2018.12.10 政策研究
第3回 総合計画のチェックポイント②(計画の「言葉」)
大和大学政治経済学部准教授 田中富雄
1 「言葉」の多義性から見た、計画の送り手と受け手の留意点
本稿は、自治体計画の最上位に位置付けられる総合計画に焦点を当て、筆者が総合計画に位置付けられることを期待する「言葉」を取り上げます。
計画に位置付けられる政策は、大きな目標の実現に向けてツリー型になっています。1つの政策はいくつかの施策から構成され、1つの施策はいくつかの事業から構成されています。これらの政策、施策、事業は、目的と手段の関係を構築します。今回取り上げる「言葉」は、総合計画に位置付けたい政策、施策、事業の名称そのものや、それらを説明するのに必要となる「言葉」です。
また、「言葉」1つひとつがどのような意味を持つかはもちろん重要ですが、それだけでなく、「言葉」と「言葉」がどのような関係にあるのかということも重要です。「言葉同士」が、地域のためにいかに相乗効果をもたらしうるか、反作用をもたらすかということを考えることも必要だからです。
ところで、議員一人ひとりには、思い入れのある政策があることでしょう。議員になるきっかけとなった政策、人生がかかった政策など……。その「政策」は、「言葉」により表現され、言葉により理解されます。
個人の発想や思いの中には、やがて政府政策となるものも含まれています。個人の発想は、自分にとってこの状況を何とかしなければという状況認識を経て生み出されます。まずは、自助努力がなされることでしょう。その自助努力を見て「ほっとけない」人たちや団体が、困っている当事者が課題解決することを支援することがあります。さらに、これらの取組みだけでは問題を解決できない場合、合意形成など一定の条件が整えば、地方政府や中央政府の政策、すなわち政府政策として、その問題に取り組むことになります。そして、このような政府政策が体系的に集められたものが行政計画であり、議会が議論し議決した計画は自治体計画となります。自治体においては、総合計画と分野別計画(中間計画や個別計画)により、計画体系が構成されています。
さて、「言葉」は多義的です。「言葉」が生み出されてから今日に至るまでの歴史を反映しているからです。「言葉」を使おうとするとき、送り手が意識しているか無意識であるかにかかわらず、受け手がどの時代の歴史を背景とした「言葉」の意味として受け取るかによっても多義的なものとなります。
「言葉」の送り手も受け手も多様な環境の中で育ち、多様な環境の中に生きています。そのため、「言葉」を使用するとき、送り手には、その「言葉」の定義を明らかにすることが求められます。一方、受け手には、その「言葉」がどのような文脈の中で用いられているのかを把握する努力が求められます。送り手は、受け手のことを考え、理解しやすいように分かりやすく「言葉」を用い、受け手は、送り手のことを考え、送り手が何を伝えたいのかを考えながら「言葉」をひも解くことが求められます。総合計画に用いられる「言葉」にも、このことが当てはまるように思われます。
2 総合計画に位置付けたい「言葉」
以下に示す「言葉」が、政策、施策、事業として、あるいはそれらの内容を示すものとして計画に位置付けられていることが期待されます。以下に示す27の言葉の中には、計画の策定根拠や策定過程に関するもの(言葉1、2)と計画の内容に関するもの(言葉3~27)が含まれています。
〈言葉1:自治基本条例、議会基本条例、総合計画条例〉
総合計画の策定が自治基本条例、議会基本条例、総合計画条例などに根拠を置くということを総合計画に明記することで、総合計画の策定根拠を可視化することができます。このことは、これらの条例の存在を周知することにもつながります。
また、議会基本条例や総合計画条例は、自治基本条例の関連条例ですが、自治基本条例が制定されていない段階では、議会基本条例や総合計画条例が総合計画に対する根拠条例となります。
議会改革の先達である北海道栗山町議会において議決された前段に掲げた3つの条例は、いずれの条例も総合計画策定の根拠条例となるものであり、総合計画にかかわる重厚な条例体系を構成しています。参照に値するものといえるでしょう。
〈言葉2:策定過程〉
