2019.08.27 政策研究
成年後見制度の現状及びその利用促進─中核機関の整備等─
2 成年後見制度の機能不全
(1)近時の課題
成年後見制度は、上記のとおりの仕組みであり、高齢化社会における重要な役割を果たす仕組みとなっていますが、近時は次のような課題があると指摘されています(2)。
・利用対象として想定される人数に比して利用率が低い。
・本人の意思を尊重する仕組みである保佐、補助類型の利用率が低い。
・親族後見人が選ばれにくくなっている(後見人による財産の横領が多発したため、親族が後見人に選ばれることが減った)。
・専門職後見人の増加に伴い、身上保護がおろそかになっている。
・制度の利用に予想外にお金がかかることがある(一度始めると基本的には相続が発生するまで継続)。
・任意後見制度が活用されていない。
(2)近時の利用状況(3)
成年後見制度は、高齢化が進む中で、判断能力が低下した人を保護するための制度として活用が期待され、2000年に始まりました。しかし、現状ではその制度が十分に活用されているとは言いきれない形となっています。
成年後見制度の利用者数は、2018年12月末で21万8,142件となっており、近年は毎年約7,000件~1万2,000件ずつ増えています。
一方、2014年6月1日厚生労働省研究班発表によれば、認知症有病者数は462万人、予備軍は380万人、合計で約842万人認知症になる可能性がある人がいるとされており、近時、その数字は増加傾向にあり、2025年の認知症の有病者数は約700万人になると推定されています(4)。
認知症が、判断能力を低下させる疾病であることを考えると、その対象となる人数に対して成年後見制度の利用者数は5%にも満たず、成年後見制度が十分利用されているとは言い難い状況が見てとれます。何かしら他の人の支援を必要とする人の人数に対して、成年後見制度が十分にその役割を果たしているとは言い難い状況です(もちろん、成年後見制度はセーフティーネットの役割を果たすものであるため、単純に利用率が低いことが問題とはいえないところですが、その点については本稿では割愛します)。
また、成年後見制度の利用類型を見てみると、成年後見制度の利用者数21万8,142件のうち、成年後見は16万9,583件、保佐は3万5,884件、補助は1万64件、任意後見は2,611件となっています。割合で見ると、成年後見が約77.7%、保佐が約16.4%、補助が約4.6%、任意後見が約1.2%となります。
これを見ると、後見の類型が最も多く利用されていることが分かります。後見は、すでに述べたとおり、本人の意思決定を最も制限する類型で、他の自己決定権が多く残っている保佐、補助という本人を支援する類型が十分に活用されていない現状が見てとれます。
そして、任意後見の利用件数の少なさも目立っています。本人の判断能力が十分あるうちにあらかじめ将来に備えるという考え方が、まだ十分に浸透していないのではないか、とも考えられます。
次に、成年後見制度の家庭裁判所への申立動機について見てみると、最高裁判所による「成年後見関係事件の概況─平成30年1月?12月まで─」によれば、申立てのうち42%の3万500件が「預貯金等の管理・解約」を主な動機としています。これは、後見を利用する理由の多くが、預貯金等の管理という具体的な状況が生じて初めて後見制度を必要としたと見ることができます。本人の判断能力の程度に合わせた利用というよりは、現実的に本人の判断が必要となる状況が差し迫って初めて後見制度を利用しているということが数字からうかがえます。
そして、後見人については、親族がなる場合と専門家がなる場合とありますが、それぞれに一長一短があるとされています。親族が後見人になる場合、預貯金等の管理という身近なところは対処できても、財産管理全般になると、個人では対応しきれない面があり、そのフォローも十分でないという課題があります。他方、弁護士、司法書士などの専門職を後見人にすると、財産管理の面は十分対応できても、本人の身上保護の面に十分対応できないという問題が起きやすいこと、専門家の報酬を継続的に支払わなければならず予想外にお金もかかるという課題があります。