2019.09.25 議員活動
【インタビュー】新時代を迎え、 片山善博氏に聞く
Ⅳ大学教授になって思うこと──自治体の課題
■地方創生と地方分権
丸山 先生は現在、知事も大臣も経験なさって、大学に籍を置きながら、地方自治のすべてをご存じの立場からいろいろご覧になっていらっしゃるのですが、今、自治体が抱える課題、地方創生とか人口減少とかについて、どのようにお感じになっていらっしゃるのでしょうか。特に、私が市町村の現場を歩いていますと、いろいろな取組みが次々と国から出されますので、自治体はそれらをキャッチアップするので手一杯というような意見を聞くのですが、そのあたりのことについては、どう思っていらっしゃいますか。
片山 今、丸山さんがいみじくもいわれたように、自治体は、今まで何十年も国の打ち出す政策をフォローして、それを咀嚼しながらこなしてきているわけです。それで今の状態でしょう。こういう自治体のビジネスモデルは転換しなければいけない、そういう時期だと思うのです。
政策は、国から出たものをあんぐりと口を開けてもらい受けるのではなくて、自分たちの責任と判断で本当に必要なことに取り組む。そういうやり方に改めないと、いつまでたってもじり貧状態が続き、疲労感ばかりたまります。確かに国は、地域活性化とか地方創生とか、いろいろな政策を打ち出して、それとともにお金も出してくれます。自治体は、それを追い求めるのに汲々としていますよね。それにもかかわらずというのか、それゆえにというのか分かりませんが、全く効果が上がらない。それは本当に地域のことを考えていないからです。
地域のことを真剣に考えたら、何が必要かはおのずと分かってきます。プレミアム付き商品券を配ったら地方創生になるというのは、誰が考えたっておかしいじゃないですか。でも、地方創生の目玉商品はプレミアム付き商品券で、これをほぼすべての自治体が発行しました。じゃあ、プレミアム付き商品券を配ったからといって、出生率が上がりますか、上がるわけがないですよ。プレミアム付き商品券を配って若者の人口流出に歯止めがかかりますか、国の音頭のもとで何の関係もないことをやっているわけです。このような愚かなことはやめて、本当に自分たちの地域には何が必要かということを自分たちで考えて、身銭を切ってやるという、そういう態度が必要です。
丸山 地方創生については、さらに5年間やるということがすでに閣議決定されています。こういう情勢下で、自治体は住民の声を聞きながらどうやって取り掛かっていけばいいのでしょうか。
片山 自治体は、これまでの国の指示待ちのような姿勢を変えて、国のいうことにも耳を傾ける、でも、国のいうことに従うのではなく、自分たちで真剣に考えて決める。そういう態度が欠かせないと思います。もちろん、国のいうことを無視せよというつもりはありません。しかし、国のいうことは参考程度にとどめておいて、自分たちで真剣にじっくりと考えるということです。もし、国の政策が自分たちの方針と合わないなら、そのときは自分たちの方針を優先するという態度が必要だと思います。
今までは忠実に、国からいわれたらそれに右へならえをしてきたじゃないですか。例えば、集中改革プランということで行政改革を進め、職員定数を減らしましたね。そうしたら、人が足りなくなってしまったり、非正規職員ばかりが増えたりしている自治体があります。何でそんなことになったのかといえば、結局、国のいうことを鵜呑みにしたからです。よくなるどころか、かえって悪くなっている面も多いのです。ですから、地域のことは自分たちで真剣に考えて取り組むというやり方に変えなければいけないということです。
丸山 今まさにこうして人口が減っていくという状況の中で、一方で地方分権の議論があります。また、総務省の2040構想が出てきて、地方自治の枠組みなどの議論をしていくようですが、なかなかうまくいっていないようです。先生は、この時代に地方分権をどのように考えるべきだと思われますか。
片山 地方分権というのは、私は今までが上滑りだったと思うのです。何か形式的・名目的なことにとらわれすぎていたのではないかと思うのです。
先ほどから申し上げていますように、自分たちの地域のことを真剣に考えたときに、今足りない権限は何だろうかとか、具体的にそういうところからスタートすべきだと思うのです。そうしたプロセスがないまま、地方分権とは「権限をよこせ」、「財源をよこせ」ということだと、少し上滑りだったと思いますね。
このところ自治体をめぐって起きていることを見ると、考える力がどんどん失われてしまって、自分たちで処理すべき事柄も処理できなくなっているとの印象を受けます。自治力とでもいうべきものが退化してきているのではないかという気さえします。
