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2018.09.25 議会改革

第22回 評価による議会からの政策サイクルのバージョンアップ(下)

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 『手引書』には、議会からの政策サイクルに基づく成果と、その議会からの政策サイクルそのものが示されている(7)が、そこには2つの評価の位相があることを指摘したい。1つは、議会からの政策サイクルによって生産した政策(政策提言・監視)の評価である。この位相では、アウトプット(出力:生産物)は明確になっているが、アウトカム(成果:住民福祉の向上につながったか)は検討されていない。もう1つは、政策サイクル自体の評価である。この位相では、サイクル(システム)を提示しているものの、それが住民福祉の向上につながっているかの評価は行っていない。ここで対象外となっている事項(アウトカム:政策サイクルが住民福祉の向上に役立つ)は、会津若松市議会は、当然それらについては住民の福祉向上に直結していると考えているためである。
 それらを含めて議会運営と住民福祉の向上に役立ったかの評価を、自己評価とともに外部評価に連動させる必要がある。
 なお、会津若松市議会の場合、「議会白書」というサブタイトルが付してあるが、福島町や芽室町などのように議会基本条例項目を踏まえた項目とはなっていない。資料編には、議会基本条例・議員政治倫理条例の説明はあるが、これに基づく評価は行われていない。議会運営の評価を議会基本条例の項目を中心に行うことも検討してよい。もちろん、会津若松市議会は議会制度検討委員会(議員とともに住民によって構成)で様々な改革を行っている。そこでの検討の素材としてもよい。また、会津若松市議会の議会からの政策(形成)サイクルでは、4年間やそのつどの(陳情・請願、市民との意見交換会を踏まえた)目標設定は明確になってはいるが、『手引書』には掲載されていない。
 『手引書』は、参加の手引が主になっているためである。今後の課題として、これらを考慮した内容とする必要がある。

* * *

 議会改革が目的ではなく、それを住民福祉の向上につなげることを強調してきた。その重要な手法が議会からの政策サイクルであった。議会基本条例に刻み込まれた議会運営を行いながら、住民福祉の向上に向けたサイクルである。これを適切に作動させるためには、評価が不可欠である。
 そこで、議会運営と住民福祉の向上といった2つの領域での評価の必要性を本連載で強調した。前者は、議会基本条例条文を素材とした評価、後者は議会からの政策サイクルの評価である。議会からの政策サイクルには、政策そのものと、政策サイクル(システム)が含まれる(2つの位相)。これらは、自己評価(議会・議員評価)とともに、外部評価(第三者機関による評価)が必要となる。
 本連載では、この議会からの政策サイクルの作動と評価の理論と実践、そして課題の一端を確認してきた。実践はこれからだと思われる。今後の実践の中で、さらなる理論化と課題が求められるであろう。本連載は、そのための素材を提示した。
 なお、議会は「住民自治の根幹」である。この議会からの政策サイクルを住民自治の展開に連動させる視点を持つことが必要である。新たな議会運営、住民福祉の向上のための議会からの政策サイクルもその要素である。同時に、これらの評価を選挙に活用することも不可欠である。選挙時の情報提供として議会からの政策サイクルの評価は不可欠である。すでに指摘した宝塚市議会基本条例の「議会改革検討委員会は、議会の一般選挙が行われる3か月前までに、この条例の目的が達成されているかどうかを検証する」という条文は、このことの制度化である。
 本連載では、議会改革の本史の第2ステージをⅠとⅡに区分している。前者の第2ステージⅠは、住民福祉の向上を目指すものである。ここでも選挙は重要な要素となるが、第2ステージⅡは、住民自治を進める段階であり、主権者教育を踏まえた選挙の活性化が課題となる。これに進むための活動が第2ステージⅠであることも指摘しておこう。

~理解をさらに深めるために~
① 議会からの政策サイクルの意義(本連載第13回、第14回)を再確認する。
② 議員・議会事務局評価の手法と連動させる。
③ 評価と選挙の関係を探る。


(1) 議会改革の4つの要素を設定して、次のような関係を明らかにしている。①市民参加の有無が議案賛否公開、議員間討議の実施、議会基本条例のそれぞれの有無に有意な影響を与えている、②議員間討議の実施の有無が議案修正の経験、議会基本条例の有無に有意な影響を与えている、③議員個人の議案賛否の公開の有無が議案修正経験、議会(議員)立法経験、議会基本条例の有無それぞれに有意な影響を与えている、④議案修正の有無が他の変数から作用を受ける改革の成果とともに、議会(議員)立法経験の有無に有意な影響を与えている、というものである。
(2) 諫早市議会では、2014年に議会基本条例を制定し、その条文に規定された検証を2015年から毎年行っているが、2年目に外部評価を導入している(専門的知見の活用)。
(3) 長野県飯綱町議会『飯綱町議会白書』では、住民アンケートと議会改革度調査ランキングが外部評価項目に含まれている。
(4) 福島町議会の運営に関する基準(第16章 議会白書)では、「議員の名簿、構成、議会運営や会議の開催状況等をまとめた議会の概要及び開かれた議会づくりの足どりや取り組み事項及び議会、議員の評価等をまとめた開かれた議会づくりの概要を年度のはじめに作成し、これを公表する。/2 議会白書、議会の評価及び議員の評価について必要な事項は、別に要綱で定める」となっている。
(5) 議会による行政評価(事務事業、議会報告、諮問会議の答申、政務活動費、福島町議会を視察した市町村等、会議・行事等の出席状況、議長・副議長、議会の評価・議員の自己評価の結果)が含まれている。
(6) 「議会白書」という名称は付けていないが、議会改革を検証している議会は少なくない。例えば、北海道斜里町議会議会のあり方調査特別委員会「議会のあり方調査報告書」(2018年6月22日)「議会のあり方調査報告書 附属調書(付属資料・参考資料)」(2018年6月22日)は網羅的な検証が行われている。なお、議会基本条例の検証に当たって、詳細な検討を行っている議会もある。その際、会派間調整等に膨大な時間を費やしている議会もある。その意欲は重要であるが、目的は検証ではなく、次のステップに進むことである。地方自治の原則に即した3要素(住民と歩む議会、議員間討議を重視する議会、首長等と政策競争する議会)を中心に大まかに検証する必要があろう。「木を見て森を見ない」検証は、目的と手段を混同する。
(7) 議会からの政策サイクルによって生産した政策(アウトプット)に関する評価についての詳細は、政策討論会分科会の報告書に詳しい。これをコンパクトにした内容の一端は白書で示されているが、白書にはその連動の記載はない。コンパクト化と連動が今後の課題であろう。

〔参考文献〕
◇秋吉貴雄(2017)『入門 公共政策学──社会問題を解決する「新しい知」』中公新書
◇江藤俊昭(2012)『自治体議会学──議会改革の実践手法』ぎょうせい
◇江藤俊昭(2016a)『議会改革の第2ステージ──信頼される議会づくりへ』ぎょうせい
◇江藤俊昭編著(2016b)『自治体議会の政策サイクル』公人の友社
◇長野基(2012)「議会基本条例が議会活動に与えたインパクト──制定・未制定議会の分析から」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編著『議会改革白書2012年度版』生活社
◇長野基(2013)「議会改革の“成果”と議会(議員)立法」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編著『議会改革白書2013年度版』生活社
◇日本経営品質委員会編集・発行(2013)『2013年度 日本経営品質賞 アセスメント基準書』
◇本連載第13回、第14回

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