2019.03.25 議会改革
議選監査委員制度廃止なら、実地検査権を条例化すべき(その4・完)
人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥
・議選監査委員制度廃止なら、実地検査権を条例化すべき(その1)
・議選監査委員制度廃止なら、実地検査権を条例化すべき(その2)
・議選監査委員制度廃止なら、実地検査権を条例化すべき(その3)
前回に引き続き、「内部統制・監査制度等の改革と住民自治」をテーマに行われた自治体学会議員研究ネットワーク2018研究フォーラムにおける、パネルディスカッションの内容をご報告する。
議選監査委員が有する三つの専門性
廣瀬克哉(法政大学教授) 小林さん(小林華弥子・元大分県由布市議会議員)のお話は、初めてお聞きする内容であった。清水さん(清水克士・大津市議会局次長)と桑畠さん(桑畠健也・所沢市議会議員)のお話は以前からお聞きしていたので、おおよそ想定内の内容であった。
桑畠さんのお話は、理念的な議選監査委員のメリットや、こういう機能が期待できるといったものであった。しかし、身近に見聞きしている議選監査委員の仕事ぶりや、どう機能しているかの実態とはギャップがある印象だ。たまたまやる気や能力があり、現状を変えたいという思いが強く、「本来、監査を通じてこうしたことが実現できるはずだ」という思いで監査委員という仕事に当たる少数の議員に対し、「(監査とは)こういうものですから」と事務局から説明を受けて淡々とこなす多数の議員という構図が実態ではないだろうか。いずれにせよ、小林さんのお話にもあったように、監査委員の業務量は多く、負担が大きい。
名誉や報酬が保証されていることから、「議会内三役」という俗称があるように、特に選ばれた役割という意識が議会内にはある。その役割に選ばれることだけを求める議員は、監査委員としてどう仕事をするのかという意欲をなかなか持っていただけない現実がある。監査委員になったときの議員の意欲や発想を、どういった工夫によって高めていくかが課題であろう。
一方、議員が議選監査委員を担うメリットや特性──あるいは議選監査委員以外の監査委員に比べて優位性があるという意味での、ある種の専門性といってもいいかもしれないが──は、三つ挙げられる。一つ目は、有権者や住民の視点をもって監査に当たることができるという専門性。二つ目は、政策判断に携わっている立場から、その政策が執行過程に入った結果どうなっているかという視点から判断ができるという専門性。三つ目は、議選監査委員以外の監査委員と違って、議員として合議制や手続的な正当性を専ら見てチェックをしている立場にあるという専門性。それを属人的ではなく生かしていく提言が、議選監査委員制度を存続させるために求められている。この点をどうするかが重要であろう。
清水さんからは、議会や監査委員がそれぞれにお互いの情報を共有すること、議選監査委員がいなくなった場合の代替手段として、議会情報を監査委員に届けることと、監査情報を議会で共有することの二つの方向で実施されることとなったという紹介があった。それが果たしてどれくらい機能するのか、また、それで議選監査委員制度をなくした場合の制度保障として十分といえるのか。そういった論点を少し掘り下げて議論した方がよい。
議選監査委員の選任に当たっては、議会活動における実績評価も考慮すべき
幸田雅治(神奈川大学教授/弁護士/元総務省行政課長) 桑畠さんのお話に大変共感した。議会つぶしにつながるという流れは、絶対に許してはいけない。先日、議会の機能を弱める総務省の報告書が出されて、私も批判しているが、議会こそ住民の代表である。首長は行政の代表であって、住民の代表ではない。だから、首長には立候補時の住所要件も課されていない。議会が二元代表制及び日本の民主主義の根幹である。小林さんも含めて、ぜひ頑張っていただきたい。
議選監査委員として期待される議員の専門性とは何か。日本の国政レベルでの審議会も、専門性がない人が大勢入っている。これは、諸外国では見られないことなので、違和感がある。英国の場合、審議会のメンバーを選任する際に、この学者はこういう研究や活動をしている、といったことをオープンにした上で選任している。日本の場合はそれがないから、客観性を担保せずに、恣意的に任命しているのが実態となってしまっている。
