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2018.12.25 議会運営

99回も議長選挙を繰り返した与那国町議会

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 ③ 「与野党」とも議会運営を有利に進めるために議長を相手側から出させたいと考え、互いに相手側候補に投票して票数が同数となり、くじ引きで議長に選出されても辞退するといった行為を繰り返した。議会多数を確保するために議長ポストを忌避するのは戦術ではある。しかし、それは、議会審議を行っても、はじめから、町長(執行部)提案の議案に対しては5人の「与党議員」は賛成で、5人の「野党議員」は反対ということが決まっているかのような振る舞いである。
 しかも、多数確保のために議長忌避合戦を繰り広げたということは、議長の権威など最初から眼中にないことになり、合議体としての議会のまとまりを放棄するに等しいのではないか。議会における議長の価値が著しく軽んじられている。
首長と議員が別個に直接選挙で選ばれるという二元的代表制においては、両者がどのような政党・党派的な立場にあろうが、その間に与野党関係があるはずはない。もしあえて「与野党」という言葉を使うならば、議員(その集合体としての議会)は首長に対して「野党的」でなければならない。その意味は、首長提案の議案の内容を質(ただ)し、首長の行政運営を点検して、是は是、非は非として、議会としての意思を示すことである。首長の提案にはすべて賛成する、あるいは首長の提案にすべて反対することが議員の任務ではない。政党・党派の違いを乗り越えて議会としての合意を生み出す必要がある。多数派は少数派の意見に歩み寄り、少数派は妥協を通じて合意をつくり出すのである。与那国町議員には、このような理解はなさそうである。町長との関係で与野党意識が染みついているように見える。

 ④ 同じことを何十回と繰り返し、全国の注目を浴び、会期が延長され「税金の無駄遣い」という批判も強まった。2018年10月25日、町長が「与党」に議長職の受諾を働きかけたのに対し、町議会「与党」は町教育長人事の「専決処分」を受諾の条件として提示したといわれる。町長は報道陣に「専決処分に向けた手続きをしたいと考えている」と、「与党」の条件に応じる考えを示したという(『琉球新報』2018年10月26日付)。
この「与党」の専決処分要請は、にわかには信じがたいものである。地方自治法179条は、「普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第113条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第162条の規定による副知事又は副市町村長の選任の同意(中略)については、この限りでない」(下線は筆者)と規定している。
 専決処分は議会に対抗するための首長の権限であり、その行使を議会側が要請することは本末転倒の感を否めない。しかし、それが「与党」の態度として当然視されている。おそらく教育長の人選は「与党」の意向でもあったのであろう。首長と「与党」は融合している。
 町長は教育長人事が事態収束に向けてのネックになっているとの認識を示し、専決処分の要件を満たすかどうかについて県に照会した。地方自治法では、専決処分による副町長の選任はできないことになっているが、教育長については、その規定はない。議会の同意が望ましいことはいうまでもない。専決処分の是非について県側からは、地方自治法179条の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」に専決処分を行うことができるが、首長の認定が客観的に誤っていれば、処分が違法となるとの説明があったという。議長も定まらない状況において教育長を専決処分で決めれば、その妥当性をめぐって町長の責任が問われ、訴訟につながる可能性が否定できないというわけである。これを受け、町長は「与党」議員の説得に当たったという。これに「与党」が理解を示し、31日に「与党」側から議長を選出することとなった。「与党」側が「これ以上混乱を長引かせられない」と妥協した形での決着であった。
 教育長の選任には、議会の同意が必要であるが、その人選に関し、議会側と非公式な相談が行われることはある。首長が理解を求める場合も議会側が推挙する場合もあると聞く。しかし、それはあくまでも内々の話であって、首長は熟慮の上で、最適の人物を提案し、議会は、質疑の上、判断するのである。いかに「与党」議員でも、教育長の専決処分を求めるなどは、議会人としてはあるまじき振る舞いではなかろうか。

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