3 条例審査の対象
条例審査では、主に次の事項について検証を行います。
(1)法令適合性
自治体は、「法律の範囲内」(憲法94条)で、「法令に違反しない限りにおいて」(地方自治法14条1項)、条例を制定することができます。
法律と条例とで規定が重複する場合、その条例が「法律の範囲内」にあるか否かは、それぞれの趣旨、目的、内容、効果を比較して、両者の間に矛盾抵触する関係があるか否かによって判断されます(徳島市公安条例事件最高裁判決)。
条例審査では、類似の事例に対する裁判所の判決や審査請求の裁決の例を参考にしつつ、判例が示した基準に照らして条例案の内容が法令と矛盾抵触していないかを検証します。
参考までに、実際に裁判において条例と法律の抵触が問題となった事案を見ておきましょう。
〇徳島市公安条例事件
いわゆるデモ行進を行ったことにより徳島市公安条例の罰則規定の適用を受けた者が、この罰則が道路交通法による罰則よりも重いことを理由に、同条例は憲法94条に違反するとして争った事件です。
最高裁判所は、条例と法律の間に矛盾抵触する関係があるか否かを具体的に検証し、結論として同条例は憲法には違反しないと判断しました。
〇神奈川県臨時特例企業税事件
神奈川県が、臨時特例企業税条例に基づき、地方税法の法人事業税の規定において認められている欠損金の繰越控除分に課税したことについて、これを不服とした事業者が、同条例は憲法94条に違反するとして争った事件です。
最高裁判所は、同条例は違法・無効であると判示したため、神奈川県は、過去10年に遡り、約1,700法人に対し635億円を返還することとなりました。
(2)政策適合性
自治体は、条例によって政策を実現しよう(目的)とする場合、最小限の経費・最小限の規制(手段)で最大限の成果(効果)を上げることができるように制度を設計しなければなりません(地方自治法2条14項参照)。
そこで、条例審査では、政策と条例案の目的、手段、効果との適合性を慎重に検証します。
① 目的
自治体には、長の施政方針をはじめ、総合計画、基本計画など、政策の柱となる様々な計画が定められています。これらの計画を実現するツールとして条例を活用する場合には、条例案とこれらの計画との結びつきや整合性(例えば、条例改正による育児休暇制度の充実という目的と職員のワーク・ライフ・バランスの確保という政策目標との結びつき)について検証します。
② 手段
条例案の内容は、政策を実現するための手法として適切か、対象を適切に捉えているか(広すぎないか、狭すぎないか)、規制は最小限か(より規制的でない手法があるのではないか)、規制の文言は明確か、などについて検証します。手段の選択を誤ると、住民や事業者の理解を得られず、規制の実効性が上がらないだけでなく、裁判で争われたときに条例自体を違法・無効と評価されてしまう可能性もあるので、慎重な検証が必要です。
また、公布(議会で可決された条例案を広く住民に知らせること)から施行(条例の運用を開始すること)までの周知期間は十分か、改正後の条例が適用される部分と改正前の条例が適用される部分の区分けは明確かといった点についても検証します。
③ 効果
条例の目的を実現できたとして、そこからどのような成果を上げることができるのか(税収増、シティセールス、職員の職場環境の改善など)、その成果は政策に適合しているのか、成果を上げた反面でマイナスの影響を生じさせる危険性(萎縮効果など)はないかといった点について検証します。
(3)法制執務
条例案の本体は、「制定文」や「改正文」と呼ばれる法文です。
法文の読み方と書き方には、国から自治体まで共通する「法制執務」という作法があります。法文は、法制執務に沿って記述されることで初めて正しく表現でき、法制執務に沿って読むことで初めて正しく理解することができます。したがって、条例案についても、法制執務に沿って作成されなければなりません。
しかし、堅苦しい作法で記述された法文は、住民や事業者にとって必ずしも読みやすいものではありません。住民や事業者が読んで理解できない法文では、実際に運用しても、期待した成果を上げることはできないでしょう。
そこで、条例審査では、どのように表現すれば法制執務の作法と住民や事業者への分かりやすさを両立できるのかという点に多くの時間が割かれます。
(4)提案のタイミング
条例の制定改廃を行うタイミングには、必ず「このタイミングでなければならない」理由があります。「国の法令の改正と合わせる」とか、「新年度から施策を始める・改める」というタイミングに合わせて条例案を提案する例が多いようです。
逆に、そのようなタイミングではないのに条例案を提案しようという場合には、より慎重に「なぜ、このタイミングでなければならないのか」を検証することになります。