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2018.08.27 政策研究

第8回 住民の概念を広げ、自治力を強化する“ふるさと住民票”の取組み~香川県三木町~

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ふるさと住民票とは何か

 「ふるさと住民票」というのは、まちづくりの担い手を地域外の人にも広げようという新しい取組みで、民間の政策シンクタンク「構想日本」(加藤秀樹・代表)が2015年に提唱したものだ。
 現在、日本各地で人口減少が進む一方で、住民の働き方や暮らし方も大きく変化している。1つの自治体に住民登録し、そこに地方税を支払い、そこから行政サービスを受けて自らの暮らしを完結させている人は、かつてほど多くない。むしろ、住民登録した自治体以外での生活の比重も増しているのが、実態だ。仕事や就学はもちろん、親の介護や休暇、さらには週末居住といった複数居住のライフスタイルが広がっている。また、自らの故郷やお気に入りの地域に強い思いや関心を抱く人も少なくない。そうした諸々の人たちにいわば第2の住民票を発行し、地域づくりへの参加もお願いしようというのが、「ふるさと住民票」の趣旨である。「居住人口は増えなくても、“関係人口”すなわち地域に関わる人は増やせるのです。そして、その知恵や気持ちを生かせば町が元気になります。独自の知恵で居住人口よりも“関係人口”を増やす。これが人口減少時代の自治体の姿ではないでしょうか」(「構想日本」の加藤秀樹・代表)。
 その仕組みはこうだ。「ふるさと住民票」は、実施自治体に住民票のない人でその自治体を応援したいと思う人ならば、誰でも無料で申請できる。申請すると、実施自治体に登録されて「ふるさと住民票(カード)」が交付される。「ふるさと住民」になると、当該自治体から広報紙や会報紙の送付や公共施設の住民料金での利用、アンケートや交流会、意見交換会、パブリックコメントなどへの参加が可能となる。つまり、「ふるさと住民」は当該自治体から特別なサービスを受けられると同時に、地域外に住むサポーターとしての役割も期待されるのである。「ふるさと住民」への具体的なサービス内容などは、実施自治体がそれぞれ決める。
 全国で初めて「ふるさと住民票」をスタートさせたのは、鳥取県日野町。2016年2月のことで、その後、徳島県佐那河内村や香川県三木町、三豊市、徳島県勝浦町が取組みを開始。今年4月から福島県飯舘村も始めるなど、じわじわと全国に広がっている。
 「ふるさと住民は7月24日時点で466人に上っていまして、今も増えています」
 明るい表情でこう語るのは、三木町土木建設課の村尾隆明・係長。役場内にできた「ふるさと住民票プロジェクトチーム」(6人)のチームリーダーだ。

ふるさと住民の内訳と町のねらい

 三木町は昨年3月から「ふるさと住民票」の募集を開始し、1か月ほどで65人のふるさと住民を獲得した。その後も順調に増え、今や500人の大台に迫る勢いである。三木町のふるさと住民となった466人(7月24日時点)の内訳を見ると、所在地別では香川県の人が195人で全体の4割を占める。その後を東京都75人(16%)、大阪府42人(9%)、兵庫県28人(6%)、神奈川県18人(4%)が続く。年代別では40代が最も多くて約3割、これに30代(22%)、50代(17%)と現役世代が中心となっている。また、三木町との接点を見てみると、三木町が出身地だという人が84人(18%)、かつて三木町に住んでいたり、訪れたことがあるという人が71人(15%)、勤務地という人が57人(12%)だ。町との接点で一番多いのが、三木町にふるさと納税したという人たちで、160人(34%)に上る。
 三木町の筒井敏行・町長は「ふるさと住民票」を取り入れたねらいをこう語る。
 「私たちの町も人口減少に見舞われていまして、これを止めるべくいろいろな施策を打っています。しかし、人口減少を食い止めるのは容易ではなく、「交流(関係)人口」も大事ではないかと思うようになりました。通勤・通学などで町にやってくる大勢の人たちを放っておく手はないと考えたのです。(通勤・通学している人たちに)第2の住民になってもらい、三木町を応援するサポーターになってもらえたらと思ったのです。外からの視点で町のことを考えてもらうのはとても大事ですから。それで「構想日本」の指導を受けながら、ふるさと住民票の発行を始めました」(細かな経緯については筒井町長インタビューを参照)

送られてきた三木町のふるさと住民カードと会報紙送られてきた三木町のふるさと住民カードと会報紙

 三木町はふるさと住民に6つの特典を用意していた。まずは町のふるさと住民票プロジェクトチームが年2回発行する「三木町ふるさと会報紙」の送付。そして、三木町の特産品がもらえるキャンペーンへの参加である。こちらは会報紙に掲載されたクロスワードパズルへの応募という形をとっている。さらに三木町内で実施する面白ツアーへの参加や町内の図書館の利用という特典も。いずれもふるさと住民が三木町とのつながりを深めるためのもので、ふるさと住民へのおもてなしの意味合いが強い。
 これらのほかに、町長と直接意見を交わす「お食事交流会」やまちづくり政策の決定過程で住民の意見を募る「パブリックコメント」への参加が用意されている。こちらは、ふるさと住民が三木町のまちづくりに参加できる特典といえる。パブリックコメントの実施はまだないが、筒井町長との「お食事交流会」は昨年11月23日に開催された。町内にある築100年超の古民家・渡邊邸が会場となり、香川県内や徳島、大阪、千葉から12人のふるさと住民が参加した。交流会は地元食材によるオリジナル料理を堪能した後、筒井町長への質問タイムとなった。参加者から「ふるさと納税で集まったお金の使い道は?」といった質問が出されると、筒井町長は「子育て支援策として、そこに行けば子育てに関するすべてがかなう場所をつくりたい。それを通じて、三木町はより子育てがしやすく住みやすい町だということをPRしていきたい」と、丁寧に答えた。他の参加者からも様々な質問が出され、1つひとつに真摯に答える町長に接したふるさと住民は、三木町をより身近な存在に思うようになったという。一方、筒井町長にこのときの感想を尋ねてみると、「ふるさと住民の方たちからいろいろなお話を伺えて、勉強になりました。町外の視点からのご指摘やご意見はとても貴重だと思います。(ふるさと住民の取組みにより)いろいろな輪が広がっていると実感しましたし、波及効果が生まれてくると思いました」と、顔をほころばせたのだった。

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