総合計画の策定過程がどのようなものであったのか。市民意識調査やワークショップなどの住民参加はどのように行われたのか。パブリックコメント手続が案の早い段階から実施され、最低2回は行われているのか。研究者などの専門的知見をどのように活用したのか。つまり、総合計画には、みんなで議論し決定したのだということが記載されていることが求められます。これらは、次回の計画策定にも役立てることができます。計画に位置付けられた、あるいは位置付けられなかった政策に対する市民や関係者の受容性も高まります。
そして、これら総合計画の策定過程についての詳細は、市のホームページや担当課の窓口、出張所、図書館、コミュニティセンター等の身近な施設において、さらには情報公開の窓口において容易に入手でき、理解されやすいよう分かりやすく情報にアクセスでき、情報自体も分かりやすく作成されていることが求められます。このような取組みにより、市民や関係者の計画の内容に対する理解が高まります。
〈言葉3:信頼〉
日本の地方自治体は、議会と首長の二元代表制をとっています。両者の間には、チェック・アンド・バランスという言葉があるように、相互にけん制する機能が備わっています。しかし、二元代表制本来の目的を達成するには、議会と首長、両者の間での連携・協力が必要です。そのためには、互いの信頼が不可欠なものとなります。
このけん制(競争を含める場合もあります)や連携・協力の必要性は、地域に暮らす人々の間においても当てはまることでしょう。地域の人々と身近な政府の機関である議会や首長との間においても同様のことがいえます。
〈言葉4:安心〉
「安心」については、心(こころ)のあり様を示すことから、「安全」と異なり際限がなく、総合計画に盛り込むことが難しいとの見解が示されることもあり得ます。一方、安全であっても安心できなければ、人は身近な政府である自治体の活動に対して不満を持つことにつながります。
自らの暮らしに対する自己評価が各人の意識に基づき行われるものであるとすれば、「安心」に対する際限のなさ、人々が多様性を持つ中で「安心」を計画の中にどのような政策として位置付けるかという具体論、どのような視点から「安心」を評価するのかというフレーミングの議論の存在など解決すべき課題があります。そのため、「安心」を求める人々の心を充足させることは容易ではありません。様々な難しさがあることでしょう。しかし、「安心」を計画に位置付けることには一定の価値があるように思われます。
〈言葉5:安全〉
「安全」は、「安心」と異なり、客観的な一定の基準があり、それによって判断されるものです。例えば、1981年5月に改正された耐震基準があります。このような基準は、一定の安全性を確保することにつながります。地震や水害などのハザードマップも歴史的な安全性基準として地域の状況を一定示しているといえます。耐震化はもとより、老朽化して更新・長寿命化が求められることの少なくない橋りょうや緊急輸送道路も、一定の基準に基づく安全性の確保が必要です。
また、化学物質や細菌、放射能等が原因となる災害、いわゆるNBC災害(Nuclear, Biological, Chemical)についての対応も行政には求められています。
自治体レベルにおける安全では、防火・防犯の視点からの安全も求められています。
〈言葉6:防災、減災〉
災害は、地震や火山噴火によるものなど多様ですが、なるべく災害が発生しないようにする防災や、起きてしまったときにはなるべく被害を減少させる減災の取組みが求められています。災害時には、まず人々の命とライフラインを確保することが、行政をはじめ公共性の高い機関には求められます。
水害への予防対応を考えてみると、河川の整備や、宅地開発時における雨水貯留施設の確保が必要となることもあります。さらに、保水機能を持つ森林、農地、緑地を保全し創造することも必要となります。都市基盤が雨水を処理できない状況であるにもかかわらず、宅地開発などの都市的土地利用が行われると、災害の発生につながります。
震災への予防と対応では、自主防災組織が大きな力を発揮することが少なくありません。平常時には防災知識の普及、防災訓練の実施、防災用資機材の整備などを行い、災害時には情報の収集伝達、初期消火、負傷者の救出保護、避難誘導などの役割を担います。そして、避難行動要支援者の避難支援を、避難支援関係者の一員として地域の人々と一緒に行うことになります。
また、災害の規模にもよりますが、地域間や自治体間の災害時相互応援協定が有効であるとの見解もあります。多方向、遠近、多交通手段での相互応援が可能となる地域、自治体との相互応援協定を締結することが期待されます。
〈言葉7:成長管理〉
