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2019.01.15 政策研究

第4回 どのような事業を計画に位置付けるか! 16の査定ポイント

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大和大学政治経済学部准教授 田中富雄

1 求められる! 事業の査定ポイント

 この連載では、これまで「自治体計画と自治体議会の役割」について考えてきました。第1回では、自治体議会が自治体計画について適正な制御をなしうるための条件について考えました。第2回では、自治体の最上位計画である総合計画について、その期待される構成について考えました。第3回では、総合計画に位置付けることが期待される政策・施策・事業の名称やその内容を表す「言葉」について考えました。
 第4回となる今回は、どのような事業を自治体計画に位置付けるかという査定のポイントについて考えます。2に示す査定ポイントは、「町長による政策等の形成過程の説明」の努力義務を規定する北海道栗山町議会基本条例第6条にヒントを得て取りまとめたものです。

2 事業を自治体計画に位置付ける際の査定ポイント

 以下、事業を自治体計画に位置付ける際の査定ポイントについて考えてみましょう。事業の査定に際しては、ここに示された全てのポイントをチェックし、その上で計画に位置付ける事業の採否を決定することが議会には期待されます。

〈ポイント1:背景を踏まえているか〉
 事業の査定に当たっては、その事業が必要となる背景を、社会情勢、時代潮流、市民ニーズ等、様々な視角から種々の統計データやヒアリング結果、そして十分な議論を踏まえ、多角的に考察することが求められます。
 そのとき、留意すべきことの1つに、地球規模での変化が日本や地域社会に与える影響の大きさを挙げることができます。グローバル化した現代社会においては、地球温暖化をはじめ様々な問題が日本の自治体にも影響を与えます。世界の各地域は多様です。そして、1つにつながっています。日本では、急激な人口減少段階に入っていますが、地球規模で見れば人口爆発といわれる急激な人口増加が起きており、今後もその傾向は続きます。世界的な食料やエネルギーの問題が、日本にも影響を与えることになります。

〈ポイント2:目的は明確か〉
 事業の目的は明確であり妥当でしょうか。事業により解決すべき課題を把握しているでしょうか。事業は、地域の課題を解決できる内容になっているでしょうか。その事業は、施策、政策につながり、それらに寄与するものとなっているでしょうか。1つひとつの事業は、総合計画に位置付けられた将来都市像の実現に寄与するものであることが求められます。
 これまで実施してきた事業だからということで、自治体を取り巻く環境の変化に対応せず、単に前年までと同じことを繰り返し実施しようとする事業はないでしょうか。環境の変化が激しい今日、前年と全く同じ事業があったら、その事業をどのように考えたらよいのでしょうか。前年が誤りで、今年が適正なのか。そう考えるとしたら、その根拠をどのように示すことができるのか。

〈ポイント3:既存の類似事業との比較・検討が行われているか〉
 新しい事業を提案する場合、既存の類似事業との比較・検討をしているでしょうか。新しい事業を導入することで、既存事業については、拡大・縮小などの見直しをする必要が生じてくることもあるでしょう。既存事業を充実させることで地域の課題解決に取り組み、想定していた新規事業を導入しないということも考えられます。
 なお、既存の類似事業には、利害関係者が存在することが少なくありません。事業の比較に際しては、これら関係者との調整可能性も事業採否の大きな要因となることがあります。

〈ポイント4:複数案の作成とその比較・検討が行われているか〉
 事業(内容)の決定に至る過程において、複数案の作成とその検討結果を明らかにすることが行われているでしょうか。複数の案を比較検討することで、選ばれた案の長所が浮かび上がってきます。また、悪意であるか善意であるかを問わず、1つの案だけでは見えなかった(=隠蔽されていた)案の短所も顕在化してきます。
 複数案の作成に際しては、発想を膨らませることが大切です。そのため、複数案はなるべく話合いのプロセスを経た上で作成することが期待されます。話合いでは、出された意見をすぐには批判しない、意見の内容(質)にこだわらず、とにかくたくさんの意見を出すなどブレーンストーミングの手法を用いることが期待されます。ブレーンストーミングの発案者としても著名なオズボーンのチェックリストを自分用にアレンジし、日頃からマイ・チェックリストとしてブラッシュアップしておくことが期待されます。

