2018.11.12 政策研究
第2回 総合計画のチェックポイント①(計画の構成)
大和大学政治経済学部准教授 田中富雄
1 総合計画が持つ、将来を予測し政策を調整する機能
総合計画は、当該自治体の最上位計画であり、自治体における分野別計画を制御し、予算編成の指針となるものです。
総合計画は、その実行段階において常に予測と調整を繰り返すことになります。このため、総合計画には計画の実施過程や評価過程において議論が可能となるよう事業以外の内容も含まれていることが求められます。現状と課題なども、漏れなく記載されていることが期待されるということです。計画に事業名を列挙しただけでは、その事業の必要性が見えにくいものです。その意味では、計画はコンパクトという選択よりも、多少厚くとも重たくとも現状と課題を漏れなく書き込んだ計画とする必要があります。頁数の多い計画でも、当該事業の実施に際して読み込む必要のある頁は、せいぜい2頁程度のことでしょう。現状と課題についてあまり記述されていない計画は、地域の課題を隠蔽する計画、改ざんする計画と呼ばざるを得ません。
では、総合計画は具体的にどのような構成や内容となっていることが期待されるのでしょうか。本稿では、このうち計画の構成について考えていきます。なお、総合計画は、その策定根拠を自治基本条例、議会基本条例、総合計画条例などに規定する例が多く見られます。
2 総合計画のチェックポイント(計画の構成)
総合計画(書)は、様々な要素で構成されています。そして、次のようなチェックポイントがあります。自らの自治体の総合計画や現在策定中の計画案と比較してみましょう。
〈ポイント 1:魅力ある表紙になっているか?〉
総合計画の表紙には、当該自治体の目指す将来都市像と自治体の置かれた環境が明示されているでしょうか。第○次□□総合計画の文字も必要ですが……。
自治体の置かれた環境については、例えば、我がまちを中心にして同心円を20キロメートル、50キロメートル、100キロメートルなどの距離で描き、地理的見地から自治体の歩む方向性を示すことも1つの方策です。このことは、自らの自治体の広域的な役割を確認することや、周辺自治体にある資源をどう活用できるかについてのイメージを膨らませることにもつながります。
〈ポイント 2:あいさつに首長と議長の決意が表れているか?〉
多くの総合計画では、表紙を開くと首長のあいさつが載っています。首長はあいさつの中で、計画に位置付けられた政策を計画期間内に達成するという強い決意を示しているでしょうか。
また、基本構想はもちろんのこと、基本計画についても議決事件としている自治体が増えています。総合計画の表紙を開いたとき、首長のあいさつだけでなく、議長の決意あふれるあいさつも載っているでしょうか。
〈ポイント 3:内容が分かる目次になっているか?〉
目次は、計画の全体像を示すことのできる重要なものです。見開き一覧で計画の全体像が確認できるよう工夫されているでしょうか。一覧にすることができたとしても、内容が分からなくては機能半減となってしまいます。見開きで、項目の具体的な内容まで記載することが難しい場合には、当該項目が載っている頁の冒頭に、改めてその部分の詳細な目次を入れる方法が考えられます。
〈ポイント 4:計画の位置付けが明確になっているか?〉
総合計画は、自治体が取り組む政府政策の政策集としての自治体計画であるとともに、地域の様々な主体が担う役割や行動の指針を示す地域計画でもあります。そのことを踏まえた計画になっているでしょうか。
つまり、市民、団体、企業、他の自治体、国などの政策主体が、当該自治体のエリア内で、どのように行動すべきかということが、自ら把握できる計画になっているでしょうか。そうなっていれば、総合計画への関心が高まることにつながります。
〈ポイント 5:自治体を取り巻く環境・時代の潮流を見極めているか?〉
自治体は、様々な環境の中で活動しています。したがって、環境が変われば、その影響を受けることになります。社会・経済・自然など様々な環境の変化、新たな時代の流れが起きることがあります。目覚ましい技術革新が生じるかもしれません。
総合計画は、これらの変化を予測し、見極め、計画の実行段階においても政策を調整しうる機能を果たすことが期待されています。
〈ポイント 6:当該自治体の地域性・固有性を見極めているか?〉
自治体では、その都市に固有性の高い変化が起きることがあります。例えば、大規模な商業施設が撤退するような場合です。また、自治体の区域を超えて地域性の高い変化が起きることもあります。例えば、首都近郊にあって現在も人口が増えているような自治体では、他の自治体との比較において、今後急速な高齢化の進行が予測されます。
総合計画には、これらの変化を予測し、見極め、地域の課題として認識し、具体的な政策の決定に影響を与えることが期待されています。
