2019.08.13 議会運営
第45回 議会は本会議場を子どもの自習室として開放できるか?
回答へのアプローチ
実はこの問題のポイントは、「本会議場の管理権は誰にあるのか?」という点にあります。 地方公共団体の財産には、公有財産、物品、債権、基金があります(地方自治法237条1項)。そして、公有財産は、行政財産(公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産)と普通財産(それ以外の財産)に分かれます(同法238条3項・4項)。議場も行政財産です。
行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができます(同法238条の4第7項)。もし、議場を外部の団体などに使わせるなら、それは目的外使用であり、許可が必要となります。では、本会議場を自習室として使わせる場合、利用する子どもたちへの目的外使用になるでしょうか。それは少し変です。子どもたちは「自習室としてご利用ください」と告知されて、利用しているはずです。場合によっては、利用に当たって名前や学年を書いてもらっているかもしれませんが、それは許可の申請ではなく、管理上の問題や利用者の状況の調査のために行うものといえるでしょう。この点、本会議場を公の施設にすれば、子どもたちの利用は自由ということになります。しかし、本会議場が公の施設であるわけがありません。公の施設というのは、「住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設」(同法244条1項)をいいます。いうまでもなく、本会議場は、議会の中心施設であり、議員が利用するための施設です。使われていない古い本会議場を自習室として利用するならともかく、公の施設とはなりません。そもそも、公の施設の設置及び管理に関する事項は条例事項です(同法244条の2第1項)。回答案のうち、Bは誤りということになります。
さて、いよいよ本題です。自治体の行政財産は誰が管理しているかという問題です。ズバリ、その管理権は長にあります。地方自治法149条6号に「財産を取得し、管理し、及び処分すること」は長が担任するものとしているからです。教育財産の管理については教育委員会の権限とされています(地方教育行政の組織及び運営に関する法律21条2号)。また、地方公営企業の資産については、その管理者に管理権があります(地方公営企業法9条7号)。しかし、それ以外の行政財産の管理権は長にあるのです。
自治体議会の用語では、本会議場、委員会室、事務局執務室など議会の活動に必要な施設をまとめて「議事堂」と呼びますが、議事堂の管理権は長に属するのです(※1)。こうしたことを前提にして、長の庁舎管理規則では、事務局長や事務局総務課長を管理責任者などとしているのです。
そうはいっても、議事堂は議会のために存在します。議会審議のためであればもちろんですが、議会の広報広聴など議会の活動の一環として議事堂を使う場合には、議会で使えるはずです。百歩譲っても、議会の意向が尊重されるでしょう。「本会議場を使って、子ども議会をやりたい!」と議会が発案したのに「議場のじゅうたんがすり減るからダメ」などと長が待ったをかけるなど普通は考えられないでしょう。自治体によってやり方はいろいろでしょうが、長にその旨の連絡をする程度で実施可能なのではないでしょうか。
ただ、議会側の発議であっても、本会議場で「市民の健康のための講演会をやろう!」とか「子どもたちの夏休み自習室にしよう!」といったことになれば、少し話は別です。やはり、どのような形で本会議場を使うか、主催は誰にするのかなど管理権のある長側と調整することが必要となるでしょう(※2)。
こうしたことから、CではなくAを回答としたいと思います。
実務の輝き・提言
議会を身近に感じてもらうためにも、また、施設の利活用の観点からも議事堂の多目的使用は悪いことではありません。ただ、なかなか本来の使われ方以外に使用されないという議会も多いことだろうと思います。その原因を考えてみると、長との調整が難しいというよりも、議会で十分に議論が行われていないからではないでしょうか。まずは、議会の活動として、これまで使ったことがない用途で使いたいものです。議会コンサートは定番となりましたので、議会と住民との意見交換会(議会報告会)を本会議場で行うのはどうでしょう。コンサートや講演に続いて、意見交換会を行うのもいいかもしれません。大型のモニターがある議会も増えてきましたので、施設としては申し分ないはずです。政務活動費を使っての視察の報告会に使うのもいいでしょう。さらに、多目的使用を進めようというのであれば、基本方針や要綱を議会で定めて文書化しておくのもいいかもしれません。いずれにしても、まずは、子どもたちへの自習室としての開放を検討してみてはどうでしょうか(※3)。議会内の議論のきっかけにもなるはずです。
※1 長の管理権を確認した行政実例(昭和37年3月27日)もあります。「議場の秩序保持は議長の仕事だったのでは?」と思ったかもしれません。しかし、それは「会議中」にその会議の秩序を守るためのものであって、本会議場の管理権を与えたものではありません。
※2 電話による問合せによると、太子町では前年度は町の事業として、今年度は議会の事業として本会議場の自習室としての開放を行っているそうです。境町では議会の発議で議会の事業として行っているとのことでした。
※3 本稿の執筆に当たっては、塩浜克也氏(佐倉市職員)、香川純一氏(町田市職員)のご教示をいただきました。誌面を借りてお礼申し上げます。