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2019.04.25 議会運営

議会の決定により当該議員が失職した場合その決定に不服がある別の議員が審査の申立て・出訴を行うことができるか/実務と理論

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池田幸優 総務省消防庁予防課危険物保安室

1 はじめに

 地方自治法(昭和22年法律67号。以下「自治法」という)上、地方公共団体の議員が議会の決定により身分を失ったとき、当該決定に不服がある者は、当該決定に不服があるとして、審査の申立て・裁判所への出訴を行うことができるとされているが、それらの手続を行うことができる者の範囲は、自治法上明確に規定されていないところである。
 本問では、議員の失職に係る自治法上の諸規定について解説するとともに、議会の決定により身分を失った議員以外も審査の申立て・裁判所への出訴を行うことができるか、検討を行う。
 なお、文中意見にわたる部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

2 議員の辞職及び資格の決定

(1)議員の失職に係る自治法上の諸規定
 地方公共団体の議会の議員は、議会の許可(閉会中においては、議長の許可)を得て辞職することができるとされている(自治法126条)。
 また、地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるときや、自治法92条の2の規定に定める議員の兼業禁止に該当するときは、その職を失うこととされており、当該被選挙権の有無又は議員の兼業禁止に該当するかどうかは、議員が公職選挙法(昭和25年法律100号)11条、11条の2若しくは252条又は政治資金規正法(昭和23年法律194号)28条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定することとされている(自治法127条1項)。この決定は、出席議員の3分の2以上の多数により決定しなければならず、また、決定の対象となる議員は、その会議に出席し自己の資格に関し弁明することはできるが決定に加わることができないとされている(自治法127条1項及び2項)。そして、この決定については、自治法118条5項及び6項の規定が準用されることとされている(自治法127条3項)。
(2)自治法127条3項による自治法118条の規定の準用
 自治法118条1項は、地方公共団体の議会において行う選挙(議長、副議長、仮議長の選挙等)について、公職選挙法等の規定を準用することを定めているものであり、その投票の効力に関し異議があるときは、議会がこれを決定することとされている。そして、当該決定に不服がある者は、決定があった日から21日以内に、都道府県にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事に審査を申し立て、その裁決に不服がある者は、裁決のあった日から21日以内に裁判所に出訴することができるとされている(自治法118条5項)。また、当該決定は、文書をもって行われ、その理由を付けてこれを本人に交付しなければならないとされている(自治法118条6項)。
 自治法127条3項においては、自治法118条5項の規定が準用されているため、議員の被選挙権の有無又は議員の兼業禁止に該当するかについて議会が行った決定に不服がある者は、決定があった日から21日以内に、都道府県にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事に審査を申し立て、その裁決に不服がある者は、裁決のあった日から21日以内に裁判所に出訴することができることとなる。

3 設問の検討

2のとおり、審査を申し立て又は裁判所に出訴することができるのは、「決定に不服がある者」とされているが、議会の決定により議員の職を喪失した議員以外の者についても当該手続の対象となるかについては、明文上の規定はない。
 この点について、地方公共団体の議会において行う選挙の投票の効力に関し異議があるときの議会の決定について定める自治法118条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度と、議員の被選挙権の有無又は議員の兼業禁止に該当するかについて議会が行う決定について定める自治法127条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度の趣旨の違いを踏まえ、検討する。
 自治法118条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度は、議会における選挙の適正な執行を担保する趣旨によるものであり、個人の権利救済を目的とするものではなく、法の適正な執行の確保を目的とする民衆争訟の性格を有するものである。したがって、議会における選挙の適正な執行の担保に関係する議員全員が審査を申し立て又は裁判所に出訴することができると考えられる。
 一方、自治法127条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度は、議会の決定により議員の職を喪失した議員が自己の権利を回復、擁護するために認められた抗告訴訟的性格を有するものである。したがって、自己の利害に関係のない他の議員にその決定について争わせる必要はなく、審査を申し立て又は裁判所に出訴することができるのは、議会の決定により議員の職を喪失した議員本人に限られると考えられる。
 なお、最判昭和56年5月14日(民集35巻4号717頁)や東京高判平成15年9月30日(判時1852号65頁)においても、自治法127条3項が同条1項の決定について自治法118条5項の規定を準用しているのは、単に、当該決定に対し不服申立てが可能なこと、及びその手法、手続は118条の規定と同様であることを定めたにとどまり、118条の不服申立てと同様の民衆争訟的な不服手続をこの場合にも採用したわけではなく、不服申立てをすることができる者の範囲は、一般の行政処分の場合と同様にその適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定されることを当然に予定したもの、すなわち、専ら決定によってその職を失うこととなった当該議員に限られる旨判示されている。
 したがって、議会の決定により議員が失職した場合において、当該決定に不服があるとして、自治法127条3項の規定により審査の申立て・裁判所への出訴を行うことができる者の範囲は、議会の決定により身分を失った議員に限られ、それ以外の議員が審査の申立て・裁判所への出訴を行うことはできないと解される。

4 おわりに

 以上、地方公共団体の議員の失職に係る自治法上の諸規定について解説するとともに、判例も踏まえ、自治法 127条3項の規定について検討を行った。
 自治法118条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度は、議会における選挙の適正な執行を担保する趣旨である一方、自治法127条の場合の審査申立て・裁判所への出訴制度は、議会の決定により議員の職を喪失した議員が自己の権利を回復、擁護する趣旨である。したがって、自治法127条が、118条の規定を準用する形をとっているとしても、両規定それぞれの趣旨を踏まえた上で、適切に制度を運用することが求められる。
 本問での検討が、担当部局における地方公共団体の議員の失職制度に関する理解及び適切な事務遂行の一助となれば幸いである。

(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年4月号より転載したものです)

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