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特集 はじめての議案審査~予算編

2020.01.10 予算・決算

改めて予算審査の充実を──政策サイクルの中に予算審査を位置付ける──(特集1)

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

本稿の課題

 本特集の目的は、予算の重要性を再確認するだけではなく、議会改革の到達点を踏まえて、議会の監視・政策提言力のパワーアップに資するための予算審査のあり方を探ることにある。今回の議会による予算審査の充実をめぐる特集の前に、決算審査の特集が本ウェブマガジンで行われたのは、単にその特集の時期が決算審査時期に近かったことだけが理由ではないだろう。本稿で強調するように、決算審査・認定(不認定)を踏まえた予算審査が求められているからである。この視点を常に強調しておきたい。本特集のテーマである予算についての様々な実践の紹介や課題は、次回以降の論稿に委ねられる。今回は、結論を先取りする以下のことを強調する。
 ①予算過程の変化を読み解く。住民や議会が蚊帳の外に置かれていたが、それへの変化が生じていること、また議会からの政策サイクルが作動し始めたことを踏まえ、財務過程にかかわる重要性を確認する。
 ②財務過程をめぐる位相を意識する。決算から予算という連続性を意識するとともに、同時期には前年の決算過程、今年度の執行されている予算、来年度の予算編成、という三つの層が同時に進行していることの認識である。このことによって、重要な補正予算審査にも対応できる。
 ③議会は財務過程、予算過程にかかわる権限、その手法を模索する。地方自治法(以下「自治法」という)上の権限とともに、従来の予算過程が「取り引き」に活用されていたこと、その打開の方途として、議会がかかわることの重要性と模索されている手法について確認する。
 ④議会として予算過程にかかわる道具を開発する。決算審査の際の道具の活用とともに、予算審査の際に特に重要な道具を指摘する。

 * 今回は予算審査であるが、決算と連動させて予算審査を行うことを強調している。「決算審査の充実」を論述した江藤 2019bを参照してほしい。
 * 予算は、一般会計、特別会計(企業会計を含む)を一括して議論している。本予算や補正予算は予算過程として理解する。本稿では、紙数の都合上、基本的用語等について不可欠なもの以外は説明していない。予算の基礎知識については、小西 2018、及び議会・議員の立場からのものは、新川 2018−2019を参照していただきたい。

地域経営の本丸としての予算に議会がかかわる視点──予算過程の変化を意識する

 予算は、地域経営の本丸であるにもかかわらず、住民も、議会もその過程の蚊帳の外にあった。いわば、由(よ)らしむべし知(し)らしむべからず(人民を為政者の施政に従わせることはできるが、その道理を理解させることは難しい。転じて、為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民に分からせる必要はない(大辞林))である(1)
 地方政府の予算過程の課題を扱った名著(小島 1984:ⅲ)は、次の書き出しで始まる。
 「予算制度は、本来、納税者が政府を監視し、議会が執行機関を監督する道具として作られたものである。高校生以上ならば誰でも知っているこんな憲法原理がなぜわが国の地方自治体の予算には活かされていないか」と。続けて、権威筋からの「十分自覚を持ち、『洗練された“近代市民”』が存在しないからだ」という議論を紹介しつつ、「洗練された“近代市民”」が育つ環境をつくることに努力したのは、権威筋ではなく、「参加市民や先駆的な首長や自治体職員たちであった」という。この視点から、現状の問題点(奥の院、縦割り、根回し等)をえぐり出している。
 多くの地方政府では、こうした問題を継続させている。とはいえ、ようやく予算編成の変化が生まれてきた。財政力指数、経常収支比率等とともに、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率といった財政健全化比率についての指標が制度化されている。また、新公会計方式も導入された(2018年度から)。こうした財政力を浮き彫りにする制度改革とともに、財務過程をめぐって、それぞれの地方政府の新たな試み、変化が少なくとも二つある。
 一つは、予算編成過程自体の透明化が試みられていることである。総合計画との連動は、多治見市方式として定着してきた(「総合計画は、市の政策を定める最上位の計画であり、市が行う政策は、緊急を要するもののほかは、これに基づかなければなりません」(多治見市市政基本条例20③)。それとともに、予算編成時の情報の住民への公表といった財務過程の透明化が行われてきた。鳥取県のそれは有名であるが、それを自治基本条例で規定している地方政府もある(多治見市市政基本条例20、25、京丹後市まちづくり基本条例18−20、橋本市の自治と協働をはぐくむ条例12-14等)。統制・参加のためである。例えば、「自治と協働をはぐくむ条例」に基づき、橋本市では、執行状況(5月、11月)とともに(自治法243の3①)、予算編成方針と予算書の公開を行っている。
 なお、財務過程の透明性を図るため、「健全な財政に関する条例」を制定した自治体もある(例えば、「自律的な行財政運営に向け、健全な財政に関する条例を施行」ガバナンス2009年9月号、参照)。多治見市では、総合計画を財政面から規律することで、総合計画の実効性を担保することを目的としている。一定の基準を設定し、それを超えた場合に規制をかけるという手法ではなく、情報共有によって財政の自律を保障している。
 もう一つは、議会改革が本史の第2ステージに入っていることである。これについては、様々な媒体で論述しているので、参照していただきたい(例えば、江藤 2016)。
 これら二つの変化を考慮すれば、今後の課題は明確である。「住民自治の根幹」である議会は、地域経営の本丸としての財務過程(決算・予算)に自らかかわるとともに、それを住民とともに行うことである(2)。予算をめぐるこうした状況の変化が生じているし、その変化をさらに住民自治の視点から促進させることが必要である(篠原 2012、兼村 2016)。本稿では、議会からの政策サイクルを予算編成・審査に組み込む動向と課題を探ることにしたい。

予算をめぐる二つの位相(連続性)

 議会からの政策サイクルは、議会改革の本史の第2ステージにとっては不可欠な手法である。会期、1年(通年的議会)、そして4年間(通年期制)などの連続性が重要な論点である。決算審査でも、この議会からの政策サイクルを活用することはすでに指摘した(江藤 2019b)。とりわけ、決算審査からの予算提案、そして予算審査へと至るプロセスの重要性の指摘である。ここでは、そのプロセスを通時的な位相と理解しておこう。
そして、もう一つの位相として、共時的位相を想定する。例えば、ある年度のある時点は、昨年度の決算審査、今年度の現行予算執行、来年度の予算案作成、といった三つの予算過程が同時に動いていることの位相である。すでに財務過程の複眼的視点については、指摘している(江藤 2019b)。論点を明確にする決算審査を翌年度の予算審査に生かすだけではなく、本年度予算の監視に活用することである。決算から予算へという視点は重要であろうとも、本年度予算に関してはノーマークになる可能性がある。予算は、3月に議決される予算だけではなく、補正予算が重要な役割を果たす。予算審査において審議した論点を常に意識しつつ、本年度の予算の執行状況(政策との関連では進捗状況)のチェックとともに補正予算の審議に生かす視点である。
 なお、こうした政策財務にかかわる場合、政策を束ねているのは総合計画であることを常に意識して、それを踏まえた予算審査にかかわる必要がある。

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