2019.12.10 議会改革
第2回 議会改革の動き ─続くそのあり方の模索─
3 議会改革にどう取り組むか
各地の議会で議会基本条例が制定され、議会改革が進められてきたにもかかわらず、十分には効果を発揮していないところも少なくない。
その原因については、それぞれの議会ごとに様々な問題や事情が指摘されうるのだろうが、その一因には、議会の位置付け・役割や特性といったものが十分に見定まっていないところもあるように思われる。議会改革がより実りの多いものとなるようにするためにも、今一度、議会の位置付けや機能を再確認しておく必要があり、そこでは、議会の役割として何がコアなものであるかを見定めることが大事となるのではないかと思われる。
そして、そこにおいて必要なのは、高い理想を掲げるだけではなく、身の丈に合った持続可能な改革と議会のあり方を追求していくことであり、改革などによる劇的な成果や変化といったものはむしろ期待すべきではないといえるだろう。改革に取り組むのであれば、「あれもこれも」ではなく、「あれかこれか」ということで、実行可能なものを絞り込んだり、漸進的に改革を進めたりすることなども必要となる。議会改革がブームとなる中で、ともすればそのような視点が希薄となっていたところはないだろうか。
議会基本条例については、制定するだけでなく、その実践や深化(あるいは進化)こそが重要であることはいうまでもない。
そもそも、議会改革は、改革そのものが目的なのではなく、また、ただ単に執行部に対抗して議会の立場を強化すればよいというものではない。議会の存在感が高まったとしても、それが自治の活性化や質の向上につながらなければ、住民からの十分な理解や支持が得られることはないだろう。独りよがりや独善的となることは避けなければならない。目に見える成果につなげるには、時間と粘り強い努力が必要となるが、まずは議会がその与えられた役割を果たし、また、その取組みが自治の質や住民福祉の増進につながるものにしていくことが必要である。
この点、議会改革を通じて、議会が討議機関、熟議の場であることが再確認されることになったともいわれる。議会基本条例でも、ほとんどの条例が議員間討議について規定している。
確かに、議会は議論の場であり、多様な意見を審議の場に表出しつつ議論を通じて調整・決定を行う機関である。しかし、これまで討議があまり行われてこなかったことが問題であったのであり、また、やらないよりはよいとはいえ、議員間の自由討議を何度かやってみたということだけでは、十分な成果とはいえないだろう。たとえ直ちに目に見える効果につながらなくても、それが何らかの形でその決定や行政に影響を与えることになっていかなければ、住民からは評価されることなく、逆に、議会を揶揄(やゆ)する際の常套句(じょうとうく)ともなってきた「おしゃべりの場」とみなされることにもなりかねない。
また、議会では、相変わらず古めかしい先例・慣行や固定観念等に縛られたり、とらわれたりしているような状況が見られ、改革に当たっては、その呪縛を解くことが必要である。とりわけ、これまで何かと模倣されることが多かった国会は、必ずしもモデルとなるものではないことを認識する必要がある。与野党間での駆け引きによるスケジュール闘争となり、あるいは討論が各党各会派の意見の表明の場となっている国会は、むしろ反面教師ともいえるのであり、ミニ国会となるようなことは避けるべきだろう。国会についても、実際に果たしている役割やそのあり方をめぐり、ステレオタイプのところもあるものの、しばしば厳しい批判にさらされ、国民から厳しい視線を向けられてきていることは、周知のとおりだ。
このほか、議会改革とはいっても、議会ばかりに目を向けるのではなく、自治体全体を見回し、住民や執行部を巻き込みながら、議会を中心とした自治体改革という視点をもって進めていくことが重要である。
なお、議会の位置付けや機能、あるいは改革を考える上では、これまでのような画一的な思考に立つべきではなく、都道府県議会か市町村議会か、自治体の規模や状況なども考慮に入れることが必要であり、それに応じてそのあり方を考えていくことが大事となってくるのではないかと思われる。特に、住民との関係のあり方を考える上で、そのような視点は大きな意味をもつことになるだろう。ただし、しばしば試みられる議会のあり方に関する類型やモデルは、一つの方向性を示すものとなるとしても、それにとらわれすぎるのは妥当ではなく、目安にするにとどめ、あくまでもそれぞれの自治体や議会の状況に即してそのあり方を考えていくべきである。
他方、議会改革においては、議会が住民自治の中核機関としてその役割を果たしていくようにすることが主眼とされるべきであり、そのために住民との関係についても再構築していくことが必要である。これまでの地方分権改革では、主に団体自治の強化が図られてきたが、今後の改革では、それぞれの自治体における住民自治の強化が焦点・主眼となってくること、その関係から議会の役割・あり方が問われることになることも、理解しておく必要がある。
その場合に、審議等の公開性と実質的な議論・決定の確保とは微妙な関係に立つが、プロセスの公開性を高め、住民への見える化を図ることで、説明責任を履行していくことの方に重きが置かれるべきだろう。議会の基本的な意義・役割は、住民に見える場で議論・決定を行うことであり、また、住民への見える化は、住民の関心の喚起と理解・参加を促進していくことにもつながることになる。それにもかかわらず、議会改革を標榜(ひょうぼう)し、あるいは議会基本条例を制定して透明性をうたっておきながら、実質的にはその公開性が高まらないというのは、背理といわれても仕方がないのではないだろうか。
議会改革が進められるようにはなっているものの、「改革」とうたうかどうかにかかわらず、日々地道に取り組むべき課題は山積しているといえる。
(1) 初期のものとして、三重県議会、岩手県議会などの先進的な議会で行われた議会の権限強化、議員提案条例の増加や政策条例の取組みなどを挙げることができる。
(2) なお、議会での附属機関の設置については、そのことが地方自治法に反するとまでいえないとしても、合議制の機関である議会に合議制の附属機関を重ねて置くことの問題のほか、安易な附属機関の設置は逆に議会の形骸化につながりかねないこともきちんと認識されるべきだろう。その上で、その必要性が判断されるべきである。また、住民がもつ知見の活用ということでは、参考人、公聴会、専門的事項調査の制度、意見交換会、議会サポーターなどといったものも考えられる。
(3) もちろん、そこに定める仕組みが十分に定着しているのであれば、あえて事後評価など行う必要はないといえるが、実際には、条例を制定するだけにとどまっているところが少なくないようだ。議会基本条例の改正についても、中にはそのバージョンアップを図ってきているところもあるが、その多くは改正されたとしても形式的な改正にとどまるところが多い。
(4) ホームルール・チャーター(Home-rule Charter)は、「自治憲章」などと訳されているもので、自治体が、その組織・運営の基本的事項について自主的に定めるルールであり、自ら行使できる権限や組織の形態を定めることができる制度とされている。アメリカの多くの州で認められており、自治体がホームルール・チャーターを制定する権利については、州の憲法や法律によって定められ、保障されている。
(5) もっとも、不思議なのは、そのようにいわれながら、自治基本条例を制定した自治体のウェブサイトの例規集のデータベースを見ると、自治基本条例が、例規の体系の最初に位置付けられているわけではなく、県庁、市役所、町村役場の位置を定める条例などよりも後に掲載され、他の条例・規則などの中に埋もれてしまっているところが多いことである。
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