2019.11.25 議員活動
市の職員が休暇中に県内で開催された政治家の年度初めのパーティーで乾杯の挨拶をした場合政治的行為の禁止に反するか/実務と理論
4 禁止される政治的行為
地公法で禁止される政治的行為は、①政党その他の政治的団体の結成等に関与する行為(36条1項)と②特定の政治的目的の下に行われる一定の政治的行為(36条2項)の二つに大別することができる。
(1)政党その他の政治的団体の結成等に関与する行為(36条1項)
政党その他の政治的団体の結成等に関与する行為については、政治的目的の有無や区域のいかんを問わず、その行為自体が制限されるものである。 具体的に禁止される行為としては、①政党その他の政治的団体の結成に関与すること、②政党その他の政治的団体の役員となること、③政党その他の政治的団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘活動をすること、の三つが掲げられている。
(2) 特定の政治的目的の下に行われる一定の政治的行為(36条2項)
特定の政治的目的の下に行われる一定の政治的行為については、目的に行為が伴う場合を禁止するものであり、どちらか一方だけでは制限の対象にならない。
禁止の対象となる政治的目的は、①特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的、②公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的、の二つが規定されている。
ここでいう「特定の人」とは、当該選挙において立候補の制度がとられている場合においては、法令の規定に基づく正式の立候補届出又は推薦届出により候補者としての地位を有するに至った者をいい、まだ候補者としての地位を有するに至らない者は含まれない。
禁止の対象となる政治的行為については、地公法36条2項各号で具体的に定められている。ここで、同項1号における「勧誘運動」とは、不特定又は多数の者を対象として組織的、計画的に、構成員となる決意又はならない決意をさせるよう促す行為をいう。
5 区域の限定
地公法36条2項の制限は、原則として一定の地域内に限られている。これは、職員は一定の地域内でその権限を行使し、また職務を執行するものであるから、その区域外では政治的中立性を損ねるおそれがないと考えられるためである。
具体的には、都道府県の職員は当該都道府県の区域外、特別区に配属されている都の職員は当該特別区の区域外、市町村の職員は当該市町村の区域外においては、それぞれ自由であるとされる。さらに、派遣職員など2以上の地方公共団体の身分を併せ有する者は、そのいずれの地方公共団体においても政治的行為の制限を受けることとなる。
6 設問の検討
まず、本設問の職員は「休暇中に」政治家のパーティーに参加していることから、休暇中等の業務時間外に行われた行為についても、地公法36条の適用があるか否かが問題となる。この点は、前述通知により、職員は、職員たる地位を有する限り、その勤務時間の内外を問わず本条による制限を受けるものであるとされており、本条の適用があるものと解される。
次に、本設問の行為が地公法36条1項と同条2項のどちらを検討すべき問題といえるかについてであるが、政治家の年度初めのパーティーが特に政党の結成や勧誘に関わるものであるといえる場合でなければ、同条2項の適用を検討すべきと考えられる。
地公法36条2項の適用を検討するに当たっては、①政治的目的の有無、②政治的行為の有無、③区域内であるか、という3点を判断する必要がある。特に、②政治的行為の有無については、乾杯の挨拶をすることが同項1号に定める「勧誘運動」に当たるかの判断が重要になる。
この点、挨拶をするという事実のみでは勧誘活動には当たらないものの、例えば、投票を呼びかけるなど、挨拶において直接的な用語等を用いずとも、その言動全体の趣旨が特定の政党等を支持する目的を持つと解される場合には「勧誘活動」と見なされると考えられる。
なお、政治的行為の制限以外にも、地公法33条の信用失墜行為の禁止等その他規定に抵触しないかについても留意する必要がある。
7 おわりに
以上、地公法に基づく地方公務員の政治的行為の禁止について、その具体的内容の検討を行った。本問における検討が職務遂行の一助になれば幸いである。
(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年9月号より転載したものです)