〈ポイント 7:市民や関係者の意向が考慮されているか?〉
市民意識調査などにより、定住意向、生活環境の納得度、まちの魅力、まちの将来像、力を入れて取り組むべき政策分野が把握されているでしょうか。また、転入・転出見込者、公共交通事業者、子育て事業者、医療事業者、福祉事業者、商業者などの意向がどのようなものであるか把握しているでしょうか。
これらが把握されていなければ、計画は画餅に帰することになります。
〈ポイント 8:課題が隠蔽、改ざんされていないか?〉
総合計画は、地域の課題を克服し、地域を将来のあるべき期待される姿へと近づける政策集です。そこでは、なぜその政策を計画に位置付けるのかを明らかにするためにも、課題を計画に示す必要があります。
課題はややもすると隠蔽しようという気持ちを引き起こすものです。課題が隠蔽されていないか。改ざんされていないか。悪意がなくとも課題の表し方が不適切なものになっていないか。改めて確認してみましょう。
〈ポイント 9:リーディング・プロジェクトが位置付けられているか?〉
総合計画に、リーディング・プロジェクトが位置付けられているでしょうか。リーディング・プロジェクトの実施が、総合計画に位置付けられた個々の事業の効果を高めるよう関連付けられているでしょうか。
〈ポイント 10:分野別計画と地域別計画が位置付けられているか?〉
1つの自治体の中でも、地域により取り組むべき課題は様々です。ある地域では人口が増え、小中学校の教室が足りないという課題があり、別の地域では児童生徒数が減り、学校を統廃合しなければならないという課題があります。
このような地域別の課題に対しては、分野別計画と地域別計画の両方が総合計画に位置付けられ、それぞれの課題を可視化し、明らかにした上で対応することが求められます。
〈ポイント 11:担当課・関連課一覧が載っているか?〉
総合計画を策定しても、この政策はどの部署が取り組むのかということが明らかでないと、いざその政策に取り組もうとしたとき、どの部署も「私の部署が担当ではない」として、引受け手がないということが起きるものです。職員の定数削減と経験豊富な職員の定年等による大量退職を経た今日、人口減少・少子高齢社会への対応や子育て支援、公共交通機関の確保など様々な課題への対応で業務が拡大する中、どの部署も余力のない状況に陥っています。
そもそも、組織と業務と人員との間には、最適という関係が築かれているわけではありません。ズレが生じています。そのようなことも積み重なり、「私の部署が担当ではない」という発言が出やすいものです。そのような発言をなくし、本来の担当課を明確にするためにも、担当課を明示することが必要となります。関連課についても同様のことがいえます。担当課があるのだからといって全てを担当課に押しつけてはいけません。計画に担当課・関連課が明記されていることは、担当課の責任の所在と関連課の連携・協力の必要性を事前確認する意味で重要です。このことをチェックしましょう。
〈ポイント 12:関連施策一覧が載っているか?〉
総合計画には、たくさんの施策が位置付けられています。ある施策を実施することが他の施策にどれだけの波及効果をもたらすかということが可視化されることで、総合計画の目指す将来都市像の実現のために、どの施策に人員や予算などの資源をどう投入すれば効果的かつ効率的かということが確認できるようになります。総合計画に、この関連施策一覧が位置付けられているかをチェックしましょう。
〈ポイント 13:「総合計画関連計画」の概要が載っているか?〉
総合計画の内容を計画どおり実行するためには、この職員数で、この予算で、この施設で、総合計画の内容となっている政策を実現するという覚悟が求められます。そして、この覚悟を可視化し、市民に対して示す定員計画、財政計画、公共施設等配置計画などの「総合計画関連計画」が必要となります。
総合計画の策定と同時にこのような計画が策定され、その概要が総合計画にも示されているでしょうか。関連計画の概要が載っていない総合計画は画餅となります。
〈ポイント 14:指標の考え方と算定根拠が一覧として載っているか?〉
近年策定される総合計画の多くに指標が示されています。なぜこの項目が指標となっているのか。その数値の算定根拠はどのようなものであるのか。この確認なくして指標について議論しても意味がありません。
また、これらの内容が一覧として示されることで、指標間の比較をすることも可能となります。
〈ポイント 15:他の計画の進行管理機能を担っているか?〉
総合計画は、当該自治体における最上位の計画として他の自治体計画を制御する機能を持ちます。しかし、行政改革についての計画や人口ビジョン・総合戦略など、その内容が総合計画と幅広く重複する計画については、総合計画との関係性が確認できる内容を総合計画に位置付け、総合計画とともに進行管理することが期待されます。
