2019.01.15 政策研究
前文に思いを込めた条例のうれしい誤算
この条例の条文は、第1条目的、第2条事業の区分、第3条事業の指定等、第4条寄附者への配慮、第5条運用状況の公表、第6条委任~の全6条で構成されている。前文と違って、条文の文体や内容に格別の特徴はない。
呼び掛け調のユニークな前文の原案を作成したのは、当時企画課長補佐で条例制定に向けた検討チームのメンバーの一人だった小林敏郎市教育委員会教育部長である。チームで検討した結果、通常の条例様式や条例の中身とは少し異なるものにしたいとの意見が大勢を占め、市出身者などに対して説得力やインパクトのあるものにするため、市の思いを前文に盛り込むことにした。原案の作成を依頼された小林氏は、A、B、2案の前文を作成した。A案は「鎌倉以来の武士の系譜を継ぐ古都」といった具合に歴史や文化など市の誇りを前面に押し出したもの、B案は冒頭のものである。チームでは最終的にA案としながらも、B案も捨てがたいということになり、市長の意見を聞くことにした。小林氏によると、当時の市長は「懐かしさが広がるB案が面白いのではないか」と裁断を下し、B案の採用が決まった。名称を含め型破りの前文案だったため、当初、条例案を手にした市議会総務文教委員会の6人の委員は困惑気味だった。理事者側は手分けして委員に説明を尽くし、最終的に全会一致で可決された。
寄附金の使途については、寄附者が6つのメニューから選べる仕組みである。メニュー別の内訳を見ると、2017年度の場合、将来の地域を担う子どもたちを応援する事業が全体の32.5%で最も多く、その他目的達成のために市長が必要と認める事業25.5%、ふるさとの自然環境及び地域景観を保全・活用するための事業19.8%がこれに続いている。地域で支え合う健康・福祉のまちづくりのための事業、歴史や文化資源を保存・活用するための事業、観光振興の充実など活力に満ちたまちづくりのための事業はいずれも7%台だった。
寄附金については人吉応援団基金条例に基づいて管理、運用している。2017年度は5,717万円取り崩したものの、寄附金が多かったため、2017年度末の残高は1億5,764万円に達している。2017年度に寄附金が急増したのは、①返礼品を前年度の2.4倍の220品目に増やした、②インターネットのバナー広告などPRを強化した、③2016年度からふるさと納税をシティプロモーションの一環に位置づけ、力を入れた~などのためと見られる。
条例の前文は明らかに地元高校の卒業生や親が市出身者などで他都道府県の在住者をターゲットに据えている。だが、「こうした地元関係者からの寄附は1割程度」(企画政策部企画課シティプロモーション推進室)という。市にとってはうれしい誤算である。