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2019.11.25 議会改革

第1回 議会をめぐる状況 ─期待と不満の交錯─

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2 根強い議会に対する無関心・不満・不信

 このように自治体を取り巻く環境は大きく変化し、議会の果たすべき役割やそれへの期待は大きくなっているといえるが、残念ながら、それに十分に応えているとは言い難い状況にある。
 また、それらの環境の変化は、単純に議会に対する期待を高めたり、追い風となったりしたわけではなく、むしろ議会がより厳しい立場に立たされる場面も見られた。
 例えば、地方分権や政治主導の流れなどを通じて、実際に求められたのは長の強いリーダーシップであり、長の権限や主導性がより強まることとなった。住民との関係についても、住民の参加や住民との協働を積極的に進めたのは長の方であり、これらを頭越しに進められることとなった議会の側は、微妙な立場に立たされ、逆に、住民参加などに対する懐疑的・消極的な姿勢を示すことなども少なくなかった。NPMによる自治体経営においても、長によるトップマネジメントや効率性が重視され、議会の影は薄かったといえる。議会の側が、抵抗勢力の側に立たされる場面もしばしば見られた。
 出遅れることとなった議会に住民の関心が向かうことはなく、また、議会の情報はなお不足し、住民からは議会の姿は見えにくいままである。国・地方を問わず、議会政治に対する人々の不満は強く、それは無党派層や無関心層の増加にもつながっているが、とりわけ、自治体議会が果たしている役割については、十分に理解されているとは言い難く、それに対する関心も評価も低調といわざるをえない。
 そのことは、議会選挙における低投票率や無投票当選などにも現れており(12)、その結果、選挙が空洞化し、議会や議員の代表としての正統性が問われかねないような状況も生じている。
 そして、そのような中で、政務活動費問題をはじめ議員の不祥事が相次ぎ、議会への信頼が揺らいでいる。議会に向けられる住民の視線にはかなり厳しいものがある。
 以上のようなことなどもあって、自治体議会の議員の定数は大きく減少してきているにもかかわらず(13)、定数削減の圧力はやみそうにない。それらになり手不足が拍車をかけ、議会の存続可能性まで議論の俎上(そじょう)に載せられるようになっている。
 議会は以上のことに正面から向き合わざるをえなくなっているのである。
 議会改革の動きは、そのような中で生じてきたものであり、議会の側の危機感の表れといえるだろう。
 ただ、いくら理想を掲げ、メニューを並べたとしても、その場しのぎのものではなく、地に足が着いたものでなければ、成果に結びつき、あるいは成果が長続きすることはなく、住民に響くものとはならない可能性がある。議会にまず求められているのは、与えられている役割をしっかりと果たすこと、自治の質や住民の福祉の向上に貢献することである。
 議会への不満・不信は、期待との裏返しのところもある。しかし、いたずらに期待値を高めても、目に見える成果を上げることなくそれに応えられなければ、その分だけ失望もより大きいものとなる。政治の有効性の低下といったことも指摘される中で、「できること」と「できないこと」を見定めるようにすることも大事なのではないだろうか。

 

