2019.12.25 議員活動
第1回 自治体議員が市民・首長・職員と向き合うことの重要性
議会・議員の可謬性と向き合うことの重要性
自治体の組織は、議会も行政も、これまで見てきたように多様であり、政策選好も異なる。議会・議員には、このような中で、その保有する監査機能、政策提言機能を生かしながら、地域や行政組織内部の課題を、そこに内包された悪構造性や複雑性(全体性・相反性・主観性・動態性などで構成される)を克服し、市民のために職責を果たすことが求められている。
しかし、前述のように、議会も悪構造性をもち、そこで議論される政策も複雑性をもつ。この悪構造性や複雑性を克服するには、関係者が広く向かい合うことが必要である。なぜなら、互いに向かい合い議論することで、議会・議員からすれば市民・首長・職員と向かい合い議論することで、「自分の存在意義」、「自らの使命」を再確認することが可能となる。では、議会・議員の使命を果たすために、議会・議員は市民・首長・職員とどのように向かい合ったらよいのか。
議会・議員の使命を果たすために──市民・首長・職員への情報提供
第1に、市民・首長・職員への情報提供である。議会・議員は恒常的に市民・首長・職員への情報を発信・提供しておくことが求められる。議会が議会としての権限を発揮するには、行政情報をはじめとする多様な情報を十分に保有し、議論し、検討することが求められる。情報なくして適正なコミュニケーションや決定、評価はできない。情報は政策過程の全般にわたり必要な政策資源である。そのことにより、「議会における議論の空洞化」と「議決における決定(内容)の空洞化」を予防することにもなる。
これらの空洞化については、議会が悪構造性や複雑性という公共政策の過程における難問を内包しており、優れて総合的な運営の方策が求められる。ゆえに、短絡的、一面的に割り切って捉えることはできない。「議論の限界」があるかもしれない。しかし、議会には、市民のために決定するという議会の使命を果たすことが求められている。そのためには、議会・議員が自らを制御するためにも市民・首長・職員への情報提供が求められてくる。
議会・議員の使命を果たすために──市民・首長・職員との条件付きでの議論
第2に、市民・首長・職員との条件付きでの議論が必要である。議論は不確実性のもとでの議論となる。そのため議論には、前提条件を明示することが必要となる。議会・議員が市民・首長・職員と議論するときには、まず自分の立場を確認することが必要である。自分は市民のために何をしたいのか。何ができるのか。議会・議員は、その上で行政との合意形成を経て議論を決定すること、決断することになる。
議論にはポイントがある。一つは、幅をもった議論をすることである。そうすることで発想が膨らむ。幅をもたせた議論は、次のステップに効果的に生かせるということもある。例えば、今、人が住んでいない地域のまちづくりを、誰が、いつ、どこで、どのように、何のために、どの程度、考えることが望ましいのか。土地利用計画の策定に当たり、細街路については具体的な土地利用が決定した段階で決定することもある。
いま一つは、議論では安易に妥協しないことである。そうすることで、政策の内容や効果などを対比することができる。最後の合意形成段階において譲歩するとしても、ギリギリまで妥協しないことで合意内容の立ち位置が分かることになる。徹底的な議論の後にバランスをとりながら合意形成することが求められる。
議会・議員の使命を果たすために──市民への「情」を前提として首長・職員と向き合う
第3に、市民への「情」を前提として、議会・議員は首長・職員と向き合うことである。政策に「情」を持ち込むことは、あまり想定されないかもしれない。しかし、現実の政策は、これまでの文脈の中で動いている。だからこそ、経過措置がとられることもある。司法の分野では、裁判で情状酌量を加味した判決が下されることもある。その意味では、誤解を恐れずに述べれば、「法」や「理」だけに基づく政策ではなく「情」にかなう政策を推進することも必要となる。議会・議員には、「情」にかなう「理」を考え、「情」にかなう「法」(条例)として政策を制度化することが求められている。そして、
このような議論をするためには、現在からの視角だけではなく、古(いにしえ)の人々や未来の人々の視角からの議論が必要である。また地域的にも、より狭域の視点やより広域の視点からも検討することが求められる。このような議論が説得力を高める。
市民のための議会・議員
「そうはいってもできないよ、無理だよ」という声が議員の中から聞こえてくるかもしれない。もし仮に、自分と市民、議会、首長、職員との間で問題が発生してしまったときのことを考えれば、「じっとしておこう」という気持ちが浮かぶことは想像するに難くない。場合によっては、会派の同意が得られず、これまでの会派を脱会することになるかもしれない。
しかし、「無理だよ」、「じっとしておこう」という気持ちを克服し、市民のために市民、議会、首長、職員と真摯に向き合う議員の活躍に期待したい。このような議員の思考と行動が、議会の思考と行動につながれば、議会・議員はもちろんのこと、首長・職員に対する市民の信頼を高めることにもなる。議会・議員の真摯な対応、信頼を得られる向き合い方、議論に期待したい。そのことが、市民のために存在する議会・議員の使命を議員一人ひとりが改めて確認することにつながる。
【参考文献】
◇大森彌(2015)『自治体職員再論』ぎょうせい
◇金井利之(2019)『自治体議会の取扱説明書』第一法規
◇曽我謙悟(2013)『行政学』有斐閣
◇曽我謙悟(2019)『日本の地方政府』中央公論新社
◇田中富雄(2018)「自治体計画に対する議会の制御」廣瀬克哉編著(2018)『自治体議会改革の固有性と普遍性』法政大学出版局、第7章
◇田中富雄(2019)「職員の存在意義をかけて」地方自治職員研修52巻2号、24〜26頁
◇土山希美枝(2017)『「質問力」でつくる政策議会』公人の友社
◇土山希美枝(2019)『質問力で高める議員力・議会力』中央文化社