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2019.04.10 議会運営

第43回 居座る議長にどんな対応ができるか

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回答へのアプローチ

 水面下での説得も効果がない場合、多くの議会で行われるのが、議長の不信任決議や議長の辞職勧告決議などの提出です。ただ、可決しても、いずれも法的効果はなく、政治的な責任を追及するものにすぎません。議長側がそのことを理解した上で、いわゆる「スルー(無視)」をしている場合には、繰り返し議会として決議を重ねるということもあるでしょう。そうした事態に至ると、「議会運営に支障を来す」とか「議会審議できる状況にない」という声が大きくなり、「いっそ懲罰に付したらどうか」という声も出てきます。議員の中には「一番重い『除名』とすれば、議員ではなくなり、議長を辞めざるをえないはすだ」とアイデアを出す議員も出てきます。しかし、地方自治法が認める懲罰権の行使は限定的です。懲罰の対象となる言動は、次の3つしかありません。

① 地方自治法、会議規則、委員会条例違反の行為(134条)
② 議会の会議又は委員会における他の議員への侮辱(133条)
③  議員が正当な理由がなくて招集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議に欠席したため、議長が、特に招状を発しても、なお故なく出席しない場合(137条)


 ですから、議長の不信任決議などがなされたのに議長の職にとどまっているというだけでは懲罰に付すことはできません。あくまでも、一議員として、地方自治法、会議規則、委員会条例違反の行為があることが基本的に求められるのです。例えば、不信任決議を受けての発言が「本会議や委員会で無礼の言葉を使った」として、地方自治法132条(品位の保持義務)違反に問われる場合もあるかもしれません。ただ、その場合であっても、除名というのは、よほどのことがなければ選ぶことはできないでしょう。除名は議員の身分を失わせる行為です。単なる内部規律の問題にとどまらないものとして司法審査の対象となります(最判昭和35年10月19日民集14巻12号2633頁)。裁判所が違法を認定したりすると目も当てられません。感情的な懲罰は踏みとどまるべきでしょう。となると、回答案のうち、Bは誤りということになります。
 では、申合せや慣例でルール化されている議員の任期を会議規則に規定するのはどうでしょう。そうすれば、会議規則違反として堂々と懲罰を付すことができます。地方自治法103条2項が任期の上限を定めたものと解釈できるなら、その範囲で、それぞれの議会で議長の任期を会議規則で定めることができそうです。しかし、その解釈には無理があります。もし、そう解釈すべき条文なら、具体的な任期をどう定めるかを規定しているはずです。「議長の任期は、議員の任期の範囲内において会議規則で定める」といったようにです。「任期は、議員の任期による」とあるからには、やはり4年が任期なのです。たとえ、会議規則で任期を定めることが可能だとしても、現議長からそのルールを適用することはできませんから、その意味でもCが回答となることはありません。
 回答としてはAとしたいと思います。議長の不信任決議などのほかには、恥をかかされた形になった会派がせいぜいできる対抗策といえば、会派の除名処分といったところではないでしょうか。残念ながら、あとは、住民のリコールを期待するぐらいしか手はありません。

実務の輝き・提言

 駒澤大学の大山礼子教授は、『国会学入門〈第2版〉』(三省堂、2003年)で、議長の任期につき比較法学的に触れています(29〜37頁)。この本の記述をもとにして、議長の任期を長く安定的にするべき理由を考えてみると、2つのことが浮かびます。ひとつは、中立性からの理由です。特に議院内閣制のもとでは、議会は政府対野党の論戦の場になることから、党派性を消すためにも議長を長く務める必要性があるといいます。ただ、この理由は国会の場合はともかく、自治体議会には当てはまりません。そして、もうひとつの理由として挙げられているのが、リーダーシップを発揮しやすいよう議長に政治的な権威を持たせるという理由です。この考え方は、議長の立候補制をはじめとする議会改革の考え方に実にマッチします。
 「チーム議会を実現するためにも毎年、いや、少なくとも2年に1度は議長をチェックする必要がある」。こうした主張をする議員もいます。「なるほど……」と少し心が動かされそうになります。確かに、必ずしもタイプでない議員が議長になることがしばしばあります。そして、そうした議長を早めに退出させるようにしておくことは「議会の知恵」なのかもしれません。しかし、有力会派の中で一定の当選回数を重ねた議員をみんな議長にしようとするから、そうしたことは起こるのです。議会は住民の代表であり、その議会を代表するのが議長です。所属会派はひとつの要素として考慮するにしても、本来、その議員の考え方やリーダーシップ、さらに人となりを確認して議長は選ぶべきものなのです。そうであれば、同じ議員が求められて議長職にとどまることもあるだろうし、第一会派に所属し、当選回数を重ねても議長には選ばれない議員もいることでしょう。それでいいのです。
 それでも「あの議員を議長にするんじゃなかった……」という事例は皆無ではないでしょう。だからこそ、議長の立候補制も含め、慎重に選出する必要性があるのです。
 議長室で歴代議長の額に囲まれることがありますが、伝統ある議会の場合には歴代議長の数が100人を超えるところもあります。しかし、仮議長ではあるまいし、この数はいささか多すぎます。首長に伍(ご)する存在と胸を張ってみても、住民は誰もそうは思わないでしょう。残念ながら、議長の権威の低下は議会自身が招いたことなのです。
 国会法の制定過程から携わり、標準会議規則のもとをつくった西澤哲四郎氏は、著書の中でこういっています。「議長、副議長の任期は、議員の任期によるので四年であることが原則であるが、事情やむを得ない場合に処するため、その任期中の辞職を認めたのが、地方自治法第百八条の規定である。しかるに、この規定が乱用されて、議長が短期で交代するという悪例が生じてきたのは、まことに遺憾なことである。ことに、一年交代といったことが、きびしい批判を受けながらも公然と行なわれているのは、黙視することができない」(西澤哲四郎『地方議会の運営Ⅱ』(教育出版、1970年)179頁)。
 最後に、正面からこの問題に向き合った花巻市議会の議会基本条例を紹介しておこうと思います。議長の任期は議会改革の一丁目一番地の問題なのかもしれません。

○花巻市議会基本条例
 (議長及び副議長)
第6条 略
2 議長及び副議長の任期は、議員の任期とする。
3〜6 略

※全国市議会議長会「市議会の活動に関する実態調査結果平成29年中」

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