2019.12.10 議会運営
第6回 附帯決議を使いこなす
附帯決議の提出場面とその効果
では、附帯決議が提出される場面を考えてみましょう。
附帯決議は「議案には賛成するけど、ひとこと言っておくよ」というものですから、まずは当該議案を審査している委員会での提出が考えられます。委員会で当該議案を可決すべきと決した後、委員から附帯決議案を提出する動議がなされ、提案説明と質疑を経て、当該可決議案に附帯決議を付するか否かを採決します。委員会で可決されれば、附帯決議は委員会の意思となります。
委員会で附帯決議案が可決されると、その内容は本会議の委員長報告の中で語られます。ただ、委員長報告の内容は本会議での当該議案の採決の「参考」にとどまりますから、このままでは附帯決議案は本会議での採決の対象にはなりません。附帯決議案を本会議での採決の対象とするには、本会議で当該議案が可決された後、議員あるいは委員会から改めて決議案が提出される必要があります。そして、本会議で可決されることで、附帯決議は議会全体の意思となります。もちろん、必ず委員会での審査を経なければならないわけではなく、本会議でいきなり附帯決議案を提出することもできます。
「どっちみち本会議で提出しなければならないのなら、委員会で附帯決議案を出しても二度手間になるだけなんじゃないの?」と思われるかもしれません。ところが、そうでもないのです。本会議で可決されるかどうかの試金石として少人数の委員会で提出してみるという面もありますが、附帯決議をどの段階で可決するかによって、議会の意思を示す「強さ」に違いが出てくるのです。
例えば、委員会で否決すべきとされた議案が本会議で可決されたという状況を考えてみましょう。委員会で否決すべきとした結果は本会議の委員長報告で述べられ、会議録に記載されます。そのため、本会議で当該議案が「可決」されたとしても、委員会の結論は「否決すべき」だったことが記録に残ります。議会の意思形成という点から見れば、これは、単に本会議で多数可決となった状況とは明らかに異なります。委員会という機関の意思が否決すべきと示されたことは、単に反対者がいたという以上の反対の意思が形成されたことを意味するのです。
附帯決議の場合も同様に考えることができるでしょう。本会議で附帯決議が可決されれば、それは議会全体の意思として強くはたらきますが、委員会で附帯決議が可決されたにとどまる場合でも、委員会で「ひとこと言っておく」という意思が形成されたことは委員長報告の中で示され、会議録に残ります。これは議会全体の意思よりは弱いものの、本会議の討論で「ひとこと言っておく」のに比べれば、委員会という機関の意思決定であるという点で強くはたらくでしょう。つまり、議会としては、「ひとこと言いたい」意思をどの程度強く示すかによって、本会議での附帯決議の可決、委員会での附帯決議の可決、本会議での討論というように、手段を使い分けることができる、言い換えれば、今後の行政チェックの「くさび」の打ち込み具合を加減できるというわけです。
議会の意思は「可否」だけではない
議会の議決は可否の二択であり、これに条件を付けることはできませんから、審議の中で意見や要望、懸念などが表明されても、議決すれば議会の意思は可・否のいずれかに収束します。この点、附帯決議は、可決議案について、例えば「8割がた賛成」というときに、残り2割の理由を説明するのに附帯決議を付けるというように、議会の考えをより明確に示す機能を担います。法的拘束力はなくても、附帯決議を活用して「議会はこう考える」と執行機関や住民に示すことは、「熟議」する機関としての議会の役割に直結するものといえると思います。
(『自治体法務NAVI』「とっても身近な自治体法務シリーズ」2019.10.15号より転載)