正することもできる。予算案組み替え(首長に趣旨に即して修正させる)動議を議決することもできる。
予算審査は地域経営にとって重要であるがゆえに、予算案提出期限も決まっている(自治法211①)。また、首長には予算の執行状況の住民による公表も義務付けられている(自治法243の3①)。
なお、議会は予算案を修正することができる。その際、「増額してこれを議決することを妨げない。但し、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない」という限界はある(自治法97②)。この「但し」書の基準は明確ではない。
【議会の予算審査にかかわる自治法をめぐる基本的視点(全国町村議会議長会 2006)】
「長の予算提案権を侵してはならないとする地方自治法第97条第2項の但し書は増額修正を認めた際の交換条件であり、曖昧な基準で合理性があるとも思えないので、削除すべきである」(33頁)。
「款項に1円でも計上してあればその増額修正は可能となる」(65頁)。
「予算を伴う議案の提出が許されないとなれば、特例債を伴う市町村合併の議員提案は認められないことになろうし、マスタープランの議決により関連条例が議決されて予算措置を講ずることもできなくなる」(65頁)。
(2)予算過程における「権限」:議員・会派からの要望
予算編成に当たって、行政は従来からも地域要望を受け取っていた。自治会(町内会)、業界団体からである。最近では、地域協議会やその他の地域自治組織(まちづくり委員会等)からの要望も受け取っている。これらの要望は、予算編成作業では参考にされる。すでに紹介した、予算編成作業の透明化は、この要望を実質的なものとすることも意図していた。
会派制を設置している議会では、会派要望として予算編成に影響を与える時期(9月~12月ぐらい)に提出している。会派代表質問での施策実施も予算化を要望するものが多い。また、議員の一般質問は、やはり予算化を要望するものが多い。
なお、住民による予算要求の運動の最も大きな問題は、「〈危険なかけ引き〉に知らず知らずのうちに引き込まれることである」という指摘がある(小島 1984:32)。「住民が自治体の事業担当部署を通じて関係省庁や有力与党議員に陳情する際の〈危険なかけ引き〉」である。
同時に、「住民が議会や議員に陳情する際の〈危険な取り引き〉」もあることには留意したい(3)。議員・会派からの要望は、「取り引き」に使われたり、予算の増額を招く傾向がある。〈危険な取り引き〉は、極端なことをいえば「一部住民の要求を議員が個人的に背負って議会の問題とせず、担当部署に直接取りつぎ、“不透明”な取り引きをおこなって、それを実現してやるという事態に発展し、そこに汚職の温床がつくられる」ものである(小島 1984:46)。議会として予算審査に取り組むことで「取り引き」から脱却すること、そして決算審査に基づいた上での提言により縮小社会時代に適合する予算審査となる。
(3)予算過程における「権限」:議会からの提案
議員や会派による予算要望は、取り引きに活用されるし、予算が増額する可能性がある。議会として予算審査に取り組むことで「取り引き」から脱却する可能性を高める。それに取り組んだのは、多治見市議会である。正確には予算提案ではないが、多治見市の場合、予算と総合計画は連動する。そこで、予算と連動する事業を総合計画策定の際に提案している。
【議会による予算に連動する総合計画事業提案:多治見市議会】
総合計画が地域経営の軸である認識は共有されてきた。そこに「住民自治の根幹」としての議会はどうかかわるか。多治見市議会の試みは、1つ重要な試みであり、4年前からのバージョンアップだといえる。
特別委員会を設置し、議案として提出される以前から議論する体制を整備した。議員が主体的に総合計画にかかわるためにも「議員一人一提案」を行い積極的に議会からの提案を重視した。基本計画は、1事業ごと詳細に審査し、議会として主体的に修正案を提出している。それを踏まえて、総合計画案が12月議会に提出され可決されている。7か月にわたる議会と首長等とのキャッチボールの末に総合計画は策定され可決された。総合計画(冊子)には、市民参加、職員参加とともに、議員参加が書き込まれたことも頷ける。まさに、議会と首長等との協働、つまり総合計画をめぐる政策競争が生まれた。
市政基本条例に、総合計画が明確に書き込まれていることも、議会が積極的に総合計画にかかわった理由である。また、4年前にも総合計画に関する特別委員会を設置して議員間討議を重ねた伝統を踏まえたものである。
なお、北海道栗山町議会は、総合計画の策定にあたって、行政が議論している方向に危機感を持ち(財政危機の認識があまく相変わらず発展計画としたことなど)、独自に総合計画に関する議会案を作成した。それを総合計画審議会委員に対して、議場で説明している。行政側が市民参加を行うとしても、議会として議会案を説明し意見をもらう姿勢も必要だ。議会と首長等との二者間による政策競争が行われた。一歩進めて、住民も加わったフォーラムとしての場の形成が望まれる。
(第11回(2016年)マニフェスト大賞(最優秀成果賞)岐阜県多治見市議会(江藤俊昭講評))