2019.11.25 議会改革
第1回 議会をめぐる状況 ─期待と不満の交錯─
(2)法治主義強化の要請
第2は、自治体における法治主義の強化の要請である。
自治体においては、従来から、条例の制定の回避や要綱行政など、法の不足や不透明性が指摘されており、法による行政(法律による行政・条例による行政)を推進していくことが課題となってきた(4)。とりわけ、自治体の自己決定権が拡大するに伴い、法による公正で民主的な行政を展開していくことが強く求められており、その点からも条例の制定主体である議会の役割は重要である。
法による行政は、恣意・専断・独善による行政を排除し、人々の権利利益を擁護するために、行政権の行使は、国民・住民の代表である議会が制定する法律や条例に基づくことを要請するものであり、議会による行政の民主的な統制という要素も含むものとして理解されるようになっている。その場合、自治体における重要事項については、議会が決定すべきことが重視され、議会の側が主体的にその役割と責任を果たすことが求められることにもなる。
他方、法律による地方行政の規律は、自治体の自己決定や自治立法の余地を狭めるものとして、大枠的なものにとどめることが求められ、法律と条例による役割分担を図っていくことなども必要である。
もっとも、一部自治体での自治立法の活性化や政策法務の動きなどの変化は見られるものの、自治の現場において法治主義という考え方が十分に浸透しているとは言い難く、また、それに対する議会の側の意識は依然として希薄である。
(3)ガバナンスと公私協働
第3は、ガバナンス、公私協働、NPMなどの広まりである。
地方自治においてもガバナンスということが強調されるようになっているが、そこでは、自治の能力や自治の質(グッドガバナンス)が問われ、それを確保するための体制の整備や統制の強化が求められるとともに、自治の本来的主体・ステークホルダーである住民との関係や、透明性、健全性、適正性、効率性、説明責任、責任の明確化などが重視されることになる。
統制ということでは、執行機関における内部統制のほか、議会による監視・統制や住民の統制ということが重要となるのであり、また、議会も主体的に加わった政策評価やPDCAサイクルの仕組みの整備なども課題となっている。
なお、ガバナンスということでは、コンプライアンス(法令遵守)の強化も重要な柱となるのであり、ルールを守るだけでなく、戦略的に法的な判断を行っていくことや様々なリスクの予防・回避の対応を行っていくことが求められるようになっている。そして、コンプライアンスということからは、議員による口利きなどが行政をゆがめるものとして問題となっており、議員自らが襟を正すことが必要である。
さらに、福祉国家の見直しや国家の役割を限定する新自由主義的な考え方の強まりなどもあって、行政のあり様そのものの再検討なども迫られるようになっていることにも留意する必要がある(5)。
特に、これまで公共は「官」が担うものとの考え方が根強く存在してきたが、公共性の空間は官の独占物ではなく、「民」も担っていくようにすべきとの考え方が強まり、公私協働(PPP。自治体においては「住民との協働」とも呼ばれてきた)の取組みや、行政のスリム化・民営化、民間への業務の譲渡や委託などの「行政の民間化」が進められるようになっているほか、民間経営手法を公的部門に導入しそのマネジメントの革新を図ろうとするNPMの導入が推進されてきている(6)。
これらは、地方自治や自治行政のあり方に大きな影響を及ぼすようになっており、公共サービスの質の向上と効率的な提供を実現する上である程度避けられないものともなっているが、民間への安易な下請化、公共性・公正性の確保、住民の権利利益の擁護、自治体側の責任などの問題もある(7)。長主導で進められている行政の民間化に対し、議会の側は、それらの問題なども踏まえ、しっかりとチェック・監視をしていくことが求められているといえるだろう。