2018.11.26 議会運営
第62回 年度末の税条例に関する専決処分の取扱い
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
年度末の税条例に関する専決処分の取扱い
A市においては毎年度末、税条例の改正が専決処分により行われている。しかし、専決処分とすることなく議会において議決すべきであるとの意見があり、その場合はどのように処理をすべきであるか。
多くの地方公共団体においては、年度末における地方税法の改正に係る税条例の改正が専決処分において行われることが多い。この場合の専決処分とは、地方自治法(以下「法」という)179条1項による専決処分と法180条1項による議会の委任に基づく専決処分の2つがある。
まず、法179条1項に基づく専決処分とは、法179条1項に規定された4要件のどれかに該当することにより、本来議会の議決を必要とする案件を長限りにおいて議会の議決を得ることなく執行することができることをいう。なお、4要件とは、①普通地方公共団体の議会が成立しないとき、②法113条ただし書の場合、すなわち、(ア)法117条の規定による除斥のため出席議員が半数に達しないとき、(イ)同一の事件につき再度招集してもなお半数に達しないとき、(ウ)招集に応じても出席議員が定数を欠き議長において出席を催告してもなお半数に達しないとき、(エ)半数に達してもその後半数に達しなくなったとき、においてなお会議を開くことができないとき、③普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、④議会において議決すべき事件を議決しないとき、をいう。
【法179条】
① 普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第113条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第162条の規定による副知事又は副市町村長の選任の同意及び第252条の20の2第4項の規定による第252条の19第1項に規定する指定都市の総合区長の選任の同意については、この限りでない。
次に、法180条1項による議会の委任に基づく専決処分とは、地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で議会が議決により特に指定したものについて、議会の議決を要することなく執行機関において執行することができるものをいう。
【法180条】
① 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
議会の委任に基づく専決処分における軽易な事項とは、議会において客観的に軽易な事項であると判断すべきものであり、具体的には昭和5年2月の内務省決定におけるとおり、条例の制定、廃止は議会の本来的権限であるため、軽易な事項として法180条による議会の委任に基づく専決処分の対象とならないと解されている。
○知事の専決処分にまかしうる範囲(昭和5年2月内務省決定)
問 府県制第87条〔地方自治法では179条〕ハ府県会ノ権限ニ属スル事項ヲ知事ニ委任シ専決処分セシムルコトヲ得ト改正セラレタルガ茲ニ処分ハ自治法規ノ制定権ヲ含ミ従テ(府県制施行令第43条、第44条等)条例ヲ以テ規定スベキ事項ヲモ委任シ得ルモノト解スルハ妥当ナラザルガ如ク考ヘラルモ、実際ノ行政ヨリスレハ其ノ一部ヲ委任シ得ト解スルヲ便宜トス然シ便宜如何ニ拘ラズ同条ノ趣旨ハ法規ニ関スル事項ハ素ヨリ条例ヲ以テ規定スベキ事項ハ委任〔法180条:議会の委任による専決処分〕ノ限リニ在ラズト解セサルベカラサルヤ(神奈川県)
答 議決ニ依リ府県知事ニ於テ専決処分ヲ為スハ軽易ナル議決事件ニ限ルヲ妥当トスベク条例ノ設置廃止ノ如キ事項ヲ委任スルガ如キハ性質上適当ナラサル義ト存ズ
そこで税条例の改正は、一般的には3月定例会が閉会した後の年度末に起こる事象であることから、法179条によるのであれば、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるときに該当するとして、また法180条における軽易な事項としてあらかじめ税条例の改正を議会の委任に基づく専決事項とすることにより措置することは考えられる。
これらの専決処分がなされると、法179条による専決処分においては、次の議会において議会の承認を必要とする。なお専決処分の報告が否決された場合は、長において適当な処分を講じる必要がある。法180条による議会の委任に基づく専決処分が行われると議会に報告する必要があるが、議会の議決までは要しない。
【法179条】
② 前二項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。
【法180条】
② 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
議会の意思決定機関としての役割を十分に果たすとした場合に考えうる方法としては、3月定例会が閉会しているとの前提に立った場合は、税条例の改正を告示事件として臨時会を招集することが考えられる。また、3月定例会が閉会していないならば、地方税法の改正がなされ税条例の改正案が提出されると見込まれる期間まで定例会の会期を延長することが考えられる。
どちらも可能な手続であるが、地方税法の改正に伴う税条例の改正は事務的な処理で政策判断をあまり要しないと考えると、今までどおりの専決処分による対応となると考えられる。
どこまで議会として直接審議の対象とし意思決定にかからしめるかは、各議会の判断によるところであるといえる。
なお、法102条の2における通年会期を採用している場合は、法179条に基づく専決処分を行うことはできないので注意が必要である。