2019.09.25 政策研究
議会のための職員人事のトリセツ
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
前回は、拙著「トリセツ」(『自治体議会の取扱説明書』第一法規、2019年)でいいたかったことのうち、二元代表制という用語を乗り越えることについて触れた。繰り返せば、首長が単独で意思決定することには代表性はなく、代表性はあくまで議員たち及び首長という公選職者たちが議論する中にある、ということである。
今回は、「トリセツ」でいいたかったことの二つ目を説明してみよう。それは、自治体の行政職員を議員・議会が使いこなすべきだ、ということである。
議会事務局に過大な期待をしない
一般の議会改革論では、議会が首長に対抗して、充分な政策論議ができるようになるためには、議会事務局の強化が必要であると提言される。例えば、議員提案条例を制定しようと思えば、政治家である議員だけでは立案作業ができないから、議会事務局職員の支援が不可欠と思われる。実際の議員提案条例の実例を見ても、事務局の献身的な努力が見て取れる。また、議会改革そのものも同様である。議長のリーダーシップ、改革派議員の声、さらには、各会派の了解が必要であるとしても、実際には議会事務局のカリスマ的職員が、議会改革には不可欠である。このような実態に鑑みれば、議会機能の強化のためには、議会事務局の強化は必須であるといえよう。
筆者も、議会事務局の強化自体には、他の条件が等しければ賛成である。とはいえ、行政改革によって自治体職員定数が厳しく削減されている中で、議会事務局の職員の増員は、執行部の各所管課の人員減をもたらす。つまり、限られた人員を割り振らなければならないときに、執行部職員を削ってまで、議会事務局職員を増員することに価値があるのかと問われると、規範的な政策判断としても、厳しい結論にならざるをえないだろう。
また、現実主義的な政治力学の想定からも、首長が議会事務局職員に、有能な人員を多数張りつけるのかといえば、大いに疑問が生じる。つまり、「敵に塩を送る」ようなことになるのであれば、議会事務局職員を増員・強化することを、首長や執行部幹部職員(人事課・総務課・財務課など)が納得するとは到底思えない。実際には、議会対策として、議会運営が滞りなく進行するように、議事関係で必要充分な人員を配置するだけである。つまり、議会事務局とは、議会そのものの補助機関というよりは、議会において首長提案を円滑に通過させるように、議会内の首長与党=多数派を補佐する、議会対策の前線基地である。実態としては、首長の補助機関である。あるいは、首長に与(くみ)する議会多数派の補助機関である。
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