(1) その点では、第1次分権改革における機関委任事務の廃止は重要な意味をもつ。特に、自治体が担う事務がすべて自治体の事務(自治事務と法定受託事務)に整理され、それらについて規定する国の法令の第1次的解釈権を自治体がもつことが明確となったほか、議会にとっても、それまで機関委任事務として基本的に関与できなかった事務について、一部の例外はあるにしても、その権限の対象とされることになった。その意義は大きいと見るべきであるが、残念ながら、そのことが十分に理解され、活用されてはいないのが現状である。
(2) このことは、国の法令中心の法システムがいわば上(国際法)と下(自治体法)から圧力を受け、変容を余儀なくされつつあると見ることもできる。
(3) 1999年の地方自治法改正以降の議会に関連する改正項目としては、議員定数制度の見直しと法定上限の撤廃、議案提出要件及び修正動議の発議要件の緩和、議員派遣の根拠及び手続の明確化等、定例会の招集回数の自由化、臨時会の招集請求権の議長への付与と長が招集しない場合の議長の臨時会の招集権の法定、委員会の議案提出権の創設、議決事件の範囲の拡大、通年会期を可能とする制度、委員会の規定の簡素化・条例化、本会議での公聴会開催・参考人招致の容認、条例・予算の専決処分につき議会が不承認とした場合の長の措置と議会への報告の義務付け、決算不認定の場合の報告規定の整備などを挙げることができる。
(4) 行政法の世界では、「法律による行政」の原理と呼ばれるが、地方自治体では法律による行政と条例による行政が問題となることから、「法による行政」としている。なお、1990年代以降の統治構造改革では、国や自治体における行政指導を中心とした事前規制による行政の不透明性や法の不足が指摘され、事前規制調整型社会から事後監視救済型社会への転換、法の支配の強化が掲げられ、改革が行われてきた。
(5) 福祉制度については、集権主義・画一主義・官僚主義などに陥っていたことが批判され、選択の多様性、柔軟性、地方分権、非公的部門の役割の拡大による多元主義を推進する観点から、行政処分である「措置」から利用者の選択を認める「契約」の方式への転換、福祉サービスの供給主体の多様化、地域福祉などの構造改革が進められてきたことで、福祉における自治体の役割が大きく拡大したことにも留意しておきたい。ただし、それは、これまで家族や会社が担ってきたものを、それらの機能低下や解体に伴って、自治体に担わせるようにした面もあり、また、福祉について定める法令の規律密度が高く、自治体の裁量の幅はなお限定されたままとなっていることにも、注意が必要だ。
(6) PPPは、Public Private Partnershipの略称であり、官だけでなく民(市民・企業・NPOなど)も公共サービスの担い手であるとの考え方に立ち、これらの主体が連携・協働することによって、公共サービスの質の向上と効率的な提供を実現しようとする概念やその手法を総称するものとして用いられているものである。また、NPMは、New Public Managementの略で、民間企業で活用されている経営理念や手法を、可能な限り公的部門へと適用することにより、公共部門のマネジメントの革新を図ろうとする新しい公共経営の手法を指す。NPMは、戦略計画の策定と、その達成度合いをモニタリングする評価システムの設計などを主眼とし、①顧客主義への転換、②業績・成果による統制、③ヒエラルヒーの簡素化、④市場メカニズムの活用などを特徴とするといわれている。
(7) 地方分権を進める上で基本的な考え方とされてきた「補完性の原理」は、国・広域自治体・基礎自治体の関係だけでなく、官と民の関係を考える上でも援用されるものであり、地方分権と同時に行政の民間化が進められることで、地方行政のあり方が変容し、また、問われていることにも留意する必要がある。
(8) 政と官の関係は、現実には多様であるが、基本的には、①統制の規範に基づく優越・従属関係、②分離の規範に基づく相互不介入関係、③協働の規範に基づく指導・補佐関係の三つの規範によって複合的に規律され、そのような中で政治と官僚は微妙な抑制均衡の関係に立つものであり、それらの間でのバランスのとり方が問われることになる。
(9) ICTやAIの発達・活用が将来的には自治体の役割・存在の縮小につながるとの見方もあるが、それについては、地方分権や行政の民間化などとの関係も含め、総合的に見ていく必要があるだろう。ただし、人口減少に伴う人材の不足を補い効率的な行政を確保するものとしてICTやAIの活用をさらに進めていくことにならざるをえず、そのことが地方行政の姿を大きく変えていくことになる可能性が高いといえる。
(10) 2040年代には、団塊ジュニア世代が高齢者となり高齢者人口がピークに達し、減少する現役世代では高齢者を支えきれなくなるなど様々な問題が噴出することが予測されており、この問題は「2040年問題」として論じられている。自治体をめぐっても、自治体消滅、自治体行政(OS)の書き換え、圏域化などがいわれ、議論となっていることは、周知のとおりだ。
(11) 平成の合併の評価には、なお時間を要するが、合併の効果として、①専門職員の配置など住民サービス提供体制の充実強化、②少子高齢化への対応、③広域的なまちづくり、④適正な職員の配置や公共施設の統廃合等の行財政の効率化などの効果が指摘される一方で、①周辺部の旧市町村の活力喪失、②住民の声が届きにくくなった、③住民サービスの低下、④旧市町村地域の伝統・文化などの喪失などの問題点・課題も指摘されている。なお、平成の合併では、市町村合併が積極的に行われた地域と、あまり行われなかった地域が生じたことにも留意が必要である。
(12) 統一地方選挙における投票率は、回を重ねるたびに低下してきている状況にあり、2019年の統一地方選挙では、平均投票率が、都道府県議会議員選挙で44.02%、指定都市議会議員選挙で43.28%、市議会議員選挙で45.57%、特別区議会議員選挙で42.63%、町村議会議員選挙で59.7%となっており、また、無投票当選者数の割合は、都道府県議会議員で26.9%、指定都市議会議員で3.4%、市議会議員で2.7%、町村議会議員で23.3%であり、都道府県議会議員と町村議会議員で増加が続いている(総務省「地方議会・議員のあり方に関する研究会」(第1回)提出資料による)。
(13) 自治体議会の議員の定数については、1998年末には6万4,712人(議員数6万3,140人)であったのが、2016年末には3万3,436人(同3万2,991人)にまで減少してきている。その内訳(定数)は、都道府県議会が2,837人から2,657人、市区議会が1万9,744人から1万9,260人、町村議会が4万559人から1万1,074人への減少となっている。自治体議会の定数については、かつては地方自治法で人口規模に応じて法定されていたが、1999年の改正でそれが上限とされ、さらに2011年の改正で条例により自由に定めることができるようになった。なお、議員定数は、平均で、町村議会が12.0人(2018年7月現在)、市議会が23.3人(うち指定都市は58.2人)(2018年12月現在)、都道府県議会が57.2人(2015年7月現在)となっている(それぞれ全国町村議会議長会「町村議会実態調査結果」、全国市議会議長会「市議会議員定数・報酬に関する調査結果」、全国都道府県議会議長会「都道府県議会提要」による)。

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