2019.12.25 議会改革
最終回に当たって
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで、長きにわたって連載してきた「ギカイ解体新書」及び「新・ギカイ解体新書」であるが、本号をもって最終回を迎えることになった。これまでお付き合いくださった読者の皆様に、厚く御礼を申し上げたい。今回は最終回ということで、これまでの連載を振り返ってみたい。
議会の深層の論理とトリセツ
連載の当初は、自治体の議会改革や自治体の実態について、様々な角度から論じてきたところである。議会改革に向けての規範的な提言や運動論は、同時に、議会の実態の解明が前提であるし、さらにいえば、議会の実態を支えている深層の論理への腑(ふ)分けが必要である。実態に腑分けした連載は、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、2019年)として、単行本になった。同書の自分自身による解説も、前回まで行ったところである。
議会の実態を支えている深層の論理を変えないままで、表層を変えようとする議会改革は、深層の論理と矛盾しない範囲でのみ、実現性を持つ。同一の深層の論理であっても、表層の運用の実態としては、たくさんの可能性があるから、深層を変えない議会改革も重要である。
しかし、深層の論理を変えなければ、結局、現状の議会の実態と同じようなことになってしまうことも懸念される。つまり、例えば、議会基本条例を制定して議会改革を進めようとしたとしても、実態としての深層の論理が変わらなければ、これまでの議会の実態と、何も変わることはないだろう。それゆえに、深層の論理それ自体を改革しなければならないかもしれない。ところが、深層の論理を変えることは、表層を変えること以上に難しいことであろう。こうなると、抜本的な議会改革を目指すというかけ声とは裏腹に、深層の論理が変えられない以上、現状維持を続けることになる。このような状態よりは、深層に手をつけなくても、せめて表層からでも部分的に改革を進めることも大事になろう。
議会をめぐる取扱いは、このように永遠の悩みの中にある。そして、そうした現実の悩みに向き合えないときに、議会廃止という自暴自棄に陥ることになる。議会廃止は、明示的に議会を招集しないこと、あるいは、議会を廃止して町村総会にするということだけでなく、日々の運用でいろいろと見られる。議会・議員不信による定数削減・報酬削減は、議会の緩慢な衰退をもたらす。議会・議員の活動総量が低下するからである。また、なり手不足も、議会の緩慢な衰退である。無投票当選は選挙という競争を空洞化させるので、議会の代表性も失われる。さらには、定数を満たせない状態も起きつつある。住民も行政も国も、このような議会の緩慢な衰退を放置しているようである。戦後日本の代議制民主主義は、足元から危機にさらされ続けている。