市街地を整備するには、その整備に当たり、必要となる道路や交通機関の確保、河川への雨水流出抑制策や河川水位調節策の確保、上下水道や電気、ガス、そしてごみ処理施設などの供給処理施設の確保が必要となります。これらが整わずして宅地供給のための工事が始まったり、宅地が供給されたりすると、交通渋滞や水害をはじめとする都市問題が発生します。
〈言葉8:持続可能性(サスティナブル)、SDGs〉
これまで、自然、経済、社会などの分野において、その持続可能性が議論されてきました。近年は、SDGs(Sustainable Development Goals)という言葉が使用されることも増えています。
このSDGsは、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016~2030年の15年間での達成を目指し掲げた、地球環境や気候変動に配慮することで持続可能な暮らしや社会を営むための目標です。世界各国の中央政府や地方政府、非政府組織、非営利団体だけでなく、民間企業や個人などにも共通する17の目標と、各目標を実現するための169のターゲットで構成されています。
〈言葉9:都市計画マスタープラン〉
「都市計画マスタープラン」は、将来都市像の実現に向けて、区域区分(市街化区域及び市街化調整区域)、用途地域、都市計画道路、土地区画整理事業などの都市計画制度(事業)を適切かつ効果的に活用し、自然環境との調和に配慮しつつ、住環境の向上、産業の活性化のための計画的な土地利用を推進(促進)するための計画です。
多くの都市計画プランには、まちづくりの基本理念や都市空間の将来像とともに、まちづくりの方針として、土地利用誘導、都市施設整備、市街地整備、災害に強いまちづくり、環境まちづくり、景観まちづくり、安心のまちづくり、拠点市街地のまちづくり、地域特性を生かしたまちづくりなどの方針が定められています。
〈言葉10:公共交通〉
高齢社会となり、独居老人等の増加が見られる今日、通院、買物をはじめ、娯楽、通勤、通学など日常生活において、少なくとも自らの生活圏域内を不自由なく移動することができるよう、公共交通が整備されていることが期待されています。公共交通の有無や利便性の状況は、地域で暮らす人々に大きな影響を与えるという意味で、その一定水準の整備が地域に必須のもの、つまりミニマムとして国又は自治体が国民(住民)に対して保障すべき生活基盤と考えることができます。
そうであれば、仮に民間の公共交通事業の経営が厳しい状況に陥ったときには、国や自治体という政府が民間の事業者に対して何らかの支援策を講じることも正当と考えることができます。
〈言葉11:都市計画提案制度〉
都市計画提案制度は、土地の所有者やまちづくりNPOあるいは民間事業者等が、0.5ヘクタール以上の一体的な一団の土地について、「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」などの都市計画に関する基準に適合しており、提案区域内の土地の所有者等の3分の2以上の同意(人数と面積)があることなどを条件として、都市計画の決定や変更の提案をすることができる制度です。当該地域ないし当該土地のまちづくりに関心を持つ主体が都市計画という制度を使いこなすための制度であると考えることができます。
しかしながら、この制度に基づく提案は、民間事業者による提案が多数を占めています。今後、土地の所有者やまちづくりNPOなどを主体とした提案の増加が期待されるところです。そのためには、都市計画提案制度を土地の所有者はもちろんのこと、広く住民に周知することが求められるでしょう。また、まちづくりNPOが積極的にこのような活動に取り組むことが期待されます。
近年では、定年退職後に、それまで都市計画やまちづくりにかかわってきた人々が、様々な形でまちづくりにかかわっています。学生時代からまちづくりに関心を持ち、NPOを立ち上げ活動する若者も少なくありません。このような取組みを目指す人材をいかに発掘し支援することができるか、自治体の力量が問われています。
〈言葉12:行政の文化化、文化行政、アーバン・デザイン〉
1970年代から1990年代にかけ、自治体を中心として、「行政の文化化」や「文化行政」という言葉で表現される新たな行政が広がりを見せるようになりました。そこでは、市民性、地域性、総合性、人間性、科学性が重視されるようになりました。アーバン・デザインの取組みも、このような取組みの1つととらえることができます。