〈ポイント5:市民1人ひとりの目線に立っているか〉
 市民として、市民の目線で、市民の立場から事業を考えているでしょうか。そして、市民が多様であることを前提とした議論を展開しているでしょうか。市民1人ひとりはそれぞれに異なる環境で生活しています。1つの事業が、ある市民にとっては有益であっても、他の市民にとっては無益、さらには有害であることも考えられます。事業の受け手である市民は多様です。
 また、自己のライフステージや家族構成の変化により、求められる行政ニーズも変容します。将来の人口構成や家族構成など社会の動きを踏まえながら、長期・中期・短期と様々な時間軸の中で、市民の目線に立ち、地域の将来に思いをはせながら事業を査定する必要があります。そのことは、事業の実施に必要となる投入資源を制御することにもつながります。

〈ポイント6:ミニマムであることを確認したか〉
 政府の実施する事業は、国の事業も自治体の事業もミニマムであることが求められ、その確認が必要です。自治体が有限の資源で無限とも思えるような市民の膨大かつ多様なニーズに応えるには、自治体の実施する事業は必要最小限(ミニマム)であることが必要となります。
 ミニマムを超えた事業は、必要とされる別の事業を実現するための阻害要因となります。このような事態が発生することを予防しましょう。

〈ポイント7:事業の特性を踏まえているか〉
 自治体の実施する事業も、総合性、相反性、主観性、動態性などで構成される複雑性や、関係者が多数になることで合意形成が困難性を伴うことになる悪構造性などの特性を持ちます。このような特性を踏まえ、事業の採否を決定する必要があります。
 もし、このような特性を踏まえていないとすれば、ある1つの事業を行ったことにより反作用が生じ、社会が大きく混乱することもあります。その典型が公害問題です。

〈ポイント8:政策体系の中で安定しているか〉
 その事業は、政策体系あるいは政策集である計画の中で、他の事業との関係が安定しているでしょうか。すなわち、政策体系の中で、その事業がおのずから座り心地がよい位置にあるということが確認できるでしょうか。座り心地がよい位置にあることは、その事業が相乗効果を持ちうる可能性が高いと考えることができます。
 一方、座り心地が悪い、安定していないということは、事業間で事業の効果を打ち消し合ってしまうことが考えられます。それでは、投入された人員や予算(財源)などの資源は無駄に消費されてしまうことになります。

〈ポイント9:「時(とき)は今(いま)」といえるか〉
 事業実施の時期が、様々な事業間の相乗効果を生むようなタイミングにあるでしょうか。事業効果を最大限に発揮できるようなタイミングで事業を実施することができるでしょうか。
 これまで、先進事例が皆無あるいは少数という事業であれば、合意形成に困難が伴うことで事業開始までに時間を要する事態も考えられます。取組みがスタートしている事業であっても、事業が効果を発揮できる時期(期間)が限られている場合もあります。事業が効果を発揮できなくなるまでの間で、最も効果を上げることができるタイミングをとらえることが肝要です。これらのことを見越して事業実施のタイミングをとらえることが必要です。

〈ポイント10:事業実施に必要な資源を投入できるか〉
 事業を実施するとき、その事業が市民や関係者に対する効果を、短期・中期・長期と継続的に発揮するためには、人、組織、予算(財源)、権限、情報などの資源が必要になります(時間を含めることもできます)。
  組織体制(担当部署、職員数)、キーパーソンの確保は可能でしょうか。その確認が求められます。また、事業の実施に必要となる財源は確保できるでしょうか。将来にわたるコストは試算できているでしょうか。その事業の実施が、自治体の財政を大きく圧迫するようなことはないでしょうか。その事業を行うことで、財政指標にどのような影響をもたらすことになるのでしょうか。事業の実施に必要となる予算を示すときは、将来にわたるコストの概算額も含めて明示することが求められます。

〈ポイント11:他部局等との調整が十分か〉
 他部局との調整が十分に行われ、事業が効果を発揮できるよう検討されているでしょうか。力を合わせるのは、同じ自治体内の関係部局だけではありません。市町村の場合であれば、近隣の市町村・関係する都道府県・国・国際機関など政府セクターに属するアクターや、市民・NPO・企業などの市民社会セクターや市場セクターに属するアクターとの連携も必要となります。