例えば、自治体は従来から行政改革に取り組んできましたが、総合計画やその進行管理とは別に、行政改革のための計画を策定してその進行管理をすることは、ややもすると二重計画行政に陥ります。行政改革の取組みであっても、総合計画全体の中での位置付けが必要となるからです。行政改革大綱や行政改革推進指針レベルの計画については廃止し、総合計画で兼ねることが期待されます。人口ビジョン・総合戦略についても、総合計画の一部分を人口ビジョン・総合戦略とし、実質的に1つの計画で対応することも可能です。
〈ポイント 16:計画体系一覧が載っているか?〉
自治体の計画体系は、頂点とする総合計画と分野別計画(中間計画、個別計画)で構成されています。総合計画の各部門につながる計画には、どのような計画があるのでしょうか。そのことを計画体系一覧で把握することにより、ある1つの分野別計画を策定するとき、同時に見直しが必要となる分野別計画を予測することができます。
〈ポイント 17:地域生活環境指標(図)が載っているか?〉
皆さんの自治体では、道路、公園、学校など地域に必要な施設の状況を「地域生活環境指標(図)」として把握しているでしょうか。そして、必要なそれらの施設は整備されているでしょうか。これらの施設は、行政の所有物である必要はありません。個人所有の土地や建物を行政や地元自治会等が借用する施設も地域生活環境指標(図)に位置付けることができます。
これからの時代は、ますます人口が減少し、年齢構成も変動し、地域に必要となる施設も変わってくることでしょう。その検討をするためにも地域生活環境指標(図)が必要です。
〈ポイント 18:支援策一覧が載っているか?〉
総合計画は、地域の市民、NPO、企業等が公共政策を担う場合の活動の指針でもあります。可能な範囲内ということになりますが、これらの主体に対する支援策を掲示することも総合計画には期待されます。支援策としては、人的支援、財政支援、施設支援、情報支援など様々なものが考えられます。
〈ポイント 19:策定経過や策定体制が載っているか?〉
総合計画の策定経過や策定体制が計画書に記載されているでしょうか。どのような市民参加や関係者の参加があったのか、専門的知見の活用はどのようなものであったのか、行政内部における議論の体制は多層式に整備されていたのか、議会との議論の仕組みはどのようなものであり、議会内での議論の仕組みはどのようなものであったのかが、計画書に明示されていることが期待されます。反省点も含め、次の計画策定時の参考にもなります。
もちろん、そこでの資料や会議録などの詳細は、自治体のホームページ等に譲らざるを得ないかもしれませんが、自治体の作成しているホームページからも議会主催の会議や議論の内容が一体のものとして把握できるようになっている必要があります。議会のホームページについても同じことがいえます。
また、これらの議論の資料や記録は、自治体にとって極めて重要な資料であり、永年保存する必要があります。次の計画が策定されたからといって安易に廃棄・ 削除することは、議論という地域の宝を放棄する悪行といわざるを得ません。
〈ポイント 20:計画が分かりやすいか?〉
どんなに計画の内容が良くても、計画を読む人にとって分かりにくいものであっては、計画が効果を発揮することはできません。計画では、専門用語をなるべく使用せず、どうしても使用する必要がある場合には、説明を付けるようにしましょう。
〈ポイント 21:計画が容易に入手できるか?〉
計画の内容が良く、分かりやすくても、計画を入手することができなくては、計画が効果を発揮することはできません。市民をはじめ計画に関心を持つ人々が容易に計画を入手できることが求められます。
総合計画をはじめ当該自治体で策定している計画のリストを、自治体のホームページや広報紙等で繰り返し周知することも必要でしょう。
〈ポイント 22:盛り込まれなかった政策も参考資料として位置付けているか?〉
計画に盛り込まれなかった政策を参考資料として計画書に掲載しておくことは、将来あるいは急な環境変化が生じたときに使用しうる政策メニューをあらかじめ整えておくことにつながります。
また、今回の計画には位置付けられなかったけれども議論されたということが計画書においても可視化されることで、計画ないし計画に位置付けられた政策の受容性が高まることにもつながることでしょう。
〈ポイント 23:推進のための取組みが載っているか?〉
計画は決定されただけでは実行されません。実行されるためには、さらに計画を推進するための取組みが必要となります。計画の周知、進行管理、検証のためのシステムを構築した上で、運用することが求められます。計画の周知、進行管理、検証についての具体的な方策が計画に位置付けられているでしょうか。