議選監査委員になる議員も、監査を実施するに当たっての専門性があることを議会で証明する必要があるだろう。つまり、議会活動で行政に対して、このような指摘をして改善させたとか、議会活動において監査委員にふさわしい実績を挙げていることをもってして、議選監査委員に就任するという方法も必要ではないか。これは議選監査委員の選任に限らず、元議員や住民から監査委員を選任する場合でも、監査委員に適した人を選ぶ仕組みを整えることは重要である。
大津市は、議員は議選監査委員だけでなく、識見監査委員にもなれないとしてしまった。議員は行政内部に属するのか、それとも外部なのかという問題でもある。議員は内部ではない。二元代表制で相互にけん制し合う関係であるから、議会は外部である。議員を内部として見ること自体がおかしいのではないか。外部の目を入れるべきである。ただ、外部の目として議選監査委員を選任するにしても、その議選監査委員が監査委員としてふさわしいことを住民に対して議会が証明する必要があるのではないか。
また、小林さんのお話で気になったのは、全ての伝票をチェックするのは監査委員の仕事ではないということ。会社でもそうだが、監査というのは、内部統制が機能しているかどうかをチェックするのが仕事なので、そこまでやってはだめだと思う。いろいろなやり方があるとは思うが、やり方としてはあまり適切ではない。
外国では評価をする場合、ピア・レビュー(査読)を重視している。ピア・レビューとは、同じ専門分野の他者が活動を評価することである。議員は行政の予算など行政に詳しいので、近隣の自治体の議員が監査委員になるということもありえるだろう。また、内部統制や包括外部監査については、もっと弁護士を活用すべきではないだろうか。公認会計士は監査についての専門性を有しているといわれているが、その専門性は財務会計の知識にとどまる。包括外部監査業務を受託している弁護士は、公認会計士の10分の1にすぎないが、全国自治体の包括外部監査の評価を毎年行っている全国市民オンブズマン連絡会議のオンブズマン大賞では、弁護士が受賞するケースが多く見られる。
大津市議会が、議選監査委員制度を廃止するに当たって代替案を用意されたことは、大変すばらしい。しかし、それならば、議会の実地検査権を認めるべきである。それは法律にないからできないということではないと思う。条例で規定すれば、実地検査権の行使は可能である。法律に書いていないことは、全て条例で規定できるのが原則。条例制定権は憲法で直接規定されており、法律に抵触しない限りは、条例でできる。例えば、都市計画法がなければ、それぞれの自治体は都市計画条例を制定して対応できる。しかし、都市計画法があるから、それができないだけである。法律に議会の権能として実地検査権が書かれていないのであるから、条例で規定できる。ぜひ、そうした条例をつくって、実地検査権を認めるべきではないかと考える。
また、桑畠さんから、監査委員報酬は下げてもいいのではないかという提案があったが、報酬を下げる必要はない。この報酬を下げると、議員の報酬も下げるべきとなり、終局的には議会つぶしにつながるので、下げるのは賛成できない。
江藤俊昭(山梨学院大学教授) 監査事務局は、執行部から出向で来ている。このことについては、どう考えるべきか。瀬戸内市と備前市では、監査委員事務局の共同設置を行っている。これはいいのではないか。議会事務局の共同設置はだめだが。
実地検査権を条例で定めるという提案があったが、第29次地方制度調査会で、私が「地方自治法のベースキャンプを確認したい」、「法律に書いていないことはどこまでできるのか」と総務省の担当者に質問したところ、担当課長から「原則、禁止されていなければ何でもできる」との回答を得た。幸田先生がおっしゃったことが全て正しいとはいえないが、画期的なご指摘である。桑畠さんがおっしゃるように、実地検査権の確立は相当大変な作業である。では、新川先生お願いいたします。