〈ポイント12:事業実施の根拠・位置付けが明確か〉
 総合計画をはじめとする自治体計画の中に、事業実施の根拠・位置付けを確認することは、その事業の自治体における政策的位置を再確認することになります。このことにより、計画策定時には関わっていなかった職員も当該事業に期待される役割を確認することができます。
 また、事業実施の根拠となるような法律や条例の内容を確認しているでしょうか。関連する法律や条例を確認することで、事業の目的を再確認することができます。

〈ポイント13:デメリットを含めた事業の多角的検討が行われているか〉
 メリットだけでなく、デメリットも含めた客観的な情報の提示が行われ、その上で事業についての議論が行われているでしょうか。あえて反対の立場から検討すること、別の立ち位置から検討すること、多面的な検討をすることが、事業をよりよいものとすることにつながります。
 当初の段階において反対者がない場合に、あえてディベートなどを行って事業に磨きをかけることは、よりよい事業を行う上で大切なことです。反対者は、少数者であることも少なくありません。声を上げたくても上げることができないのかもしれません。そのことを踏まえ、十分な調査や議論を行い、その上で事業を査定することが求められます。

〈ポイント14:補完性の原則・近接性の原則を踏まえているか〉
 事業の効果(結果)は、個人に帰結します。そのため、ポイント10で見た事業実施に必要となる投入資源の可能量という制約があるものの、可能な限り個人に身近な政府により事業が行われることが期待されます。個人さらには人々が暮らす地域の課題について、身近な政府は迅速かつ総合的に地域の状況を踏まえた上で、解決に向け対応できる可能性が高いからです。そのため、補完性の原則・近接性の原則に基づき、基礎自治体、広域自治体、国、国際機構というように、より身近な政府から(の順で)事業が実施されることが期待されます。
 なお、道路、河川、介護、人材育成など特定分野の事業を担う、一部事務組合や広域連合などの行政組織もあります。これらの組織には、民主的統制の視点からは課題もありますが、活用することが期待されます。

〈ポイント15:事業の周知方法が検討されているか〉
 決定事項の周知方法が検討されているでしょうか。事業の実施が決定されても周知されなければ、その事業は効果を発揮することができません。
 また、事業は分かりやすいものとなっているでしょうか。どんなに効果的・効率的な事業であり、かつ周知されていても、分かりやすいものでなければ効果を発揮することができません。周知の前提として、分かりやすさが求められます。

〈ポイント16:事業の実施により、共通の価値実現に近づくか〉
 どのような事業にも位置付けられることが期待される価値、あるいは多くの事業に位置付けられることが期待される価値が、事業を実施することで実現されるでしょうか。少なくとも、そのような価値の実現を阻害するような事業であってはなりません。
 共通の価値としては、例えば、基本的人権を挙げることができます。基本的人権を実現するための価値、あるいは関連する価値としては、持続可能性、ノーマライゼーション、安心、安全などを挙げることができます。

3 議会として16の査定ポイントを生かす

 議会には、「市民のために」ということを前提とし、首長をはじめとする行政と信頼関係を築きながら連携・協力・けん制・競争することが求められます。
 行政は事業を執行するため、執行責任を問われる立場にあります。そのため、容易に執行できる事業を計画に位置付けようという選好が働くことがあります。その結果、市民にとって本当に必要な事業が計画に位置付けられない事態が生じることも考えられます。
 一方、議会は事業を執行することがなく、執行責任を問われる立場にありません。しかし、議会は議決責任を問われます。つまり、どのような事業を自治体計画に位置付けるのかを議決することで、議決責任を負うことになります。それゆえ、たとえ実施に困難を伴う事業であっても、本来、計画に位置付けるべき事業を、適切に計画に位置付けることを希求する可能性を議会は行政よりも高く持ち得るのです。
 議会には、このような議会の持つ特性を踏まえ、市民のために、2において示した16のポイントを確認しながら、計画に位置付ける事業を査定することが求められます。その実践の取組みが、市民や行政から議会が信頼を得ることにつながります。


【参考文献】
◇石橋章市朗=佐野亘=土山希美枝=南島和久『公共政策学』(ミネルヴァ書房、2018年)
◇金井利之『実践自治体行政学──自治基本条例・総合計画・行政改革・行政評価』(第一法規、2010年)
◇金井利之編著『縮減社会の合意形成──人口減少時代の空間制御と自治──』(第一法規、2018年)
◇松下圭一『政策型思考と政治』(東京大学出版会、1991年)
 

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