アーバンは、都市的、都会的という意味で、都市デザインとも呼ばれています。都市空間は、多くの建築物、道路、樹木、ストリート・ファーニチャーなどによって構成されています。アーバン・デザインでは、その全体を1つのまとまったデザイン対象としてとらえ、その空間性、形態、色彩などをデザインしますが、美しさだけでなく、安らぎ、うるおい、楽しさ、個性など様々な価値の実現が求められています。アーバン・デザインのこのような考えは、「行政の文化化」や「文化行政」の考えに通底するものです。
〈言葉13:地産地消〉
全国的に地産地消が取り組まれています。人口の多い大都市近郊では販路が多いことから、地産地消に有利であるといえます。しかし、地方でも地域おこし、地域活性化の一環として地産地消の取組みが進められています。
地産地消の場としては、農産物直売所があります。近年では、幹線道路沿いに「道の駅」が設置されたり、JA等と連携・協力して農産物やその加工品をはじめ地域産品を総合的に販売する施設も見られます。そこには、商工業者等との連携・協力も見られます。
地産地消の推進は、エネルギー消費やCO2削減の面でも効果があります。
〈言葉14:リデュース・リユース・リサイクル(3R)〉
リデュース・リユース・リサイクルは、ごみを減らすリデュース、繰り返し使うリユース、資源として再利用するリサイクルという言葉で、3つの頭文字をとって3Rともいわれます。人々が、資源の有限性と地球環境の限界を認識することにも役立ちます。
これらの取組みは、住民、企業、行政など多様な関係者の理解が必要となります。
〈言葉15:かかりつけ医(歯科医・薬局を含む)〉
「かかりつけ医(歯科医・薬局を含む)」とは、身近な地域で日常的な医療を受けたり、健康の相談などができる医師(歯科医師・薬剤師)のことです。大病院との役割分担をすることで、限りある医療人材をTPOに応じて有効活用することができます。
また、「かかりつけ医」と大病院との間における、患者本人を中心に置いた治療の連携・協力が求められます。
〈言葉16:ノーマライゼーション、バリアフリー、ユニバーサル・デザイン〉
ノーマライゼーションとは、広義で解釈した社会的マイノリティを含めた人たちが、社会の中で、ともに生活することが本来の望ましい姿であるという思想です。このような考えに基づき必要な環境を整備することが大切です。
バリアフリーは、小さな子どもや高齢者、障害者といった社会的弱者の社会参加を妨げている物理的、精神的な障壁を取り除くために設備やシステム、制度を整備することです。
ユニバーサル・デザインとは、老若男女、障害、国籍、文化、言語、能力などを問わずに快適に利用、使用できる施設や製品などの設計のことです。すなわち、ユニバーサル・デザインのコンセプトは、障害者も含めたすべての人たちが使いやすいデザインを設計することです。
〈言葉17:地域包括ケアシステム〉
地域包括ケアシステムは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもと、可能な限り、住み慣れた地域で、いつまでも自分らしい暮らしを続けることができるよう、医療・介護・介護予防・住まい・生活支援などの包括的な支援・サービスの提供を行うことができる地域社会の実現を目指しています。地域包括ケアシステムは、地域の大切なセーフティネットです。
今後、認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築が重要です。
〈言葉18:ワーク・ライフ・バランス〉
国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活においても、子育て期、中高年期などといった人生の各段階(ライフ・ステージ)に応じて多様な生き方を選択し実現できるように職場環境や社会環境を整えることが求められています。
ワーク・ライフ・バランスは、男女共同参画社会の実現への取組みや働き方改革の取組みにも深くかかわるものであり、これらの政策と一体的・総合的な取組みが求められます。
〈言葉19:図書館〉
図書館は、本や資料を収集し、閲覧に供し、貸し出すだけではありません。図書館が行うことのできる事項が図書館法3条に規定されています。図書館は、郷土資料・地方行政資料等の収集にも十分留意して資料を収集し一般公衆の利用に供すること、読書会・研究会・鑑賞会・映写会・資料展示会等を主催し奨励すること、時事に関する情報及び参考資料を紹介し提供すること、学校・博物館・公民館・研究所等と緊密に連絡し協力する存在であることが示されています。