例えば、昨年、文科省から教育委員会に対して、「ランドセルが重すぎるから配慮してはどうか」という通知が出ているんですね。笑ってしまいますよね。そんなことは文科省からいわれるまでもなく、学校や教育委員会が解決しておくべき問題です。国に苦情が持ち込まれたぐらいだから、学校や教育委員会に保護者から文句が届いているはずです。それなら、その段階で保護者や教師から話を聞いて、現場で速やかに是正できるはずです。文科省の通知には、「夏休みの宿題は2日に分けて持ってこさせたらどうか」とか、「何か重たい荷物を持って帰るときは、親が特別に迎えにきてもいいことにしてはどうか」とか書いています。文科省がいっているのは、その程度のことです。何でそんなことを自分で処理できなくて、文科省からいわれるのか。実は、文科省には保護者から文句がくるのだそうです、ランドセルが重すぎると。ということは、ひょっとして自治体は当てにされていないのかもしません。地域のことなのに自分たち限りで決められない実態があるからでしょう。地方分権をいう前に、まずこういうところを変えることから始めるべきです。自分たちのことは自分たちで処理するとの気概を持たなければなりません。
それから、こんなこともありました。中教審の答申を見て笑ってしまったのですが、「給食費を教師に集めさせるのをやめたらどうか」というのです。ということは、いまだに給食費を集金袋で集めている学校が多いということですね。今では水道代や固定資産税などの地方税もほとんどが口座振替なのに、給食費は集金袋で集めているのです。教師が集めて計算して、誰と誰が払っていないからと保護者に督促の電話をします。そうすると、「うるさい」とかいわれて、それだけで先生は消耗してしまいます。あれほど教師の多忙化解消が叫ばれているというのに、何でこんなことぐらい改善して、教師を少しでも楽にしてあげられないのか。そんなことすら自分たちで解決できないで、中教審からたしなめられたりするようでは、自治体としてなっていないと思います。自ら考え、自ら課題を解決する力がないのだと思うのです。
そこをクリアしないと、地方分権の議論など空洞化してしまいます。自分たちで考えて、自分たちの地域のことは自分たちで処理するという地方自治の原点に立ち返ることが必要だと思います。
丸山 そうしますと、まさに現場にいらっしゃる自治体の職員の方、もちろんトップの方も含めてですが、一人ひとりの意識を変えることが重要になってきますね。
片山 そのとおりだと思います。
■これからの自治体への期待
丸山 人が少なくなり、仕事が増えていく中で、自治体の環境は年々厳しくなっていきます。これからの自治体は、どうやっていけばいいのでしょうか。何かエールのようなものをいただけませんでしょうか。
片山 仕事をしていて自分で気がついたことは、きちんと伝えるということが大切だと思います。無理矢理我慢しないでいうことです。人が足りないと思うなら、「人を増やしてください」、あるいは「仕事を減らしてください」というべきです。ひと昔前なら、労働組合がきちんといったものです。最近の労働組合は、怠けているのではないかと思えて仕方ありません。
例えば、先ほどの給食費の問題なども、どう解決しようかと考えたら、集金袋をやめて口座振替にする、公会計にするということを誰でも思いつきますよね。そのように変えるに当たって、もし何か国の規制や制限があるのであれば、それを解除するようにと主張するのが具体的な地方分権ではないでしょうか。
自分たちが困っている問題、住民が困っている問題、そしてこれらを地域で解決するに当たり何か障害があるのであれば、それを問題提起していくという姿勢が大切だと思います。国が決めたことを忠実にもらい受け、それに自分たちを合わせるというのがこれまでのやり方でした。そうではなくて、まず自分たちで地域の問題を解決しようというところからスタートして、国に対していうべきことはきちんといって解決していく。そういう習慣を身につけなければいけないと思います。
丸山 おっしゃるとおりですね。今のお話とも重なるのですが、間もなく平成が終わり新しい時代を迎えようとしていますね。先を見据えたときに、どうしたら地方自治は元気になるのでしょうか。片山地域本位に考える力、これを回復することに尽きます。今は、地域本位に考えなくなっています。何でも東京の目線で考える、そういうことが多くなっていると思います。
丸山 確かに、東京に高齢者が集中するという話も、どちらかというと国から目線ですね。
片山 日本版CCRC構想というのがありますが、これは、「地方では人口が減って困っているでしょう。東京には初老の人がたくさんいますから受け入れませんか、国がそれを支援しますよ」というものでしょう。結局、東京目線です。東京で高齢者が余っているから、まだある程度元気なうちに地方に引き取ってもらおうというものです。そういっては身も蓋もないから、CCRCとかいっているわけです。ちょっと待てよ、これは本当に我々地域のことを思って考えられた政策なのかと考えるべきです。地域本位に考える視点が大切ですね。
丸山 国も地方も、平成の時代にいろいろ試行錯誤しながら政策を行ってきましたが、そういった意味では、地域本位という視点が欠けていたということですね。
片山 欠けていたと思います。2040年問題なども同じだと思います。自治体は、どうしよう、こうしようと右往左往されているところもあるようですが、これこそまさに東京目線、総務省目線なのです。
