千葉県議会議員 網中 肇
はじめに
自治体議会には、住民を代表する機関として法律の定めにより様々な権限が与えられており、これらの権限に基づいて仕事をしています。
自治体が条例や予算を定めるときなどには、首長は議会の議決を必要とします。議決を必要とする事項(例えば条例の制定改廃など)は地方自治法96条で定められています。この議決権は議会の最も本質的な権限で、議会が「議決機関」といわれる理由とされています。
したがって、議会にとって条例案の審査は最も重要な仕事の一つですが、実際の審査はどのようになされているのでしょうか。私見になりますが、以下、条例を審査する際に日頃から意識しているチェックポイントやアプローチ方法について記述します。皆様の参考になれば幸いです。
条例の種類を把握する
条例を分類する類型の一つとして、国の法令に伴う条例か、自治体独自の政策課題を解決するための条例かがあるとされています。
後者の場合、課題解決のための政策(以下、いわゆる「政策」、「施策」及び「事務事業」を区分せず「政策」として記述します)を条例で規定していると考えることもでき、条例の審査を通じて、政策そのものを審査することと同様の意味を持つとも考えられます。
また、国の法令の制定・改正による条例議案か、自治体独自の課題解決のための条例議案かによって、条例審査に対するアプローチが異なる部分もあると考えられるため、提案された条例議案がどちらの種類なのかを確認することが必要です。
議会における条例審査は政策過程の中でどのような位置付けかを把握する
一般的な政策の過程として、①課題(アジェンダ)設定(社会的な課題の中から、行政として解決すべき課題として認識される)、②政策立案(多々ある課題解決のための選択肢の中から一つの案にまとめ上げる)、③政策決定(立案された政策を決定する)、④政策執行(決定された政策を実施する)、⑤政策評価(実施された政策を評価する)という段階があるとされています。議会における条例議案の審査は、上記の③に該当するものと考えられます。
新たに制定しようとする条例の審査の場合は、上記①及び②が適切であるかどうかについての事前評価としての性格も有しています。また、既存の条例を改正する条例の場合は、④及び⑤についての事後評価を踏まえて再び①及び②が適切であるかどうかについての事前評価としての性格も有しています。
議会としては、条例議案に係る①~⑤が適切であるか(あったか)について審査することになります。
政策評価の視点を条例審査に生かす
一般的な政策評価の基準として、①必要性(対応しようとする課題に照らして、当該立法がそもそも必要か否かに関する基準)、②有効性(当該立法がその掲げた目的の実現にどこまで寄与するのか、課題の解決にどこまで効果を発揮するかに関する基準)、③効率性(当該立法の執行にどの程度の費用を要するか、同じ目的実現を図るのにより少ないコストで済む手段はないかに関する基準)、④公平性(政策目的に照らして、政策による効用やコストが公平に配分されているか、不平等な取扱いが行われていないかを問う基準)という四つの基準があるとされています。
前述のとおり、条例の審査を通して政策を審査するという観点からすると、政策評価の基準を条例審査の際の参考にすることができます。行政が提案した条例に対し、住民から負託を受けた議員として行政とは異なった視点から前述の評価基準をベースに検討を加え、より良い条例となるよう審査することが重要です。
また、前述の四つの基準のほかに、議会が憲法・法令に抵触・違反するような条例を可決してしまうことがないよう審査することも重要です。つまり、条例を通じて政策を審査するのではなく、条例そのものの正しさを問うものです。この点については、行政の条例審査担当部署において相当厳しい確認が行われるのが通例ですが、議会としてもしっかりと確認する必要があります。
同様に、条例が提案されるまでの過程において、住民、住民団体やNPO等の声を聴く機会が適切に確保されたかについても審査することが必要であると考えます。