図書館に行くことで、それまで知らなかったことに出合うことも多いことでしょう。図書館は、教育や学習にとって必要な教育基盤・学習基盤であるとともに、当該地域の政策を考える上での重要な政策基盤でもあります。
〈言葉20:イベント〉
にぎやかな祭りやフェスティバルなどの催事を「イベント」という「言葉」でとらえることとします。イベントには、芸術祭、映画祭、音楽祭、文化祭、産業フェスタ、健康フェスティバル、体育祭、読書コンクール、大学祭、感謝祭など様々なものがあります。主催者も、市民、地域、団体、法人、自治体、国、国際機構など多様です。イベントを開催する側に立つ、共催、協賛、協力する関係者も多彩です。
これらイベントの主催者や関係者には、それぞれに目的があることでしょう。そして、イベントには、先導的事業の実験の場、情報収集から評価に至るまでの様々なコンセンサスづくりの場、地域への誇り醸成の場、経済効果発生の場としての役割があります。
〈言葉21:関係人口、定住人口、交流人口〉
「関係人口」とは、そこに住む「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様にかかわる人々を指す言葉です。地域の出身者、地域を行き来する人、過去に勤務したり・居住したり・滞在したことのある人のように、何らかのかかわりのある(あった)多様な人材を関係人口ととらえます。例えば、北海道芦別市では、「星の降る里あしべつ応援大使」制度を設けていますが、この大使は、関係人口としてとらえることができます。
また、総務省では、地域にかかわりを持つ人々が地域づくりにかかわる機会を提供したり、地域課題の解決等に意欲を持つ地域外の人々との協働実践活動に取り組んだ自治体を支援するモデル事業を「『関係人口』創出事業」としてスタートさせています。
〈言葉22:地域学、地元学〉
「地域学」とはどのようなものでしょうか。現状では、各地域で取り組まれている地域学ごとにその意味するところは異なるかもしれません。例えば、三郷市では、「三郷の資源(人・自然・地勢・産業・交通・歴史・教育・文化など)を改めて認識し、それらの資源に学び、三郷を取り巻く社会環境の変化を見据えつつ、三郷の歩むべき方向性を常に考え、行動する『三郷学』」(地域学)に取り組んできました。近年では、地域学についての講座を設置している大学もあります。
また、地域の持つ人・自然・文化・産業などの力に気づき、その力を引き出していくための手法として「地元学」に取り組む活動も見られます。「水俣学」の取組みが代表的なものです。水俣学の取組みは、三重県の「三重ふるさと学」や岩手県の「いわて地元学」として広がりを見せました。
〈言葉23:コミュニティ、地域力〉
コミュニティという言葉は、「コミュニティ─生活の場における人間性の回復─」という、1969年9月29日、国民生活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会における報告の中で、「コミュニティは、個人や家庭のみでは達成しえない地域住民のさまざまな要求を展開する場として、取り残された階層を含めて人間性の回復と真の自己実現をもたらすものである」ととらえられています。ここに示されている地域の課題は、今日においても継続しているといえるでしょう。その意味において、コミュニティの果たす役割は大きいといえます。
コミュニティの力は、地域力と呼ばれることもあります。
〈言葉24:地名、旧地名〉
土地区画整理事業に伴う町名変更などにより、従前の地名がドラマに出てくるような(よくある)地名に変わることが少なからずあるように思えます。2つの地域が1つの地名になるようなときには、従前の地名を残すことの難しさも想像できます。
しかし、地名は地域のアイデンティティ(自己確認)にとって重要なものです。例えば、「字(あざ)」(小字)は、その地域でかつて発生した自然災害や地形、地質などに由来したものも多くあります。地名には、地域のDNAが宿っていると考えることができます。たとえ地名を変更せざるを得ない事情が生じたとしても旧地名を公共施設の名称として残したり、旧地名を刻んだ記念碑を建てることが望ましいといえます。
〈言葉25:公共施設、地域生活環境指標(図)〉