要するに、国の予算が減る、交付税が減る、そういう時代にどうやって地方行政体制、地方行財政システムを維持しようかといいますと、それは粒ぞろいにするのが一番なのです。大きいのや小さいの、強いのや弱いのがあると面倒じゃないですか。粒ぞろいにする、合併させたいということです。平成の大合併では取りこぼしがたくさんありましたし、今は合併というと評判が悪い、だから今度は、圏域を単位に粒ぞろいにさせようと。中心都市とその周辺を圏域の単位として粒ぞろいにしていけば、効率的ではないかということです。これは地方交付税を配る側の目線です。これを真に受けてどうしよう、こうしようと慌てる必要はありません。
まず、自分たちの地域をよくしようという観点からは何が必要か、そこから発想するようにしなければならないと思うのです。広く海外に目を転じてみますと、小さな自治体だってちゃんとやっているのです、アメリカでも、フランスでも、イギリスでも。何で日本だけが、そんなに粒ぞろいに整列させられなければいけないのか。そのような視点を持つことも有意義だと思います。
丸山 分かりました。非常に勉強になりました。編集部からいただいた時間が過ぎまして、先生にお尋ねしたいこともだいたいお聞きすることができました。私の進行が悪くて申し訳ございませんでした。
■読者の皆さんへ
編集部 今、厳しい環境の中で、自治体職員の皆さんは頑張っておられます。本誌の読者の皆さんに、先生から何か一言いただければありがたいのですが。
片山 申し上げたいことはいくつかあるのですが、一つはしっかり勉強しましょうということです。生産性を高めるというのが最近のはやり言葉ですが、これを自治体職員の立場で考えますと、知識を身につけるとか、仕事の技術力を向上させるとか、そういうことですよね。そのためには、やはり学ぶことです。長時間労働に埋没するのではなくて、きちんと学ぶことが必要です。
次に、仕事に従事されていると、矛盾といいますか、これは変だと思うことがあると思うのです。こう変えたらいいのにと思うことがたくさんあると思うのです。そのようなときには、できるだけその場で改善案を提言されるのがいいのですが、でも、実現できるかどうかは分からないですよね、自分だけでは決められませんから。私にもそのような経験はありました。そういうときは、残念ですがそれは秘めておいて、自分がある程度上のポジションになったときまで保ち続けることです。将来実現できる可能性は大いにありますから、それまで記憶にとどめるかノートに記録しておいて、いざチャンスが巡ってきたら、そのときはそれを実現するのです。一係員ならできないことでも、係長になればできることもあるし、課長になればもっとできますから。そういうことをしつこく覚えておくことが、とても貴重だと思います。
私が総務大臣になったときの地方債制度の改正などが、まさにそうだったのですけれども、自分が若手官僚の時代にはどうしようもなかったことでも、大臣になったから実現することができたのです。私、若い頃に変だなと思うことがたくさんあったのです。組織や制度の悪いところなどをしっかり覚えておいて、課長になったらそれを直すとか、私もその折々にそういうことをやりました。
ですから、理不尽と思ったり、変だと思ったりした制度や慣行は、できるだけその場で改善の努力はするけれども、無理な場合も多いから温めておく、そして、実現できる環境になったら果敢に実現する。とにかく諦めないことです。
私が課長補佐のときのことですが、転勤を命じられたことがありました。私は、「勘弁してください。もうすぐ子どもが産まれるのです」と事情を話したら、人事をやっている人は「君が産むわけじゃないだろう」というのです。「ひどいことをいうな、この人は」と思いましたが、人事をやっている人ですからその場では反抗するわけにもいきません。ただ、「自分はこういう人にはならないようにしよう」と心に誓いました。そして私が幹部になったとき、部下に転勤の話が来た際には、まず本人の話を聞いてあげることにしたのです、「大丈夫か、本当に転勤できるのか」と。
ちなみに、先ほどのひどい人の話の件ですが、どうしてもその時期の転勤には無理があったので、裏から手を回して時期をずらしてもらいました。良し悪しは別にして、そういう手を使うことも緊急避難的には必要だと思います。
丸山 若手のときに思った問題点や矛盾は、よく覚えておいてチャンスが来たらそれを改善するということですね。先生は今、大学に籍を置かれて、まさに地域本位の若手の方たちをたくさん育てていらっしゃいます。
片山 この雑誌、「自治実務セミナー」は、本当に一番いい教材だと思います。トピカルな記事がたくさん載っているし、理論的なこともたくさん出ています。ですから、この雑誌などをじっくり読んで勉強されたらいいと思います。実は、私も昔はこの雑誌に原稿を寄せていた執筆者の一人だったのです。連載も担当していたので、毎月原稿を書いていた時期もありました。
丸山 先生、ますますお元気で頑張ってください。本日は、本当にありがとうございました。
(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年5月号より転載したものです)