自治体が保有する公共施設については、少子高齢化に伴い今後予測される人口構成や財政状況の変化、市民の価値観やニーズの多様化、施設の老朽化の状況等を踏まえ、総合的に企画・管理・活用することが求められています。
自治体内において必要となる公共施設を、例えば、自治体全域レベル、自治体ブロックレベル、近隣レベルに階層化した上で配置することが必要となります。もちろん、1つの自治体ですべてを整備するのではなく、市町村同士の広域連携で対応したり、国や県の施設を配置計画の中で考慮することも必要となるでしょう。学校等の空き教室や廃校になった学校を丸ごと転用することも考えられます。さらに、個人や法人が所有する施設を自治体や地元自治会・町内会等が借用したり、有料会議室のような施設の存在を、地域生活環境指標(図)の中に位置付けることも必要です。
〈言葉26:コミュニティFM〉
コミュニティFMは、「地域密着」、「住民参加」、「防災及び災害時の放送」という特徴を生かし、様々な番組を放送しています。発災時、コミュニティFMでは、そのとき流れている放送に割り込み、災害情報が流れます。リアルタイムで放送できるという長所があります。また、ラジオは明瞭な音声を伝えることができ、聴取者が利用を選択できる利点もあります。しかし、聴覚障害者が情報弱者になってしまう問題があります。これらのことは、1つの政策が持つ可能性と限界を示しています。そして、政策はパッケージで行うことにより効果を上げることが可能となることを、改めて指摘することができます。
〈言葉27:アイデンティティ〉
アイデンティティという「言葉」は、自我同一性と訳されることが少なくありません。「本人」あるいは「そのもの」であることの自他による確認を意味します。総合計画が地域のアイデンティティを反映していることが求められています。
議員には、アイデンティティに深くかかわる住所要件が求められています。首長の場合、制度的には住所要件は不要です。議員は、首長以上に地域のアイデンティティを反映し、地域に密着した視点を持って議会で議論することが求められていると考えることもできます。
3 「私たちの言葉(=We・ランゲージ)」を総合計画に!
ここまで、総合計画に位置付けることが期待される「言葉」について考えてきました。本稿で取り上げた「言葉」は、必ずしも目新しいものではありません。多くの「言葉」は、すでに全国各地の自治体で策定された総合計画の中に位置付けられている(含まれている)ことと思います。
しかし、表面的には同じ「言葉」であっても、その意味することが異なることは少なくありません。その「言葉」がどのような背景の中で誕生したのか、どのような意味を持つのか、私たちの暮らしにどのような影響を与えるものなのか、それらのことを熟考した上で「言葉」を用いることが、私たちには求められています。
このことを通じて、私たちには、自分たちの地域においてどの「言葉」を用い、その「言葉」をどのように解釈していくべきかということを確認することが可能となり得ます。地域の環境は、それぞれに異なります。また、「言葉」の意味は、時の経過とともに変化することもあります。私たちは、自らの地域や時の経過に適した「言葉」を総合計画という政策集に位置付け、政策を稼働させることが求められているといえます。
本稿で取り上げた「言葉」のほかにも、「平和」、「広聴」、「情報公開」、「広報」、「参加」、「健康」、「水」、「緑」、「AI」など総合計画に位置付けたい「言葉」があります。読者の皆さんにも、総合計画に位置付けたい「言葉」があるのではないでしょうか。
本稿で取り上げた「言葉」やそこで記述した内容は、地域の特性を踏まえた地域ごとの解釈があるように思われます。自治体を取り巻く環境の変化が著しい今日、人々が認識する「言葉」の意味が、短期間のうちに変容することがあるかもしれません。私たちには、「言葉」の持つこのような特性を踏まえながら、「言葉」を「私たちの言葉(=We・ランゲージ)」として、地域で共有することが期待されます。地域特性と時代状況を踏まえた意味を「言葉」の中に見いだし、その「言葉」を当該自治体の最上位計画である総合計画に位置付け、私たちの暮らしを一歩ずつよりよいものとしていくことが、自治体議会の役割として求められています。
【参考文献】 ◇成沢光『政治のことば──意味の歴史をめぐって』(講談社、2012年) ◇金井利之『実践自治体行政学──自治基本条例・総合計画・行政改革・行政評価』(第一法規、2010年) ◇土山希美枝『「質問力」でつくる政策議会』(公人の友社、2017年)